必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 食後、聖南はソファでおもむろに薬を飲んだ。そして何やら退院の時に貰ったというプリントを見ながら傷跡のケアをしていて、俺もその患部をマジマジと見てしまいギョッとなった。

 丁寧に縫われたそこは赤く腫れぼったくて、思わず目を細めてしまう。


「い、痛そう……!!」
「それがなーもうあんまり痛みはねぇんだよ」
「そうなんですか……」


 思いっきり痛そうな見た目に反して、それほど痛みが無いなんて信じられない。

 聖南が目覚めなかったから入院が長引いただけで、縫合処置が終われば帰宅できたほどなんだって。

 素人の俺には、とてもそんな風には見えない。

 何ヶ月も入院しててもおかしくないくらい、それは大袈裟でも何でもなく酷い。


「これが、何かの罰……なんですか?」


 この傷跡は、紛れもなく加害者と被害者のいる事件性のあるもの。

 逮捕されたあの女性は一体誰なのか、何でこの傷を聖南は罰だと言ってるのか、傷付けられた側の聖南がどうしてあっけらかんとしてるのか、俺には知る権利がある。

 聖南が直接教えてくれるって言ってたから、俺はお見舞いに行った日からニュースも見ていないし、もちろんネットで検索…なんて事もしてない。

 うやむやな情報を外から知るより、聖南の口から聞かなきゃと思った。

 聖南の家に来れば教えてやると言われてたから、ちょうどいいとばかりに身を乗り出す。


「……だな。俺さ、ガキの頃からこの世界にいるけど、初めはスクープだっつって騒いでたマスコミすら黙認するくらい無茶苦茶してきたんだよ」
「何をですか?」
「女関係」
「………………」


 分かってた答えなのに、いざ聖南の口から聞くと絶句してしまう。

 この先も聞きたいけど聞きたくないような複雑な思いが胸に広がって、聖南が淹れてくれた二杯目の甘々コーヒーを一口飲んで気持ちを落ち着かせる。

 そして聖南もいつものチャラい雰囲気をすっかり消していて、苦々しい口調で続けた。


「考えナシだったって今なら分かる。俺最低だって」
「……な、なんとなく分かりました。あの……あの人は誰なんですか? 聖南さんを傷付けた人……昔の恋人とかですか……?」
「違げぇよ。全然知らねぇ女。俺に抱いてもらいに来たんだと」
「……だ、抱いてもらいに……」


 すごい世界だ。そんな事がほんとにあるの。

 芸能人らしい浮世離れした話だけど、紛れもなくこれは聖南本人の話で、それでも、一途に俺を想ってくれてる聖南しか知らない俺にとっては信じられない……信じたくない話だ。

 事件と傷跡がすべてを物語ってはいるけど。


「な? 俺がいかに最低野郎だったか分かるだろ? だから罰なんだよ。派手な衣装着て歌って踊って、笑顔振りまいて喋ってる俺も間違いなく俺なんだけど、心がないっつーか……気付いたら収録とか撮影終わってる事が最近多くなってた」
「…………心……」
「でもな、それってCROWNとしてデビューする前はそうだったってだけで、マジで最近までは上手くやれてたんだよ。だから自分でも訳分かんなくて。スイッチのオンオフが下手になっちまってたんだろうな。帰れば独りだし、男だからどうしても溜まるし……つい、ってやつ」
「独り……? 聖南さん、両親は?」
「父親はテレビ業界と繋がってるでっかい会社の重役で、ほとんど会わないから顔も思い出せねぇ。母親は……知らねぇ」
「え……!?」
「葉璃にだから話すんだぞ? 俺のいいとこも悪いとこも全部知っててほしいから。葉璃の事を真剣に好きでいるためには、話しとかないと。外野は好き放題言うだろうし」


 車で拉致られた時はここまで深い話はしていなかったから、あの時は聖南の中でストップを掛けてくれていたのかもしれない。

 俺が聖南と同じ気持ちになったからこそ話してくれてるんだって、その寂しげな表情がすべてを物語っていた。


「聖南さんはもう大人だし、芸能人だし、カッコイイから、その……女の人がたくさん居て遊んでたんだろうなっていうのは何となく分かってました。傷の事も、何となく理解しました」
「″何となく″多くね?」


 俺は必死で答えているのに、聖南はあっという間に笑顔になってしまっている。

 そんなに変なこと言ったかな……。


「でも、両親の事は知らなかったです……何と言っていいか……」
「何も言わなくていいって。黙って聞いてくれて、″何となく″分かってくれたんなら、それで十分」


 「何となく」を強調しながら言う横顔はもういつもの聖南に戻っていて、高い鼻筋を見ながら改めてカッコイイ人だなぁと見惚れた。

 あんまり聞きたくなかったけど、ここまでまっすぐにバカ正直に話す理由を聞けば、俺は一つも咎められない。


「親の事はまぁ追々な。俺ももう成人越えてるし、今さら仲良くしよーとかさらさら思わねぇから。葉璃がそんな泣きそうな顔すんな」
「……はい……」
「俺は自分の親の事より、今までの無茶苦茶の方が言いにくかったんだけど……」
「あ、……それは気付いてたっていうか、聖南さんがそういう事しない方が不自然っていうか……」
「はぁ?」


 聖南の過去の女関係がどうだったかなんて、俺には今までもこれからも縁のない事だから想像すら出来ないってのが本音だ。

 想像も出来ない事を、どうこう言ったり傷付いたりするはずがない。



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