必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 迎えたレコーディング当日、恭也とマネージャーの林さん(正式に俺達のマネージャーさんになった!)と共に、以前歌声確認のために訪れたレコーディングスタジオへとやって来た。

 中に入ると、思わずハッと息を呑むほどカッコいい眼鏡聖南と、前に編曲担当だって紹介された四名、あと知らない大人二名が各々の位置に座って待っていた。


「おはようございます、よろしくお願いします」


 三人揃ってペコッと頭を下げて挨拶し、中に招き入れられて早速打ち合わせが始まった。

 知らない二人はCROWNのプロデューサーさんだとの事で、俺達のデビューにも携わってくれるらしい。

 ただし、今回は聖南の作詞作曲なので、全体のプロデュースは一貫して聖南が取り仕切る事になるようで、これは例外中の例外だとプロデューサー二人にはそう言われた。

 一つのものを創り上げるために、ここには居ない大人達も含めると相当な数の人間が動く事を改めて思い知って、俺は右も左も分からないながらとにかく迷惑を掛けないようにしなきゃと気合いを入れる。


「んーと、じゃ、まずは……今日明日総括するCROWNのセナです。 よろしくお願いします。 今日はパート割りを覚えてもらって、リハーサル。 明日が本番って形になる。 このパート割りが複雑で細かいから、頑張って覚えてな」


 曲と歌詞は先週半ばには渡されていたけど、全体通して覚えてと言われていただけだったから、今渡された歌詞に細かく振られた俺と恭也のパート割りは確かに複雑に作られていた。


「分かりました」


 目まぐるしく俺と恭也のパートが変わるので、これは本当に大変だと思って歌詞を凝視していると、隣の恭也は首を傾げている。


「あの……セナさん、一ついいですか?」
「ん?」
「このサビのハモリは、セナさんも、歌ってくださるんですか?」


 恭也の問いに、聖南ではなくプロデューサーの二名が大きく頷いた。

 聖南はあまり歌に参加はしない方向でと考えていたのか、何も言わない。


「その方がいいと思うぞ」
「あぁ、同感だ。 せっかくセナが全面的に関わるならな」
「デモ聴かせてもらったが、セナの声も乗った方が味が出る」
「な、そうしろ、セナ。 今回カップリング無しのこの一曲で二人を世に出すんだから、これは強力なバックアップになる」


 しばらく聖南は黙り込み、パソコンとにらめっこして俺と恭也を順番に見てから、一度「ふぅ…」と息を吐いた。


「明日の本録り終わって決めたい。 それでもいっすか?」


 思うところがあるのかすぐには返事を出さなかった聖南に、プロデューサー二名もそんな聖南の性格を知っているようで「任せるよ」と折れていた。

 打ち合わせは一時間ほどで終わり、いざブースに入ってパート割り通りに何度も何度も歌っていくと、防音ガラスの向こうで大人達はヒソヒソと話し合っているのが見えて急に不安になってきた。

 今日は恭也との間に仕切りがあって完全に孤立した状態だから、余計にだ。

 大丈夫なのかな……俺。

 毎日のレッスンで、歌唱のための複式呼吸もほとんどマスターしたつもりだったけど、やっぱりちょこっとボイトレしたくらいの力量じゃ、恭也の足を引っ張ってるのかもしれない。

 もしかして集まってるみんなに迷惑を掛けてるのかも…と思って恐る恐る聖南を見ると、優しく微笑んで、そしてゆっくり頷いてくれた。


『大丈夫』


 俺の表情が不安を伝えてしまってたのか、聖南はそう言ってくれてるように見えた。



… … …


「はーい、お疲れさん。 今日はここまでにしとこ。 明日の午後まで喉を休めとけな」


 聖南の一声に、ようやく終わった……と肩の力が抜けた。

 休憩を挟みつつ、かれこれ六時間はブース内で歌い続けてた俺達に、みんなが労いの声を掛けてくれて嬉しい反面、初めての事尽くしで疲労感が半端じゃなかった。


「良かったよ。 もう物にしたね」
「明日も期待しているよ」


 プロデューサーの二人にもそう声を掛けてもらって、心底ホッとした。

 すでに恭也の声は歌手として売り出してもなんら違和感がないほどだけど、俺は素人に毛が生えたくらいの凡人だから、不安で仕方なかった。

 正直、明日のレコーディングもめちゃくちゃ不安だ。

 まだスタジオ内で話をしている聖南含めた大人達を横目に、俺は静かにブースに設置された椅子に座って少し前からあった足の痛みをこらえる。


「葉璃、大丈夫? お薬は、飲んだ?」


 俺の元へやって来た恭也は、疲れきった俺を見て途端に心配そうな顔になった。


「恭也……お疲れー。 んや、まだ飲んでないけど、大丈夫。 ちょっと疲れただけだから」
「……葉璃も、お疲れ様。 声に強さが出てきてて、ビックリしたよ。 レッスンが別メニューだから、あれ以来葉璃の歌声、聴けてなかった。 すごい進化してるよ」
「そうかな……? 良かった、そう言ってもらえて……。 でももっと、喉とお腹鍛えなきゃ」
「俺も一緒に、頑張るからね」
「うん、ありがとう。 頑張る」


 大切な友達でもある恭也と労い合うと、今日一日の言いしれぬ疲労も薄れていく。

 明日に備えて早く引き上げようと立ち上がり掛けた時、フラッとよろけてしまって目の前の恭也に抱きすくめられてしまった。

 今まで気を張っていて気付かなかっただけで、じんじんと嫌な痛みと言葉に出来ないだるさがすでに襲って来始めていたんだ。


「葉璃っ。 もう、さっきの休憩で、お薬飲まなきゃ、ダメだったんでしょ?」
「あ……うん。 でも歌に必死で忘れてたから……」
「ご飯食べてからお薬飲まないと、お腹気持ち悪くなるって、言われてたでしょ? ご飯、食べられる?」


 一緒に何か食べて帰ろ、って恭也が言ってくれて、そういえばそうだったと思い出した。

 だからこそ、一時間前にあった小休憩で出されたおにぎりを食べて、その時にちゃんと薬も飲まなきゃいけなかったんだ。

 俺はおにぎりにも手を付けないで水とのど飴だけで今日は乗りきってるから、そこへ強い痛み止めは危険極まりない。

 恭也にしがみつきながら、足の変な感覚を耐えてブースから出る。 ここの造り上、一度廊下に出なきゃ隣室には行けない。


「……恭也、みんながいる前ではちゃんと立ちたい」
「…………分かった」


 周りに心配を掛けたくなくて、恭也の支えから離れて全身の神経を足に集中させた。

 スタジオの方へ入って、何食わぬ顔で、今日集まってくれた大人達に一礼して挨拶しておく。


「今日は長い時間、ありがとうございました」
「明日もよろしくお願いします」


 恭也と二人でそう言葉を残して、お疲れ様~と聞こえてくる声に振り返りざまに下手くそな笑顔を振りまいてスタジオを出た。

 今日は本当に、今まで生きてきた中で一番疲れたかもしれない……。




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