必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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… … …


 葉璃は、ハルカとしての最後の収録を終えた頃だろうか。

 事務所で社長室に集まっていたアキラとケイタを前に、サングラスを掛けたままスマホを凝視してソファに腰掛けている聖南は、味のしない不味いコーヒーに口を付けた。


『今日は収録日で忙しいのかもしんないけど、おはようの後なんにもメッセこないのは何でだ』


 聖南の仕事始めは昨日からスタートしていた。

 一方の葉璃はというと、家族と祖父母宅へ行ったり恭也と初詣に行ったり何やら楽しそうで、そこに自分が居ない事が猛烈に歯痒い。

 出店で恭也と一つのりんご飴を分け合って食べただの、初詣に行ったら境内に可愛い野良猫が居ただの、なんてほのぼのしているんだとほっこりしながらも、聖南は隣に葉璃が居ない違和感に慣れなければならず、まだ離れて二日目だというのに寂しくてたまらなかった。


「冬休みって短いから、すぐ学校始まるよな。  ハルと恭也は今年で終わりだしなぁ、素人として過ごすのも」
「そうだね~。  ハル君達もしばらくデビューの準備で忙しくなるだろうから、セナも少しは落ち着くねー」


 社長へ新年の挨拶を兼ねて三人はここに集まったのだが、打ちひしがれている聖南を見て二人は顔を見合わせた。

 聖南は、葉璃と居られなくて寂しいという思いを全身から滲ませている。

 どうにか意識を逸らしてやろうとしたのだが失敗で、アキラの一言目の「冬休み」という単語で無意識に体を揺らした。


「落ち着かねーよっ。  こんな会いたいのに……死んでしまう……心にほら……穴が……」


 佇まいや風貌だけで言うと、アジア圏内のモデル達を結集しても聖南には敵わないかもしれないというほどの男前が、情けなく胸に手を当てて「見てみろ!寂しくて穴が開いた!」と叫んでいる。


「穴はないから心配すんな。  社長に例のツアー同行の話するんだろ?  仕事モードに切り替えろ」
「明後日から俺達の新曲のレコーディングもあるんだし、セナがそんなだといい歌唄えないよ。  いいの?  ハル君に下手な歌聞かせても」
「………………」


 年長者で芸歴も長く、マイペースながらも先頭に立ち続けてくれていた聖南。

 今までこんなにも人間らしい感情を見せた事のない聖南を二人がかりで励ましている様は、以前の聖南が見たら大層驚くに違いない。

 これまでの聖南は上っ面だけだった。

 いくら明るく楽しげに振る舞っていてもその間の記憶が抜け落ちている事が多く、楽屋に戻って「俺何か変な事言ってなかった?」とアキラとケイタに尋ねる場面がしばしばあった。

 だらしない私生活と、仕事中の健忘は自覚があってもそこから抜け出す事は出来なかった。

 二人にも多大に迷惑を掛けてきたと思う。

 葉璃と出会ってからというもの、嘘のように心のバランスが保てるようになった。 それはとても良い事だが、しかし別の問題が発生しては意味がない。


「年明けからお互い忙しくなるってのは分かってた事だろ?  セナは大人の余裕見せなきゃな。  ちゃんと仕事を頑張る男の背中見せとかないと、ハルが愛想尽かして他所に行っちまうぞ」
「それは困る」
「だろ?  ならシャキッとしろ 」


 アキラは聖南をそう奮い立たせるも、肝心の本人はスマホ片手に寂しさと戦っている最中なのであまりよく聞いてはいなかった。

 けれど、二人の言う意味は分かっている。

 葉璃も言っていたから。 心は一緒だと。

 ───切なくて涙が出そうでも、頑張らなくてはいけない。

 駄々をこねても許してくれる葉璃に「寂しい」「会いたい」と恥ずかしげのないメッセージを連投した聖南は、ただ叱咤激励してほしかった。



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