必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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─聖南─



 どんなに、やっと捕まえた!と安堵しても、すぐにこの手から逃げ去る、愛しい人。

 するりと抜け出し、もう二度と会えないよとほのめかすその巧みな逃走劇に聖南もいくらか慣れてきたつもりであったが、さすがにこれは予想していなかった。

 あんなに感じてくれて、応えてくれて、たくさん愛し合ったはずなのに。

 聖南の隣から忽然と姿を消した。

 トイレへ行くと安心させておいて、だ。

 これまでロクな睡眠を取れていなかった聖南は、葉璃が隣に居ると思うと不思議なほどによく眠れて気付くのが遅くなった。

 迂闊としか言いようがない。

 長い時間抱き続けたから、葉璃は立って歩く事すらままならない状態だったのではないだろうか。

 葉璃が居なくなってそんなに時間は経ってないと踏んですぐさま追い掛けたのだが、マンションから出て行ったところを数名のマスコミに追われ、意図せず鬼ごっこをする羽目になった。

 必死でマスコミをまいて人気のない公園で流れる汗を拭うと、大きく落胆の溜め息を吐いた。


 ── なんでだよ、葉璃……! これ以上何をどう言えばこの気持ち伝わんの……?


「分かんねぇよ……っ」


 募り続ける想いを何度訴えても逃げられてしまい、いくら聖南でもツラくなり始めている。

 そんなに聖南を信用出来ないのか、実は単に聖南の方が弄ばれているだけなのではないのか。

 葉璃の何もかもを手に入れたと思ったその日に愛を囁けないのは、精神的にきた。


「葉璃ー……」


 スマホはいつものように繋がらない。

 葉璃の考えそうな事といえば、家に帰って早く寝たい、そんなところだろうがもはや聖南にはそれしか分からなかった。


「── あ、春香? 朝早くにごめんな。葉璃いる?」


 聖南は躊躇なく春香へ連絡し、そこから春香が鬱陶しいと感じるほどしつこく葉璃の様子を尋ねた。

 寝ていると言われても避けられてると疑い信じられなくて、通話しながら顔が見られる機能を使って葉璃を映してもらい納得した。

 昨日の格好のまま、俯せになって眠る葉璃の寝顔は険しく、ひどく疲れているように見えた。

 日が暮れ、明けても、学校を休んで眠り続けている証拠を春香から見せつけられると、なんとも言えない気持ちだった。

 葉璃は無理に、聖南に付き合ってくれたのだろうか。確かに全身を強張らせてはいたが、感じていなければそう何度も射精しないだろう。

 初めてならば緊張するのも当然で、実際に聖南も興奮に紛れてかなり緊張していた。

 怪しげな発言が気になりはしたが、葉璃の体も心も、丸ごと自分のものにしてしまえた実感があった。

 だが現実はこれだ。

 捕えたと思ってもするりと逃げてしまうのは、何故なのだろうか。

 いよいよ葉璃の気持ちが見えなくなった。

 家に赴くのも断られてしまった聖南は、何も手に付かずボーッとベッドで一日を過ごし、夜が明けた。

 陽が出て来て秋の肌寒さに気付いたその時、放り投げていたスマホが鳴り響いて急いで相手を確認すると、春香からであった。


『セナさん、おはようございます。葉璃起きましたよ』
「そ、そうか……。どう? 具合悪そう?」
『いいえ、それは大丈夫そうです。葉璃から伝言を預かりました』
「…………何?」
『少し、時間が欲しいそうです』
「………………」
『セナさん、葉璃の性格よく分かってくれてると思うから言います。今は待ってあげて下さい。葉璃、何も話さないから詳しい事は分からないけど、セナさんの気持ちが嘘じゃないって葉璃も分かってると思うから……だからすごく悩んでるんだと思います』
「分かってんのかな……ほんとに」
『はい。葉璃の考えなんて全部は私には分からないけど、相手にしたくないと思ってる人に付き合ってあげるほど、葉璃はお人好しじゃないですよ。この人は自分を裏切らないって信じてる人にだけ、心を開くようなとこあるから』
「…………」


 さすが双子なだけあって、性格はまるで違えどしっかり葉璃の気持ちを代弁している。

 絶対に手に入れたいと鼻息荒くしていた当初の気持ちから、聖南の想いもだんだんと変化していて、何となく春香が言いたい事が分かるような気がした。



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