必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 もう逃げられない。 隠し通せない。

 聖南の迫力に負けた俺は、今朝の佐々木さんとの電話の内容を洗いざらい話した。

 時間も押してたから、酒は飲まねぇ!と豪語する聖南の車に乗って、だ。

 当初は春香の心配をしていた聖南だったけど、話が進むにつれて徐々に声に明るさが戻ってきてホッとした。


「またハルカになんの!?  マジで!?」
「はい、……マジです。  ……それで、もう明日が本番だからパーティー抜けてスクールに寄ろうと思ってて。  明日の話もあるから佐々木さんも来てくれるって言って……」
「俺も行く」
「なっ!?  だ、ダメですよ!  聖南さんは最後までパーティー居なきゃ!」
「眼鏡マネと二人きりになんかさせるかよ。  ダンスも見てやるから」


 それは……すごく心強いけど、大塚芸能事務所の看板と言えばCROWNなんだから、聖南が途中で抜けるなんて出来るはずがない。

 まだ無名の俺ならまだしも、あの「セナ」が別事務所のスタジオに簡単に出入りするなんて無理だと思う。

 いくら佐々木さんが俺と聖南の関係を知ってるからって、圧に負けて影武者を早々とバラしちゃった事もバツが悪いしなぁ……。

 俺がぐるぐるしている間に、行くと決めてる本人はホテルの駐車場に速やかに車を停め、エンジンを切って魅惑の眼鏡を外した。


「葉璃も恭也も未成年だから遅くとも十時にはここ出られる。  佐々木にそう伝えとけ。  俺が一緒に行く事もな」
「は、はい……」


 それなら早い方がいいかと、早速佐々木さんにメッセージを打った。

 隣でジッとその画面を見てくる聖南が怖くもあり、怪しげな文面はないかと探してるようで愛しいなとも思う。


「聖南さんと俺が一緒に行ったら変に思われるかもしれないから、先に行って恭也と林さん待ってていいですか?」
「変には思われねぇだろうけど……まぁいいや。  葉璃がそう言うなら。  俺はちょっと時間ズラしてアキラ達と合流してから行くわ」
「はい。  じゃあまた後で」
「おぅ」


 車から降りて小さく手を振ると、車内から聖南も手を振ってくれた。

 聖南があっさり俺の意見を呑んでくれた事に若干驚きながら、着飾った人達の波に紛れて俯きがちに付いていく。

 最初はこのパーティーが憂鬱で仕方なかったけど、明日からの影武者という大きな仕事が入った事で、緊張で震えてるどころじゃなかった。





 道が混んでいるらしく、あと十分くらいかかるという恭也達をロビーで待っている。

 行き交うきらびやかな人達はみんな、テレビで見た事ある顔ばかりだ。

 例によって俺はまったく名前は分からないけど、歌手や有名タレント、俳優、何だかよく分からない職業の人まで次々とパーティー会場へと入って行ってて、大塚芸能事務所の層の厚さを思い知らされた。

 今日はとにかく、色んな人に挨拶して回って免疫を付けろって聖南が言ってたから、俺も時間いっぱい頑張るつもりだ。

 遅いお昼を食べた後に痛み止めは飲んだし、次は八時くらいに飲めば大丈夫。 それも聖南が促してくれるから心配いらない。


「ふぅ……」


 聖南におんぶに抱っこなのは分かってるけど、今日だけは素直に甘えておかないと、またキャパオーバーで思考停止したら何にもならない。

 流されるままにキラキラな世界にやって来た俺だ。

 だからって現状のままでいいとは当然思ってない。 聖南が言ってくれた通り、今日は無理してショートするよりも見て学ぶ日だと思ってる。

 ……でもこうして独りで待ってると、そのほんのちょっとの余裕が少しずつ減ってきちゃうのが分かるな……。

 気付かない間に、どんどんと壁際に寄って行く。 するとポケットからブルブルっと短い振動がきて、佐々木さんから「10時了解、待ってる」と短い返事がきた。

 聖南も行くってちゃんと書いたはずなんだけど、その部分には触れずの短い文に、俺が聖南と行くっての見逃してないよな?と首を傾げる。


「よっ、ハルじゃん」


 スマホに気を取られてたら、親しげに声を掛けてきたその人物の足元が目に入り、そのがに股具合と大きな声で誰だかすぐに分かった。


「…………荻蔵さん。  こんばんは」


 このキツネ目に慣れるなんてまだ出来ない俺は、荻蔵さんの眉間を見てなるべく視線を合わせないように顔を上げた。


「おぉ、いっちょ前な格好して!  似合ってるよ」
「荻蔵さん一言多いんですよね……」
「あはは……!  いや、小さいけど男なんだなっと再確認中」
「………………」


 荻蔵斗真とは、昨日無理やり連れて行かれた居酒屋で中身のない会話をたくさんした。

 会話と言っても、ほとんど荻蔵さんが喋って笑ってただけだ。


「だから一言多いって……」


 最初のイメージと外見の男臭さから、俺は絶対に合わないタイプだと思ってたけど、荻蔵さんは実に面白い人だった。

 こうして余計な一言を言ってしまうちょっと無神経な所もありながら、俺が会話下手なのを察知して無理に話す事を強要しなかった所は、意外と言う他なかった。


「誰か待ってんの?」
「はい、相方とマネージャーさんを。  荻蔵さんは……お一人ですか?  例の彼女と一緒に来るのかと思ってました」


 ダークブルーのスーツと光沢のある紺のネクタイで決めた荻蔵さんが一人で来てたみたいだから、テレビで熱愛報道されてた人が隣に居るのかと思ったら違った。

 テレビではその女優さんも同じ事務所だと言ってたから、後で合流するのかと会場の入り口に目をやる。


「あ~あれな、ガセ中のガセだ、あんなの。  何、俺の事知らなかったわりにはテレビは見るんだ?」
「いや……あんまり見ないです。  ほんとにたまたま見掛けたんですよ。  荻蔵さんの最初の印象最悪だったから、つい見ちゃった、みたいな」
「おいおい、ハルも一言多いから!  いや、二言くらい多かったぞ!」


 俳優としての荻蔵はちょっとクールな男を演じてるようだけど、素の彼はこうして気さくに、結構大きな声で話すわりと普通の人だ。

 二枚目な役柄が多いって事を昨日自慢気に話してたのを思い出して、目の前で憤慨している姿を見ると可笑しくなった。


「ふふっ……」
「…………へぇ~可愛い。  それだから女と間違えられるんだ」


 また余計な一言が飛び出して、俺は急に悪口言われた事で気分を害し、ほっぺたを膨らませる。


「あ、膨れた。  それ何?  狙ってる?  狙ってないとしたらやめた方がいいぞ?」
「何を狙うんですかっ。  ……あ、恭也!」


 腰を屈めて無理やり視線を合わせようとしてきた荻蔵さんから逃げると、恭也が向こうからゆったりと歩いてきてるのが見えて、俺は嬉しさのあまり大きく手を振って合図した。




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