必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
137 / 541
27♡

27♡2




 あの時は夜だけだった。

 寝る間際になってキシキシと痛み始めて、でも俺の成長痛はみんなが騒いでたほどヒドくはなく、痛い痛いと言いながらしっかり眠れてた。

 今回の成長痛はあの時の比じゃない。 みんなの痛がってた気持ちがようやく理解できたよ。

 日中もこれでは日常生活に支障が出てくる。 それくらい痛くてだるい。


「───葉璃、大丈夫?」
「……えっ!? わ、っ……ビックリしたぁ」


 ぼんやりと会計窓口を眺めていた俺の隣に突然腰掛けてきたのは、制服のままの恭也だった。


「どうしたの? 何でいるの?」
「心配だから、来ちゃった。 終業式だけだから早かったんだよ。 それで、先生はなんて?」
「あ、あー……」


 俺自身は納得いく診断だったけど、他人に言うのは少し恥ずかしくて渋ってしまう。

 だけど、恭也は俺を心配して、学校帰りに直接ここまで来てくれたんだから言わなきゃだよな…と意を決する。


「……成長痛、だって」
「え? …………何?」


 小さい声だったけど、でも確実に聞こえるように耳打ちしたのに、恭也は耳に手をあててとぼけてきた。


「聞こえてるよねっ? この歳でなるのは稀なんだって!」
「…………なんだ、良かった。 成長痛かぁ……可愛いね」
「やっぱり聞こえてるじゃん……」


 ふふっと笑う恭也が憎らしくなったけど、病気じゃないなら安心したよって呟くから怒れなくなった。

 そこでやっと受付の人から名前を呼ばれて、会計を済ませた俺達は隣の薬局で痛み止めを受け取った。

 よたよたと歩く俺を支えてくれる恭也と一緒に、すぐ近くのバス停へと歩く。


「セナさんには、連絡した?」
「ううん。 してない。 心配かけたくないもん」
「セナさんには、言っておいた方が、いいよ」
「…………そうかな?」


 別に異常があったわけじゃないし、仕事中の聖南にわざわざ連絡しなくていいと思ったんだけど、恭也がそう言うからとりあえずワン切りだけ残しておく事にした。

 仕事中でも電話できる時あるからいつでも連絡してって言われても、仕事だと分かっててそんな図々しい事は出来ないって言った俺に、聖南が出した打開策がワン切りだ。

 そんなに気になるならワン切りで着信を残しておけばいいって言ってくれたから、今初めてそれを実行した。

 数分後、恭也とバスの時刻表を見ていると早くも聖南から折り返しの電話が掛かってきた。

 恭也が、「セナさん?」と聞いてきて頷くと、バス停から少し離れたベンチに連れて行かされて、座らせられる。

 立ったままはツライだろうって気を利かせてくれたみたいだ。


『葉璃? どした?』
「あ……仕事中でしたよね? いきなり電話してすみません」
『いいのいいの。 葉璃から電話なんて珍しいから嬉しい。 何かあった? 今日終業式だって言ってたよな?』
「はい。 休んじゃったんで、式には出れてないんですけど……」
『え? 休んだ? どうしたんだよ、具合でも悪いのか?』
「いえ、体調はいいんです。 でも足が痛くてだるくて、病院に行って来ました」
『足っ? ちょっ、大丈夫なのか?』


 はじめは嬉しそうに弾んでいた聖南の声音が、途端に心配気なものに変わる。

 病気とは言えなかった診断結果に、俺はとてつもなく言いづらくなってベンチをイジイジしながら、爆笑されるのを覚悟で渋々打ち明けた。


「あー……はい。  あの……成長痛っぽいです」
『ん、……成長痛? 高校生でも成長痛ってなるんだっけ?』
「稀だって言われました……」
『だろうな。 あれ痛いんだよなー。 俺も中学入って一年くらいずっと痛かったよ。 葉璃可哀想に』
「え……っ」


 ……想像とは違う反応に、めちゃくちゃ戸惑った。

 俺のしゃっくりであんなに笑い転げてた聖南と本当に同一人物なのかっていうほど、電話の向こうで神妙にしている。


「……意外です。 ……笑われるかと思いました」
『なんで笑うんだよ。 いい事じゃん。 もうちょい背が伸びるかもしれねぇって事だろ? にしても、痛いの可哀想だよ。 代わってやりてぇ』


 ……そんな風に言ってくれるなんて思いもしなくて、優しい聖南の言葉がちょっとだけこそばゆい。


『今どこ? まだ病院なら迎えに行こっか?』
「いえ、そんな。 自分で帰れるから大丈夫です。 聖南さん仕事中でしょ? すみません……こんな事で電話してしまって」
『何言ってんの。 話してくれて嬉しかった。 葉璃一人? 帰れるのか?』
「恭也が学校帰りに来てくれたんで、今日は甘えて送ってもらいます」
『そっか、恭也いるなら大丈夫だな。 葉璃、足痛ぇなら明後日からのレコーディング、伸ばせるだけ伸ばしてもいいんだからな』
「それも大丈夫です。 痛み止めもらったから、ちゃんとやります。 薬がよく効くらしいので、頑張ります」
『そうなんだ? レコーディング日までレッスン休んで、ちゃんと家でジッとしとけよ? ……おっと、じゃ俺仕事戻るな。 終わったら連絡すっから』


 電話の向こうで聖南を呼ぶアキラさんの声がしたから、「はい」って返事してすぐに電話を切った。

 恭也が言ってくれたように、聖南にはこうして話しておくべきだったみたいだ。

 明後日から二日にかけて行なわれるレコーディングの日に打ち明けるよりも、今話した方が俺も気が楽になったし、何より聖南が思いの外優しくて胸が高鳴りっぱなしだった。

 この痛みが、もしかすると背が伸びる助長だとすると、すごく嬉しい。 聖南の言葉でそう思えるようになった。

 恭也に寄り掛かりながら何とか家路につき、お昼を一緒に食べて、部屋でゴロゴロしながら他愛もない話の相手をしてくれていた恭也は、夕方には帰っていった。

 痛み止めを飲むと、薬が効いてる間は本当に違和感なく過ごせる事に気付く。

 仕事の合間にもマメにメッセージをくれる聖南に、俺はせめて安心させてあげたくて「薬を飲んだら大丈夫そうです」と返信した。

 何度も何度も、「痛い?大丈夫?」と心配してくれた聖南の優しさがくすぐったくて、メッセージが届く度にキュンとなって胸を押さえた。




感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。