必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 エレベーターを降りて病院前を横目で確認すると、大量のマスコミ陣がカメラやマイクをスタンバイして聖南を張っているのが見えた。

 事前に教えてもらった裏口へ足早に向かうとそこにもちらほらとマスコミがいるようだったが、ここは病院スタッフの出入り口でもあるため警備員が常駐しており、簡単には近付いてこれないようで安心する。

 待ち構えていた事務所スタッフに誘導されて裏口を出ると、そのスタッフらを乗せた一台目のタクシーが発車し、マスコミはまずそちらに流れていった。

 その隙に聖南はキャリーバッグを運転手に任せ、目深に帽子を被ったマスク姿の葉璃が先に乗車している三台目のタクシーに乗り込む。


「……退院、おめでとうございます」


 すると、無事に任務を終えた相棒のように前を向いたままの葉璃が、そう声を掛けてきた。

 三日ぶりの葉璃の姿、そしてこの秘密裏な状況も手伝い聖南のワクワクは止まらない。


「あざっす」


 あの日から葉璃は、聖南からの連絡を一度も拒まなかった。

 ごく普通のカップルのように連日連絡を取り合い今日の日を迎え、入院中の聖南の心は葉璃によって保たれていたと言っても過言ではない。

 聖南が目覚めたと知って毎日代わる代わるお見舞いにやってくる芸能関係者に、ベッド上からだがお詫びを伝える日々はなかなかに堪えた。

 そんな中での聖南の唯一の癒やしは、葉璃だった。

 どういう心境の変化なのか、聖南の好意をまともに受け取ってくれていると実感できるほど、今の葉璃は以前とは雲泥の差で心を開いてくれている。


「なんか食った?」
「お昼一緒に食べようと思って朝抜いてきたんで、腹ぺこです」
「バカ、抜くなよ」
「ふふっ」


 ── あ、目がなくなった。かわいー……。


 葉璃が笑っている。

 未だ葉璃の笑顔を見た事のない聖南は、以前であればその帽子とマスクをすぐさま取り去って拝んでやる所だが、対峙していればチャンスはいくらでもあると、この何日かで心に大きなゆとりが出来ていた。

 葉璃の嬉しい心境の変化と、これから自宅に招くという高揚感で興奮を隠しきれない。

 だがあまりはしゃいでもカッコ悪い。努めて冷静に、無表情を装った。

 聖南の自宅マンションの地下駐車場でタクシーを降り、馴染みの運転手と目配せした聖南の隣で、スマホを持った葉璃がチラと見上げてくる。

 やはりここにもマスコミが遠巻きにいるようだったが、小柄な葉璃は出入り口付近に駐車された聖南の大きな車の影にすっぽりと隠れていて、聖南一人しか移動していないように見えただろう。

 マスコミの位置を確認し、葉璃の手を引いて足早にエレベーターに乗り込む。


「あ、あの……聖南さん、すみません。電話出てもいいですか?」


 先程からバイブ音がしていると思ったら、葉璃のスマホだったらしい。


「いいけど、誰?」
「佐々木さんです」
「…………いいよ」


 葉璃の仕事である影武者の話だといけないので渋々と許した聖南だったが、葉璃に気があるかもしれない男との会話は堂々と盗み聞きをする。


「もしもし。……あ、はい、お疲れさまです」


 聖南の部屋がある十二階に到着したので、通話中の葉璃の手を引き自宅の扉を開けた。

 お邪魔します、の意味なのかペコッと頭を下げて入って来る葉璃の頭をヨシヨシしてやりながら、玄関先から上がらないままの盗み聞きは続く。


「え、家に来てるんですか? あー……でも俺いま家にいないんで……」
『そうなんだ。この前みたいにランチ一緒にどうかと思ったんだけど。あの話もあるし』


 電話の向こうの佐々木と葉璃は明らかに親しげで、聖南の表情がみるみる強張る。


「今日はすみません。それに、あの話は受ける気ないですから」
『今日のところは帰るけど、そう言わずにあの話は考えておいてよ』
「ん~……。考えるだけ考えます」
『考えるだけじゃダメだぞ? 前向きに頼むよ』
「まぁ……、はい、それじゃお疲れさまです」


 葉璃は小さく溜め息を吐きながらスマホをポケットに直し、聖南に「すみません」と謝った。



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