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「葉璃ー起きろー」
「ん……」
遠くで、聖南の優しい声が俺を呼んでいる。
温かい空間と時間が、俺のうっかりで早くも終わりを告げようとしていた。
「そろそろ帰んねぇと」
「えっ!? も、もうそんな時間ですか!?」
急に現実に引き戻されて飛び起きると、頭上に聖南の顔があって俺は「ん?」と違和感に気付く。
「すみません! いつの間にっ」
聖南を膝枕してあげてたはずが、いつの間にか逆になっていた。
退院直後の怪我人である聖南の膝で、俺は呑気に寝てたみたいだ。
飛び起きた状態のまま何とか思考を巡らせようとするのに、寝起きの頭は全然働かない。
ただただ、どういう事かと狼狽えるだけだった。
「何で謝んの? 葉璃の膝枕、超気持ち良かった。あんなに落ち着いて寝れたの何年ぶりかってくらい」
「俺がされてたら意味ないですよ……」
「俺も膝枕してあげたくなったからいいの。寝顔可愛かったから舐め回すように見てたし。てかそれよりマジで帰んねぇとヤバイ。日が暮れる」
猫にするように俺の顎を指先で触ると、聖南は立ち上がって車のキーを持ち出してきた。
── 嫌だ、帰りたくない。このまま聖南と一緒に居たい。
病み上がりで運転させるわけにはいかないって理由はほんの少しだけで、俺は駄々をこねるようにソファから動かなかった。
「……泊まっちゃダメですか……?」
「別にいいけど」って言ってくれると期待しながら勇気を出してみるも、聖南はなかなか立ち上がらない俺の傍へやって来て甘やかすように頭を撫でた。
「ダーメ。明日も学校だろ? 制服とかどうすんの。てかな、学生のうちは学校行っとけ、後々後悔しないように」
……なんて、大人みたいな事を言う。
どうしても帰りたくない俺は、聖南の服の袖口を引っ張り、見上げた。
「ここから通う」
「…………どした? 寂しいの?」
「…………」
嬉しそうに聞いてくる辺り、絶対俺の気持ちに気付いてるはずなのに、「ん?」と返事を促してくる。
俺が他人にワガママを言うなんて自分でもビックリだけど、ほんとに帰りたくないんだからしょうがない。
何をするでもなく、ただ一緒にいたいんだ。
「はーる。あのな、俺も一緒。分かってるから。葉璃が次の日休みだったらいつ泊まってもいい」
「……ヤダ。今日がいい、です」
「……ちょ、もう……マジでかわいーんだけど! 俺が必死でかき集めてる年上の余裕無くなるからやめろ、それ」
そんな事知らない、と俺はそっぽを向いて抵抗した。
「なぁ、葉璃? 俺も葉璃と一緒に居たいけど、今日はダメ」
「何でですか」
「何でってなぁ……。葉璃が高校卒業するまでは俺も勝手できねぇよ。卒業しちまえば俺が出しゃばっても文句言わせねぇけどな、後々、葉璃の親に葉璃をくださいって言いに行くためには、線引きはちゃんとしときたい」
頑なに頷いてくれない聖南に怒りの目を向けてたけど、そう言われてしまっては俺が幼稚過ぎだったと反省するしかない。
そんなに先の事まで考えてくれてたなんて……感動すら覚えた。
最低でも高校までは親の管理下だからと何とも紳士的な発言に、ワガママ言ってた自分が恥ずかしくなる。
「…………分かりました。でも聖南さんが送ってくれるのはナシで。退院したばっかで体が心配だし、それに、外にはカメラ持った人たくさん居たから」
「分かってくれたか?」
「俺がまだ学生だからってちゃんと考えてくれる聖南さんのこと、もっと好きになりました」
夕陽が射し込んでくる部屋は一段とムーディーになってきて、この陽が沈む前に帰らなきゃと思ってようやく重い腰を上げた。
聖南は立ち上がった俺をギュッと抱き締めてくれて、また背中を優しく撫でてくれる。
「はぁ……。葉璃、早く大人になれ」
こんな意味深な事を呟かれても、聖南から発せられる言葉は俺には全部甘い囁きにしか聞こえない。
身長差があり過ぎて聖南の胸元にきつく押し付けられた俺は、とんでもなくドキドキしてしまった。
自分の中で誤魔化すように、「傷口痛くないのかな」と斜め上な事を思いながら、聖南の胸に身を預けた。
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