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首を傾け過ぎて、グキッて鳴っちゃったよ。
痛てて…と首をさすりながら、未だ神妙な様子の恭也の前髪を眺めて説明を待った。
「驚くよね、ごめんね。 突然、こんな話して」
「あ、いや……うん、驚くっていうか、一体何のデビュー?」
「え……っと……アイドル……?」
「…………え、? えぇぇぇぇっっ!?」
「シーッ! 葉璃、声大きい」
「ご、ごごごめんっ」
あまりの衝撃的な告白に絶叫してしまった。
慌てた恭也に口元を押さえられたんだけど、瞬きを忘れるくらい俺は驚いた。
だって、目の前のこの見るからに文系な雰囲気の恭也が、アイドル……?
それって、あの聖南と同じステージに立つって事……?
デビューが決まったって、今、そう言ったよね……?
どういう事なのか訳がわからないし、絶叫しちゃうのも無理ないよ。
「え、スカウトとか? えっ? えっ? 冗談じゃないよね?」
背が高いのを見込まれて、街中でスカウトを受けたのかと思ったけど、恭也は違うと首を振った。
「俺、中一の時から、ある事務所の養成所に入ってて、ダンスと、ボイトレを、主にやってきてたんだ」
「えぇぇ!? そ、そうなんだ!」
それはもちろん、芸能人が所属する芸能事務所の……という事だよね?
まさか事務所直々の養成所に入ってた事も驚きだったけど、恭也もダンスや歌のレッスンを受けてたと知って、あの口パクを見破られた訳がなんとなく分かった。
つくづく思い知る。
初めて出来た「友達」なんて一丁前に思っておきながら、俺は恭也の事、何も知らなかったんだ。
「葉璃も、ダンススクールに通ってるって、どこかで聞いたから、声を掛けた。 ……同じなの、嬉しかったから」
「そっか……そういう事ね……」
「それでね、そのデビューなんだけど、正直俺は、自信ないんだ。 事務所入ってたの、デビュー目指してた、とかじゃ、なかったから……」
「そうなんだ? でもさ、恭也の他にも当然レッスン生いるよね? その中から恭也が選ばれたって、すごい事だと思うよ。 おめでとう、って言ってもいい?」
ありがとう、と頷きつつ、恭也はどこかまだ迷いがあるような感じだった。
俺が通うダンススクールも、一応は ″相澤プロダクション″ という芸能事務所が運営している。
そのスクールの中で抜擢された七人のメンバーが、春香も在籍するmemoryだ。
当然、そこには選ばれなかった女の子達がたくさんいる。 それでも日々、どこかの誰かに認められたいと願っていて、デビューという大きな夢に向かって頑張ってるんだ。
何となくしか知らないけど、ほんのひと握りの人しか選ばれない厳しい世界だっていうのだけは分かる。
どういう基準なのか、それが恭也に決まったのなら喜ぶべきだよね。
それなのに浮かない顔の恭也は、突然俺の手をぎゅっと握って、切羽詰まったように見詰めてきた。
「あのね、実は……そのデビューの話、誰かとユニットを組む、らしいんだ。 俺は、その人の名前聞いて、やります、って答えた」
「……うん、それで?」
「それで……その相手が……」
「うんうん、その相手が?」
「……葉璃……っぽい」
「…………ん?」
瞬間、握られた手が二人とも僅かに震えてる気がした。
手のひらに力を込めた恭也が、これは冗談なんかじゃない、真実なんだよとそれだけで伝えてこようとしている。
目が点のまま、俺はとりあえず頭の中で整理してみようとした。
だけど、俺のデビューの件は佐々木さんに何度も断り続けてたし、佐々木さん直々に心配しなくていいって言葉をこの耳で聞いたから、それは何かの間違いだと結論付けた。
きっと「ハル」違い。 うん、絶対そうだ。 人違いだよ。
「いや、ないないないない! それはないよ」
「倉田葉璃、姉がmemoryに在籍、これだけで、葉璃だって、確信した」
「えぇっ!? そそそそれ、マジなの? どういう事? えっ?」
「葉璃がまだ、何も知らないって事は、超極秘事項……って事だね。 ここで話して、良かった。 ……俺デビューなんて、考えた事もなかったけど、葉璃が一緒なら、やってみようかなって、思った。 自信は、ないけど……」
「………………」
恭也はそう言ってさらに強く手を握ってきて、ハッとした。
俺いま、ちょっとだけ意識飛んでた。
「ちょっと待って、俺大パニック中。 恭也のデビューは驚いたけど、俺も嬉しいよ、おめでとう。 でも俺は……」
「そう、だよね……。 葉璃は、まだ何も聞かされてないから、信じられないよね。 えっと……」
「待って、待って。 俺は恭也の性格は知ってるつもりだから、恭也がそう言うのなら信じるよ。 ずっと前からmemoryのマネージャーさんにはデビューの話はされてて、でももう心配しなくていいって言われてたんだ。 ……どういう事なのか、聞いてみる。 それから色々話しよ」
「分かった、待ってる。 俺は、葉璃と同じ。 考えてる事も、きっと、同じ」
よく分からない事態に困惑している俺を理解してくれた恭也が、前髪の奥でふっと笑ってぎこちなく頭を撫でてきた。
固まったまま動けない俺は、自分の周りで何かが動き始めてる事を知って、縋るように頼れる聖南を思い浮かべてしまったけど、すぐに打ち消す。
聖南への想いが固まるまでは連絡出来ない。 たとえこんな非常事態が起こっても、だ。
まずは俺自身の気持ちを、ちゃんと決めなきゃ。
恭也が言ってた、「相応しくなればいい」。
ふとこの言葉が浮かんだ俺は、スマホを手に事情を知ってそうなある人物に電話を掛けた。
こんなの……動揺するなって方が無理だった。
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