必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 すでに足の捻挫も手首のヒビもほとんど完治の方向らしく、いつもの調子が戻っている春香はプンプン怒っている。

 自分の性格はよく分かってるつもりだったけど、聖南と恭也は俺より俺が分かってるみたいだ。

 そんな事ないって言い切れない俺は、根暗だとか卑屈っぽいとかを自覚する前に、自分を犠牲にしてるなんて思ってもみなかった。

 俺に関わる人みんなが、嫌な思いをしないように、俺が我慢して解決できる事があるなら喜んですべて飲み込もうとする。

 そこでふと、アキラさんが言ってた事を思い出した。

 聖南もああ見えて、俺と同じだ……って。

 ただ一つ俺と違うのは、聖南は何かを背負い込んでも、時がくれば爆発させられる前向きさ……意志の強さがある。

 無かった事にして何も言えない俺とは、それは雲泥の差のように思えた。


「あのね、人の性格って簡単には変わんないと思うから、その葉璃の超ーーネガティブなとこもそうそう変わんないよ。だけど、葉璃を必要としてる人を突き離すのは、違うと思う。よくないことだよ」
「…………うん……」
「セナさんの事好きなんでしょ?」


 一つ溜め息を吐いた春香に真剣に問われ、核心を突かれた俺が黙ってしまうと、返事を促すようにもう一度同じ事を言われた。

 長い沈黙の後、観念した俺は静かに頷く。


「でも、待って。ちょっと時間が欲しい。俺もよく考えての結論だったんだ、一応……。だから、もう少しだけ」
「…………分かった。はぁ、私もつくづく葉璃には甘いよね。その上目遣い、子猫みたいだからつい、いいよって言っちゃう」
「……子猫? 同じ顔なのに」
「そういう事じゃなくて。ま、セナさんにはそう伝えておくね。葉璃、逃げちゃダメだよ? ちゃんと前向きに考えて」


 時間が欲しいと伝えただけで子猫呼ばわりされたけど、言いたい事を言っても平気な事もあるかもしれないって、今ので少しだけ分かった気がする。

 流されるままに生きていくのはもう俺もツラいって、どこかで感じていたのかもしれなかった。

 眠そうに目を擦り始めた春香が、話は終わりとばかりに扉まで向かう背中に、


「あ、……ごめん春香、迷惑掛けて。ありがと」


と言うと、レアな笑顔で答えてくれた。


「……セナさんにさっきのちゃんと伝えるけど、そんなの知らないって葉璃に連絡はくるかもしれないからね。そのあとはちゃんと自分で責任持ってよ。じゃ、おやすみー」


 シャワー浴びなよ、と付け加えて出て行った春香は、今までの俺への強めの態度はひょっとして、俺のグジグジな性格を理解してくれてるがゆえの、あえてのものだったのかもしれないと気付いた。

 俺と春香の性格があまりに違い過ぎるから、幼い頃、春香直々に「葉璃見てたらイライラする!」と幼心に傷付く台詞を吐かれた事もあったけど、確かに俺でも俺みたいな奴はイライラすると思う。

 それでも人ってのは簡単には変わらないし、ろくに友達を作らなかった俺に指摘する人も居なかった。

 どんどん自分の殻に閉じこもっていってるのは自覚してても、それが俺にとっては普通だったから気付くはずがない。

 高校で出会った恭也は、無口で人見知りなようだけど、席替えで席が前後になった俺に何故か心を許してくれて、会話らしい会話を毎日交わしてるわけでもないのに、春香にあんな事言ってたなんて驚きだった。

 俺自身も気付けなかったほど、鎧みたいに作った殻は物凄く大きくなってたんだ。

 そんな俺と友達になってくれて、お見舞いにまで来てくれたらしい恭也。

 すべてを理解してくれて大好きだと言ってくれる聖南……。

 俺は、大好きで大切な人をこのままあっさり手放してもいいのか、答えの出てる分かりきった事をまた悩んだ。

 逃げを正当化してもダメだってちゃんと分かってる。

 でも聖南は俺には眩し過ぎて、遠い世界の人みたいで、追い付いてもすぐに離されてしまいそうな、燦然たる存在なんだ。

 何故か俺を好きだと言ってくれる、そんな住む世界が違う聖南の想いに応えていいなんて、思えるはずがなかった。

 殻を破ってもまた新たに自分を守るものを蓄えてしまいそうで、考えれば考えるほど、俺は自分が嫌になった。



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