必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 フロントで部屋のカードキーをもらい、その時点でチェックインを済ませて葉璃の元へ戻ると、まだ突っ伏したまま眠っているようだった。

 用心棒三人は同じテーブルで楽しそうに会話をしていたが、アキラが聖南の存在に気付いて立ち上がる。


「お、セナ。  社長に話してきた?」
「あぁ。  二十一時に変更してもらった。 今十九時半だろ?  上に部屋取ったから寝かせてやろうと思う」
「過保護だなぁ……」
「一時間ハルを寝かせてやるだけのために部屋取ったんすか?」
「当たり前だろ。  こんな所で寝かせとくわけにいかないじゃん」


 凄まじいまでの甘やかしに驚愕する三人が見守る中、躊躇なく葉璃を抱き上げてそそくさとエレベーターへ向かう聖南が、一度振り返る。


「あ、悪い。  恭也と成田さん見掛けたらこの事伝えといてくれるか?」
「おぅ、分かった」


 アキラとケイタが同時に頷いてくれたのを見て、聖南はエレベーターのボタンを押した。

 後ろで荻蔵が「溺愛じゃん」と言ってるのが聞こえて、思わずニヤリと笑ってしまう。

 エレベーターが開き③のボタンを押した聖南は、扉が閉まる間際、荻蔵に向かって口の端だけを上げた微笑をくれてやった。

 これでもう、葉璃にちょっかいをかけようなどとは思わないはずだ。

 たとえ荻蔵にその気がなくとも、男だと理解した上で「可愛い」と言わしめる葉璃の魅力に、いつコロッといくか分からない。

 どこかでまた荻蔵と葉璃が遭遇して妙な気持ちになろうとも、脳裏に聖南の顔がチラついて手を出すのを躊躇させるよう見せつけてやる必要があった。

 夜景もクソもないだろうなと思いながら三階のフロアに着き、部屋番号を確認して中へと入る。

 スーツもカッターシャツもスラックスもすべて脱がせ、手早くバスローブを着せると葉璃を静かにベッドに寝かせた。


『俺以外の奴の前でほっぺた膨らませやがって』


 恨めしく葉璃のほっぺたをプニッと押すが、まだまだ起きる様子はない。

 とりあえず寝かせてやるためだけに取った部屋なので、何とも殺風景なシングルルームだ。

 一時間ばかり寝るだけなのでシングルでいいかと思ったが、予想以上に狭苦しい。

 とは言っても、その辺のホテルとはランクが違うのでシングルルームにしてはかなり広めに造られているが、聖南にとっては以前住んでいたワンルームよりも狭いと苦笑する。

 よほど睡眠を欲していたのか、スヤスヤと眠り続ける葉璃の寝顔を見ていると、やはり、動揺していた心が落ち着いてきた。

 窓際のひとり掛けソファに腰掛けて外の景色を眺めていた聖南は、シーツの擦れる音に気付いて振り返った。

 もぞもぞと動き、ゆっくりと瞳を開いた葉璃と目が合う。


「おはよ」
「…………おはよう、ございます……?」


 視線だけで室内を見回し、コロン、と寝返りを打って上体を起こした葉璃が、「んーっ」と伸びをしている様をしばし観察した。

 パチパチ、と瞬きをしてもう一度室内をぐるりと見回すと、突然ハッとして、葉璃は明らかに慌てた様子で聖南を見た。


「……っ!? ヤバ!!  今何時ですか!?」
「今?  ……八時過ぎ」
「八時!?  ちょ、ここどこですか!?  え、待って、俺……えっ?  パーティー、終わった感じですか……?」


 きっと深く深く眠っていたであろう葉璃は、時間と日にちの感覚さえあやふやらしく相当焦っていて、ベッドの上で足をガサガサと動かしている。

 慌てている人間を前に、いけないと思いつつも笑いを堪えきれない。


「ぷっ……。  大丈夫、まだパーティー終わってねぇから」
「ほんとですか!  良かった~~。  てか俺なんでここで寝て……?  ……あっっ!!」
「あはは……っ!  今度は何だよ」
「そうだ、薬。  忘れちゃったか、落としたんだった……」


 聖南に知られたくなかったのか、モゴモゴとそう言ってるのが聞こえて葉璃の元へ歩み寄る。


「……いま足どう?  痛い?」
「…………痛くないです……!」
「良かった。  薬なら寝てる間に飲ませたから、夜中まで心配ない。  でな、起きたばっかで悪いんだけど、二十一時からあのパーティー会場で葉璃と恭也のお披露目がある。  まだ時間あっから急がなくていいけどな」
「お披露目、ですか……?」


 葉璃は、いかにもげんなりな様子で肩を落とす。

 確かに葉璃の性格上、大喜びでマイクを握って壇上を楽しむようなタイプでは到底ない。

 だが葉璃が寝こける前に聖南と共に挨拶回りをした様子であれば、心配いらない気がした。


「ちょこちょこっと挨拶するだけだと思うから、そんな深刻そうな顔すんな。  かわいー顔が台無し」
「もうちょっと寝とけば良かったです……」
「いやダメ。  起きなかったら俺が起こしてたよ。  ……デビューはな、相当な大人達が動く一大プロジェクトだし、葉璃と恭也のポジションになりたくてもなれなかった、悔しい思いをした奴も大勢いるんだ。  デビューする葉璃がそんなんでどうすんだよ」


 さすがにこの期に及んで根暗さを出してはダメだと、珍しく聖南が叱咤してやると寝癖でぐちゃぐちゃになった頭の葉璃がジッと聖南を見詰めた。


「……そう、ですよね。  ほんと、聖南さんの言うとおりだ。  今まで自分の事で必死過ぎて、思い付きもしなかったです。  ……俺が居る場所を目指してる人も、きっと、たくさん居るんですよね……。  俺達のために働いてくれてる人も、たくさん……」
「そうだ。  恭也は実力でもぎ取って掴んだけど、うちのレッスン生じゃなかった葉璃は、主に天性のセンスで発掘されて選ばれたとこが大きいと思う。  春香が受けたやっかみじゃねぇけど、葉璃も十分その対象になり得るっつー事。  だから、今葉璃達のために動いてる人間とか妬んでる奴等とか、そんなの跳ね飛ばしてやるくらいの実力、見せつけてやろうな」
「はい!  俺、がんばりますっ」


 たった今までしょぼくれていたのに、気持ちを切り替えた葉璃は瞳に生気を宿して聖南に笑い掛けた。

 その笑顔は無邪気で美しく、聖南の言葉をすんなりと素直に受け取ってくれ、確かな自信に変えてくれた事に喜びを感じる。


「いい子いい子」


 ただでさえぐしゃぐしゃな葉璃の頭を、聖南も微笑みながらこれでもかと撫で回した。



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