必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「……めちゃくちゃ良かった。このまま死んでもいいってくらい」
「~~♪」
「~~♪」


 サングラスを掛けていて良かったと、心の底から思った。

 二人は同時に口笛を吹き、主にケイタがヒューヒュー♡と騒いでいる。

 聖南は今こそ死んでもいいというほど恥ずかしい思いをした。


 ── 言わされたとはいえ……何言ってんだ俺……!


 まるでドキドキな初体験を済ませた男子高校生の様な台詞を言ってしまった事で、アキラとケイタも聖南の本気度合を改めて実感してもいるようだ。

 いいなぁ、と二人は聖南を羨ましがり、まだ見ぬ運命の相手を妄想し合っている。

 サングラス越しにその様子を見ていた聖南は、何日かぶりに笑みが零れた。

 外出は嫌だったが、外の世界には聖南の理解者が間違いなくいるという事を痛感させられる。

 葉璃にも、心から気を許せる「友人」が現れるといい。その存在が、どれだけ心の救いになるだろうか。

 聖南との事で悩んでいても、それを分かち合う人物が居るだけで背中を押してもらえるに違いない。


 ── ……あの眼鏡マネは嫌だけど。


 唯一の理解者があの、葉璃に下心見え見えな佐々木だったら相当に考えものだと苦笑する。

 こうしている今も、佐々木に聖南との事を打ち明けているのではないかと思うと心が焼け焦げそうだ。


「なんだ、賑やかだな」


 扉の外にまで聞こえていたらしい騒ぎの中、社長が穏やかに現れて彼のご立派な革張りのソファへ掛けた。

 途端に室内はピリッとしたムードに包まれ、CROWNの三人を呼び出した張本人は一口茶を啜ると、咳払いをして三人を見た。


「音楽部門の稼ぎ頭であるお前たちCROWNには、話をしておこうと思う」
「なになに?」
「いきなりだな」


 改まった様子の社長に、アキラとケイタが首を傾げる。

 恥ずかし紛れに掛けていたサングラスを外し、聖南も社長を凝視した。


「新たにユニットを作り、デビューさせる事にした」
「へぇ、いいんじゃない?」
「なんで俺達にその話を?」


 すでに決定事項であるならば、ユニットを作る段階ではなく、デビューが決まってから言えばいいのではないかと、三人ともが思った。


「それがだな、スカウトの奴が他事務所の者を欲しがっているようなんだ。どうしたらいいだろうか」


 社長はなぜか聖南を見て話し始め、このような相談めいた話をするような人物ではない事を知る聖南は訝しむ。


「どうしたらって……んなの、事務所同士で話したらいいじゃん。ダメなもんはダメだろうし。てか大手芸能プロの社長が引き抜き云々で悩むか? どうしたんだよ」


 以前の会議では幹部達の手前、社長に敬語で話していた聖南も、今はその存在がないために遠慮が無かった。

 幼い頃から父親の代わりにこの社長が、出来る範囲でだが様々気を使ってくれていた甘えもある。


「まぁ聞け。容姿、ダンスのセンス、歌声、何を取っても今回のユニットに欲しいと熱弁されたんだが、お前たち知っているか? 倉田葉璃という者を」
「…………ッ!?」


 大塚社長が言い放った名前を聞いた瞬間、聖南はぽかんと口を開け、目の前が真っ白になった。

 よもやこんな場所で、こんな話の時に葉璃の名前が出て来るなど夢にも思わず、目を白黒させる。

 それだけでは済まず、しばし思考が停止した。


「倉田……ハル? ハル……って、まさか違うよな、セナ?」
「………………」


 勘付いたアキラがブツブツ言い始め聖南の腕を突付いて問うてくるが、そうだと頷けずにいる。


「……ハルって、その……ハル?」


 聖南の目の前でケイタも小声で聞いてくるが、潜めた声音も静まり返る社長室ではなんの意味も成さなかった。


「なんだ、やはりセナは知っているのか? 姉がmemoryという女性グループにいるそうだ」
「はい、ビンゴ」


 パチンっと指を鳴らしたアキラの隣で、驚愕したまま動かない聖南は小さく喉を鳴らした。

 「セナ、知っているのか?」と社長から再度問われたが、あまりに突然の事に思考停止状態からなかなか抜け出せない。



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