必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 アカリとサオリもその光景を見て笑っていて、後からやってきたスタイリストも、この控え室の楽しげな雰囲気に感化されて意味が分かっていないだろうにとても笑顔だ。

 ほんの少しだけ、現場に来る事を臆していた自分がバカみたいだ。

 それは父親に出会してしまった事とは関係なく、聖南自身の問題だった。

 現場に触れられなかったこの二ヶ月という期間は聖南にとっては苦行に近く、やってやるぜと意欲満々で復帰したとしても、業界からも世間からも要らないと言われればそれで終わりの世界だ。

 デビューしてからこれまで一週間以上の休みを取った事がない聖南が、自身の過去のせいで招いた事件とスキャンダル。

 これほど長期に渡って現場を離れる事は、この世界しか知らない聖南には非常に厳しい日々であった。

 だからこそ今が踏ん張り時だと常々思っていたが、聖南をよく知りもしない世間に後ろ指指されても、直近の周囲はこんなにも温かい。

 忘れていた。

 聖南は、周囲の近しい人物とは言うまでもなく良縁なのだった。



… … …


 ヘアメイクを終え、スタイリストが用意した衣装に着替えて撮影機材の前に立つと、程なくして聖南と似たような衣装の麗々がやって来た。

 どうやらアカリが言っていたのが正解で、カップル撮影で二人が選ばれているのは明白のようだった。

 聖南に合う女性モデルは百七十cm以上ないと釣り合いが取れないため、長身で小顔の麗々が抜擢されているらしい。

 ストレートの黒髪ロングを揺らめかせながら、真っ赤な口紅を施した麗々が横に並ぶと、早速色んなところからポージング指示が飛び、フラッシュがたかれていく。


「お久しぶりです、セナさん」


 皆に聞こえないのが分かっていて、ポーズを決めながら麗々が話し掛けてきた。

 この麗々は以前から聖南に下心丸出しなのでシカトしようかと思ったが、仕事だから割り切れ!と頭の中の冷静な部分が叫んだため一応会話をしておく。


「久しぶり。 先月マッチングあって迷惑かけてたらごめん」
「そんな、いいんですよ~。 テレビでセナさんのニュース見て、驚いちゃった。 傷は大丈夫ですか?」
「大丈夫。 まだ傷跡あるから脱げねぇけど」
「そうなんですか。 傷跡……見たいかも」


 甘えた声で言いながらチラッと視線を寄越されたが、聖南はそれには応じずカメラを見据えた。

 これが終われば葉璃に会える。

 それだけを楽しみに、衣装やヘアメイクを三度変えながら数時間カメラの前に立ち続けた。

 麗々とはもう充分会話をしたと言いたげに、話し掛けるなオーラを出して聖南へそれ以上踏み込ませないように意識をすると、彼女もそれを察知したらしく仕事に徹している。

 三十分ほどの休憩を挟み、真冬のコーディネートへとさらに衣装とヘアメイクを変え、熱を持った機材がいくつもあるスタジオは暑いだろうという事で撮影の間は常に冷房が入っていた。


「震えてっけど、大丈夫?」


 話し掛けるなオーラを出していた聖南だったが、麗々が寒そうに隣で小さくなり始めて、思わず声を掛けてしまった。


「……大丈夫です。 あと一パターンだし頑張ります」
「いや無理っしょ。 ……ちょっと、そこのカメアシ君。 ここの冷房一旦止めてくれる? 麗々さん寒そーにしてっから」


 聖南の一番近くにいたカメラアシスタントにそう告げて、慌てた様子で走っていく姿を確認すると、麗々がこれ以上ないほどキラキラとした眼差しで聖南を凝視していた。


「ありがとうございます……♡」
「女性ものの服って真冬コーデも薄いのあっからな。 気が利かねぇで悪かった」
「そんな事ないです……嬉しいです……」
「冷房切ったけどしばらく温くなんねぇだろうから、あっちで何か熱いの飲んできたら? カメラマン止めとくから」
「いいんですか、すみません。 行ってきます」


 この時点で完全に惚れさせてしまったと気付いたけれど、気が利くと絶賛されるこれも本来の聖南なので、とりあえず人が一人ぶっ倒れるような事態にならなくて良かったと思う事にした。

 時間は押すが、仕事だ。

 葉璃に会いたい一心で中途半端な事をすれば、きっと葉璃本人から怒られてしまう。

 今の葉璃なら、「そんな中途半端な仕事しかしない聖南さんなんかキライ!」とブチ切れる可能性だってあった。

 聖南自身も半端な仕事は一度たりともしていないと自負がある。

 とはいえ、時計を度々確認してしまうのだけは許してくれ……と、妄想の中の葉璃に謝罪だけしておいた。




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