必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
158 / 541
30❥

30❥




 すぐ戻ります、と言われ、一人にして大丈夫かと聖南は不安だったが、似たような芸歴で歳上の、非常にお喋りな俳優に捕まり話を切ることが出来ないでいた。


「セナ無茶苦茶やり過ぎだったんだよ、生きてるだけマシと思え?」
「ふっ……。  言う事はみんな同じだな」
「マジでさ!  俺にも半分くらいはまわしてほしかったぜ」
「何言ってんだよ」
「もう遊ぶのやめたんだろ?」
「あぁ、あんな事があったから声掛けられんのも少なくはなった」
「……て事はまだお盛んなわけだ?」


 ニヤニヤと下品な話に興奮している俳優を横目に、聖南は会場入り口を頻繁に見やっているが、葉璃はなかなか戻ってこない。


『トイレの場所分かんねぇのかな……やっぱ心配だ』


「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」
「おぉ、またな!」


 気もそぞろで会場を出ようとすると、遠目に荻蔵もこの場を出て行ったのが見えた。

 入り口から少し遠い場所に居た聖南は、さすがに人がごった返す会場内だと人を掻き分けねばならず、しかも度々話し掛けられるためそれらにそつなく応対して、数分を要してやっと会場の外へ出られた。

 天井の高い豪奢なホテルとはいえ、あれだけの人が中に詰め込まれていると息苦しい。

 聖南は早足で真っ直ぐトイレへと向かい、個室もすべて調べてみたがどこにも葉璃の姿はない。


「…………?」


 もしかして気付かぬうちに会場に戻っていて、葉璃があの人ごみの中聖南を探しているのかもしれないと思い急いで踵を返した。

 可哀想に、一人ぼっちでキョロキョロと聖南を探す葉璃を想像し、俺に付いて歩けと偉そうな事を言っておきながら目を離した自分を叱咤した。

 大股で会場へ戻っていたところ、ふと目に入ったロビーの片隅に荻蔵が誰かに寄り添うように腰掛けているのが見えて、何気なく近寄ってみる。


「…………ほんとに男か?  こんな可愛いのに?」


 荻蔵はそんな甘ったるい事を言いながら柔らかそうな髪を撫でていたのだが、それがなんとテーブルに突っ伏している葉璃の髪だった。


「……ッッ葉璃!!」


 嫌な光景を目の当たりにしたと同時に、何故こんな所にいるのかと聖南は足早に葉璃のもとへ向かう。


「うぉ、ビックリしたー。  ハル寝てるからそんな大きな声出さないで下さいよ。 周り誰も居ないからめっちゃ響いてますよ」
「うるせぇっ、なんでこんなとこで寝てるんだよっ?」


 葉璃と密着するように腰掛けていた荻蔵が少しだけ横にズレると、無理やりその間に入って葉璃の頭を撫でた。

 無意識に、荻蔵が触れた場所を聖南が再び触れる事でリセットする意味合いがあった。


「分かんないっす。  俺がトイレから戻ったらもう寝てましたよ」
「っつーか寝てるって……ついさっきまで眠そうになんかしてなかった」


 どういう事なんだとテーブルの上を見ると、水が入ったグラスが一つあり、どうやらそれには口を付けていないようだった。


「まさか……」


 ハッとして、聖南は腕時計を見た。

 時刻は十九時時前。

 痛み止めを飲むには早い時間だが、状況に応じて効果が早めに切れる事もあるだろう。

 痛みを感じ始めたから、きっと葉璃はトイレに行くと言って会場を抜け出し薬を飲もうとしたのだ。


「薬……薬飲んだ後のシートのゴミ、見なかったか?」
「薬の?  いや、見てないっすよ。  あったのはこの水だけ」
「…………っ」



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。