必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南は葉璃へ、想いの丈は幾度も伝えてきた。

 言葉でも、体でも、しつこいほどに追い掛け、嫉妬で我を忘れてしまうほど聖南の全身で葉璃を愛しているという事、すべてだ。

 もはや聖南が尽くせる手は皆無なので、そろそろ葉璃自身が答えを出す時が来たのかもしれない。

 聖南の気持ちを受け入れたり、拒否したり、気持ちが定まらなくて不安なのは、葉璃の気持ちがまだ聖南へきちんと向いていないからだと感じた。


「…………葉璃、元気?」
『え? あ、はい。でも今朝、喉が痛いって言ってたから風邪かもしれないですね』


 いや……それは喘ぎ過ぎたからじゃ……と思ったが、そんな事は言えないので黙っておく。


「あの、さ。葉璃が答えを出すまで、俺からはもう連絡しないし、会いにも行かないって伝えてくれる?」
『…………分かりました。セナさん、理解してくれて、ありがとうございます。葉璃を好きになってくれたのがセナさんで、本当に良かった……』


 学生である春香の朝は忙しないに違いなく、聖南と葉璃の事情で長々と引き留めておくわけにもいかないので、そこで通話を終了した。

 またスマホをベッドサイドのテーブルに放り、力なくベッドに沈んで静かに瞳を閉じる。


「……はぁ……」


 葉璃を手に入れるまでは、とにかく無我夢中だった。

 だが、少しずつ葉璃も心を開いてくれ始めた時から、聖南の葉璃への気持ちは性の対象という軽んじたものだけではなくなっている。

 卑屈で、何をやってもダメな自分というレッテルを自らに貼ってしまうほどネガティブで、物事をすべて悪い方へ考えてしまう鬱っぽいところも、それらは昔の自分を見ているようなのだとようやく気付いた。

 父親は物心付いた頃からほとんど家には居なかったし、母親は未だにどこの誰なのか、父親と話す機会もそうそう無いため聞いていないしで、聖南は常に一人で生きてきた。

 まだまだ親を信じていたかった小学生の頃、家族もやってくる学校行事毎に一人で隠れてコンビニのおにぎりを食べていた少年時代、自分は望まれて産まれたわけではないと突き付けられる度に殻に閉じこもっていった。

 ファミリー向けマンションの一室、誰も帰って来ることのない部屋で父親を待ち続ける少年の心情は、他人事のように計り知れない。

 たまにやってくるハウスキーピングのおばさんすらも、聖南が居ない時を見計らってやって来ていた。

 父親は聖南に金銭的には何の不自由もさせなかったが、愛情を注ぐこともなかった。

 昔馴染みだという大塚社長の事務所へ何も分からないうちから入れられて、そこで育てと放任された聖南にとって、親など居ないも同然だった。

 そんな状況下で殻に閉じこもらないはずもなく、暗く陰ったドロドロとした空間を聖南少年は自ら作り上げていった。

 聖南の場合は、そんな中でも負けず嫌いな性分でプライドもあり、かつ事務所内での人間に恵まれていたおかげもあって、脇道に逸れて大きな壁が立ちはだかったとしても次第に乗り越えられるようになった。

 それでも、少しずつだった。

 葉璃はきっと、あの時の聖南と似たような空間の中に居て、自身の殻に閉じこもり、周りとの接触をほとんどしないままここまでやって来たのだろう。

 自分を裏切らないと信じている人にだけ心を開く、と春香が言っていたが、まさにそれを物語っている。

 聖南のように育つ環境でそうなる場合もあるが、葉璃は至極普通の家庭環境のようなので、持って生まれた性質、性格だといえた。

 そうなると、より強固なバリケードを張っている可能性があり、だからこんなにも心を捕らえられないのだとようやく分かったのである。

 今葉璃は、聖南との事を真剣に悩んでいる最中であり、また、生まれて初めて殻を壊そうともがいているのかもしれない。


「葉璃……その殻破んの、俺が良かったなー……」


 自らの過去を引っ張り出してくる事を恐れていたせいで、葉璃の本質に気付くのがこんなにも遅くなってしまった。

 事を急ぎ過ぎたかもしれないと頭を抱えそうになるも、すべてやってしまった後なので後悔するだけ無駄だ。

 今の聖南からは考えられない、思い出すのもツラ過ぎる幼き日々も、今となってはそれがあるから強くいられると自負している。

 葉璃を好きになり、さらにまた自身の心の深さや重みを増す事が出来ているので、聖南にとって葉璃は生きていく上で必要不可欠な存在になった。

 少年時代の自分とよく似ている葉璃を思うと、目頭が熱くなってきてしまうほど切なくなる。

 どうか、その殻を破って、聖南の元へ来てほしい。

 不安や恐れなど何も与えないから、どうか、どうか、この腕に飛び込んできてほしい。

 力強く抱き締めて、「愛している」と、伝えてやりたい───。



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