必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 さらに目を細めてジーッと見詰めてくる聖南が、少し怒気をはらんだ声で呟いた。


「俺なんかって言うな」
「………………」
「変な事考えてねぇ?  俺は葉璃を手離すつもりねぇからな、一生」
「…………っ」


 ……何でいつも、俺の考えてる事が聖南にはバレてしまうんだろう。

 聖南からもし、家庭を作りたいから別れてって言われたら、その時は涙をのんで別れてあげる、そう思ってたのに聖南の方から離さないなんて言われたら……。


「悪りぃ。  俺いまセンチ入ってる」


 俺の太ももに頭を乗せてコロンと横になった聖南が、瞳を閉じてそう詫びてきた。

 整った顔を見下ろしながら、やっぱり昨日話した事が原因で様子が変なんだって分かると、もう聖南が不安になる事は言わないであげようと思った。


「……分かってます。  ちゃんと、分かってます」


 隠していた寂しい気持ちを、どれだけの間我慢してたのかな、聖南は。

 明るくて、前向きで、ポジティブで、真っ直ぐで、そんな聖南はもしかしたら虚像なんじゃないかって、この聖南を見ていたらついそんな事を考えてしまう。

 そうやって自分を保っていないと、今まで関わってるすべての人の期待を裏切ってしまうから。

 聖南自身も弱いところを見せないように、強くて頼れる聖南を作り上げた結果、もう誰にも過去を悟らせられなくなった。

 気使いも心配りも身に染み付いてるこの聖南が、愛情を知らないまま生きてきたなんて誰も思わない。

 だからこそ、恋人である俺にすべてを語ってくれた事でタガが外れたかのように甘えてくるのかもしれなかった。

 数分の沈黙の後、ゆっくり瞳を開いた聖南が腕を伸ばして俺の頬に触れて、優しく撫でてくれた。


「葉璃は離れないでくれ……お願いだから。  離さねぇって俺が言うのは簡単だけど、葉璃もそう思っててほしい。  ……愛してる。  愛してるから、……」
「…………っ……」


 ……こんなにも愛しいと想う人を、離せるはずがないじゃん。

 聖南が離れたいって言うなら、しばらくストーカーしちゃうかもしれないけど、離れてあげる。 でも、離れなくていいんなら、俺はどうしてもこの人と一緒に居たい。

 ───愛してる。

 そんな大層な言葉、俺にはまだ口に出すのもおこがましい。

 だけど、俺も同じ気持ちだよって思いを込めて聖南の頭を抱き締めた。

 いつもの横柄で王様みたいな聖南も、か弱く儚い聖南も、どっちも俺の大好きな人。

 …………また、泣いちゃいそうだ。






 ぎゅっと抱き締めたまま俺を離さない聖南は、この時間にも関わらず事務所に一度顔を出さなきゃいけないと突然思い出したように言った。

 大晦日なのにそんな事もあるのかなってギョッとした俺は、大急ぎで聖南に支度を整えさせて、コーヒーも飲んで、もう準備万端なのに、玄関先で抱き締めてきたかと思ったらなかなか俺から離れない。


「行きたくねぇー……」
「仕事なんでしょ。  行ってください」
「嫌だー行きたくねー離れたくねー」
「すぐ終わる用事だって言ってたし、終わったらまた会えるでしょ?  俺ここに居ますから。  あ、大晦日だし、どこでもいいから外にご飯行きましょうよ!  外で年越し、よくないですか?」


 全力で甘えてくる広い背中をトントンしてやりながら、テンションが上がりそうな話題を振ると聖南は少し反応を見せた。


「……何食いたい?」
「んー……聖南さんが食べたいもので……」
「葉璃」
「お、俺は食べ物じゃないです!  考えときますから、早く行ってくださいってば。  ほらほら、出る時間とっくに過ぎてますよ!」


 年越しまであと二時間を切ってるのに、離れたくないからと俺に抱き付いて離れなかった聖南は、はぁ、と溜め息をついてようやく車の鍵を手に取った。


「行ってくる。  マッハで帰ってくっから」
「分かりました。  でも車飛ばしちゃダメですよ、怒りますからね」
「……あぁ。 じゃな」
「行ってらっしゃい」


 それいいな、もっかい言って、とまた玄関から上がってこようとした聖南を叱咤して、長いお見送りがやっと終わった。

 聖南の居なくなった部屋にポツンとその場に立ち竦んだ俺は、無意識に「俺も離れたくないよ」と呟いていた。

 こんな事を聖南に言ったらほんとに出掛けるのをやめてしまうような気がして言わなかったけど、正解だったな。

 リビングに戻ろうと踵を返したところで玄関が開いて、慌てた様子の聖南が走り込んできた。


「葉璃も来りゃいいんじゃん!  コート着ろ!」
「えっ!?」
「早く!  0時回っちまう!」
「えぇ!?!」


 まず玄関が開かれた事にも驚いてた俺は、「早く早く!」と手招きされてすぐに体が動いた。

 関係ない俺が行っちゃダメだよ!という反論も出来なくて、何なら「ついて行っていいの?」と嬉しい気持ちが先に立つ。

 玄関先で聖南に急かされまくって、訳が分からないながらも走ってコートを取りに行った。




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