必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 非常に離れ難いが、まだ帰さなくてはならない家がある葉璃を、聖南は断腸の思いで送り届けた。

 今日は葉璃を送りがてら玄関先まで出向き、本物の聖南に大興奮した葉璃ママと春香にも挨拶を交しての現在帰宅途中である。

 お昼を食べて、また昨夜のように眠そうに目を擦る葉璃を寝かせてやり、聖南は葉璃と恭也のデビュー曲のパート割りを、それはもうこれ以上ないほど真剣にこなしていた。

 葉璃もいる事だし一フレーズでも歌ってもらおうかと目論んだものの、葉璃の喉は喘ぎ過ぎによって完全に潰れてしまっていたので、やめておいた。

 喉が痛いという口実が現実のものとなってしまい、内心ヤリ過ぎたかな…と思ったが、可愛すぎる葉璃がいけないのだ。


『あの子は危険過ぎる……』


 まるで雰囲気の変わった葉璃の内面から滲み出る魅力が、まだ本人は全てを知らない未熟さも相まって危ない色気を放ち始めた。

 声にも張りがあり、何より「俺なんか」と言わなくなった葉璃の素直さが、聖南には眩しいとすら感じた。

 抱きたいという欲望が尽きることはなく、聖南のパーカーを着て生足を剥き出しに部屋をウロウロしていた葉璃を見ては勃起した。


「俺もう二十歳越えてんだけどな。 笑える」


 ルームミラーで苦笑する自分を見て、また思い出す。

 この眼鏡の姿に盛大に興奮していた葉璃が可愛くて可愛くて、食べてしまいたいと初めて人に対して思った。

 いつもと変わらない、むしろテレビや雑誌の仕事以外では眼鏡かサングラスを掛けている方が多いため、聖南にとっては日常の一部だったのだが。


『あー……忘れてたな。 次は眼鏡掛けたまんまセックスしよ』


 昨夜の疲労が色濃く残った葉璃を抱く事は出来なくて、かつ聖南のベッドで可愛い寝顔でぐっすりと眠っていると思うと安心して、大人しく仕事に集中していたのですっかり忘れていた。

 組み敷いた葉璃を見るため下を向き、激しく動くとどうしても眼鏡はズレるので、ヤるなら騎乗位か座位がいいかな……などといやらしい妄想に耽っていると、前の車に追突しそうになって慌ててブレーキを踏んだ。


「あっぶね……。 だから俺はもう成人してんだっつーの」


 エッチな事を覚えたての中学生男子のように、葉璃を思い浮かべるだけで気持ちが昂ぶり、興奮する。

 それもこれも、葉璃がこんなにも早く決断を下してくれたから、聖南の目の前が明るすぎるほどに開けたのだ。

 これからいくらでも時間はある。

 食べ物の好みや好き嫌いを知れただけで、満足していてはいけない。

 葉璃のすべてを少しずつ知って、葉璃にも聖南を知ってもらい、共鳴していけたらどんなにいいだろうか。



… … …


 けたたましく何度も鳴り続ける電話で、聖南は不快な目覚めを強いられた。

 あれから数日が経ったというのに、隣に葉璃が居ない事が寂しくてたまらず、葉璃が着ていたパーカーを握り締めて寝るという変態じみた暴挙に出ている。

 パーカーのおかげでせっかく夢に葉璃が出て来て温かい気持ちに包まれていたのに、何度もしつこく鳴る着信音で台無しだ。

 画面には ″アキラ″ と表示されていて、嫌な予感がして若干スマホを耳から遠ざけた。


「……もしもし」
『セナ! お前何回電話したと思ってんだよっ。   今日からCROWN始動の最終チェック入んぞ! 一時間後にツアー関係者と打ち合わせあるから、遅れんなよー!』
「……分かってるって。 俺仕事遅刻した事ねぇし……」
『んな事言って、今まで寝てたろ! シャキッとしろっ』
「分かったって……。 アキラ声デカ過ぎ」


 起きたばかりでその大声は頭に響くので、体を起こしながら勝手に通話を終了した聖南は、続けて葉璃から届いていたメッセージを読んで思わずニヤニヤしてしまった。


『おはようございます(。・・)ノ だいぶ声がでるようになってきて、体も調子いいです。 聖南さんは今日から本格的にお仕事開始だって言ってましたよね。 俺もレッスン頑張るので、聖南さんも頑張って下さい(ฅ•ω•ฅ)』
「顔文字だ…………可愛い……♡♡♡♡」


 今の今まで不機嫌だったはずが、葉璃のメッセージ一つで聖南の機嫌は最高潮によくなった。

 何しろあの葉璃が、初めての顔文字まで使って自分を労い奮い立たせてくれているのだ。

 これで頑張らなくては男ではない。

 急いで返事のメッセージを打つと、聖南は支度を済ませてコーヒーを一杯飲み、サングラスを掛けて打ち合わせ予定の某会社ビルへとやって来た。


「お、来た来た。 セナほんとに仕度早いよな」


 駐車場で待っていたアキラが感心しながら近付いてきて、ケイタが乗った成田の車も到着したのを横目で見ながらサングラスを外した。


「歯磨いて顔洗ってコーヒー飲んで来た」
「あーだからだな、寝癖付いてるぞ」
「マジで? 帽子貸して」


 言うなり、アキラが被っていたハットを奪った。

 聖南のマイペースは今に始まった事ではないので、ハットを奪われた当人は肩を竦めるに留めている。

 スタジオで聖南と葉璃が再会した日から翌日まで聖南とまったく連絡が付かなかったため、二人はあの後うまくいったらしいとアキラは直感していた。


「セナ、アキラ、おはよー」


 眠そうなケイタと、こちらも朝から元気な成田が足早にやって来た。

 タブレットを起動させた成田は、三人のスケジュールを読み上げる。


「おはよう~。 じゃあ知ってると思うけど一応流れ言っておきまーす。 今日は半日ここで打ち合わせ、アキラとケイタはその後ドラマ収録、セナは雑誌の撮影と取材、それぞれ直帰」
「あ? 俺の取材って週末じゃなかった?」
「そうだったんだけど、もうセナが動き出してるの向こうにバレちゃってさ。 さっき編集担当から一日も早く撮らせてほしいって連絡きてね。 セナだけイレギュラーだ」
「マジかよ、何も用意してねぇよ」
「その体あれば大丈夫。 というか、いつも用意なんてしてないでしょうが」
「心の準備的な?」
「はいはい。 先月迷惑掛けた雑誌だからサービスしてきなさい」


 えー、と聖南は不機嫌になってしまったが、予定に入ってなかった仕事をこなすなど今までもたくさんあったのだから、何をそんなに膨れてるんだとそこに居た全員が首を傾げた。



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