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しおりを挟む聖南は廊下を急いでいた。
つい昨日、メイク前と後は葉璃をこちらに寄越しておけと言ったはずが、それは呑んでくれなかったらしい。
というより、聖南の要求は何も通っていない。
ダンススクールに送ってからまったく会えていない葉璃が恋しくてたまらず、脇目もふらずに収録スタジオを目指している。
同じ局に居て、楽屋の並びも同じはずで、なぜこんなにも会えないのかとジリジリした。
衣装のまま、くるぶしまである白いマントを翻しながら廊下を闊歩する聖南は、否が応でもかなり目立っている。
赤いスパンコールが散りばめられた白のスーツに、金色のラインが右往左往したロング丈の白いマント。
右肩口にはふわふわモコモコな毛足の長いショールを背負っていて、全身がほぼ白いために居るだけで華やかで、目立たない方がおかしい。
注目を浴び、時折スタッフや共演者から話し掛けられるも、
「お疲れっす!」
と言うだけで通り過ぎ、急いでますアピールを強化し先を急ぐ。
角を曲がって突き当たりが前室なので、はやる気持ちを抑えきれずに速度を上げてしまっていた。
「あっ……!」
曲がってすぐにトイレから女性が出てきた事には気付いたのだが、急いでいた足は急には止まれなかった。
「うっ…」
着飾った出で立ちが目に入り、出演者と思しき女性を転ばせるわけにはいかないと、即座に華奢な腕を掴んで胸の中へと引っ張った。
「っっ、ごめん、大丈夫、か……?」
「…………………」
見上げてきたその女性は、他でもないハルカに扮した葉璃だった。
「────ッッ」
『ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!!』
見上げてきた瞳と目が合った瞬間、恋をしたあのときめきが蘇った。
聖南は瞳を見開き、一瞬で脳内が♡で埋め尽くされ、思わず息を呑んだ。
「聖南さん?」
聖南の胸の中で葉璃が名前を呼ぶと、湧き上がった興奮によって全身に電気が走った。
『昨日ヤってねーからだ、だからこんなムラムラすんだ!』
聖南は考える間もなく、「聖南さんでしょ?」とくぐもった声で聖南を呼んで興奮を煽ってくる葉璃をマントで覆い隠し、名前の札が張られていない小さな無人の楽屋へまたもや葉璃を拉致した。
「うわわわ……っ! 聖南さんでしょって聞いてるのに!」
「………………」
強引に連れ込んだ目の前の葉璃は、ぷるぷるつやつやの唇をツンと尖らせて膨れている。
問い掛けに応えない聖南は、電気を点けてまじまじと変装後の姿を眺めた。 女性の格好と化粧をしていると、さすが見紛う事なく女性に見える。
聖南はあまりの葉璃の可愛さに度肝を抜かれ、そして凝視した。
葉璃がまだ口を動かし、不満そうに何かを喋っているが、その声は聖南には届かない。
ハルカとしての葉璃は何度か直でも見ているし、一目惚れしたあの日など自宅でBDデッキが壊れる勢いで何度も繰り返し再生して葉璃を観た。
それが昨日、memoryの振り付けを葉璃に教えてやるほどにマスターしていた経緯なのだが、そんな事よりも、だ。
『こんなに可愛かったっけ……』
一目惚れの衝撃は嘘では無かったと自覚すると共に、この数カ月に渡る葉璃との何やかんやで愛と絆が目一杯な今、目前の葉璃はとてつもない神々しさを纏っている。
この瞳は凶器、いや、最終兵器だと思った事もあったが、それもまったくの真実だと再確認した。
「……さんっ、聖南さん! 俺本番近いからこんなとこいる場合じゃ……んっ」
「ごめん、我慢できない」
昨日は聖南も疲れていた。
一昨日から何十時間もぶっ通しで起きていたせいで、葉璃を腕に抱いて横になると性欲や嫉妬よりも睡魔が勝ったのである。
葉璃もしょんぼりのままだったしで、清く正しく睡眠を取ったのがいけなかったのか。
心身共に元気いっぱいの聖南は、せっかくの化粧が崩れるからダメだと頭では分かっていたが、抑えきれずに葉璃の唇に噛み付いた。
「ちょ、……んっ! ……聖南、さんっ……」
葉璃も恐らく同じ思いで、一応聖南の腕から逃れようとはしているがまったく力が入っていない。
たっぷり塗られていたぷるぷる成分配合のリップは、すでに互いの口の端にまで広がっている。
「葉璃、舌」
「んっ……んん……な、さんっ」
早く行かないと、と葉璃はきっと内心では焦っているのだ。
だが聖南の熱いキスは葉璃を翻弄するには充分過ぎて、おとなしく舌を出してきた素直さに聖南はすでに勃起していた。
葉璃を壁に押し付け舌を絡ませ味わっていると、落ちてきた口紅の化粧品特有の味がして眉を顰める。
「……ん……ふっ……んんっ……」
腕の中にいるのは確かに葉璃なのに、ウィッグとメイクでそうではないような変な気持ちになってきて、とてつもなく嫌だった。
葉璃は化粧などしない。
露出の高い服など着ないし、髪もこんなに長くない。
『この姿もめちゃくちゃ可愛いけど、……いつもの葉璃がいいな……』
聖南は今しがた大興奮した第一印象の葉璃よりも、いつものナチュラルな葉璃をとても恋しく思いながら、そっと唇を離した。
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