必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
201 / 541
36❥

36❥2



… … …


 葉璃は、ハルカとしての最後の収録を終えた頃だろうか。

 事務所で社長室に集まっていたアキラとケイタを前に、サングラスを掛けたままスマホを凝視してソファに腰掛けている聖南は、味のしない不味いコーヒーに口を付けた。


『今日は収録日で忙しいのかもしんないけど、おはようの後なんにもメッセこないのは何でだ』


 聖南の仕事始めは昨日からスタートしていた。

 一方の葉璃はというと、家族と祖父母宅へ行ったり恭也と初詣に行ったり何やら楽しそうで、そこに自分が居ない事が猛烈に歯痒い。

 出店で恭也と一つのりんご飴を分け合って食べただの、初詣に行ったら境内に可愛い野良猫が居ただの、なんてほのぼのしているんだとほっこりしながらも、聖南は隣に葉璃が居ない違和感に慣れなければならず、まだ離れて二日目だというのに寂しくてたまらなかった。


「冬休みって短いから、すぐ学校始まるよな。  ハルと恭也は今年で終わりだしなぁ、素人として過ごすのも」
「そうだね~。  ハル君達もしばらくデビューの準備で忙しくなるだろうから、セナも少しは落ち着くねー」


 社長へ新年の挨拶を兼ねて三人はここに集まったのだが、打ちひしがれている聖南を見て二人は顔を見合わせた。

 聖南は、葉璃と居られなくて寂しいという思いを全身から滲ませている。

 どうにか意識を逸らしてやろうとしたのだが失敗で、アキラの一言目の「冬休み」という単語で無意識に体を揺らした。


「落ち着かねーよっ。  こんな会いたいのに……死んでしまう……心にほら……穴が……」


 佇まいや風貌だけで言うと、アジア圏内のモデル達を結集しても聖南には敵わないかもしれないというほどの男前が、情けなく胸に手を当てて「見てみろ!寂しくて穴が開いた!」と叫んでいる。


「穴はないから心配すんな。  社長に例のツアー同行の話するんだろ?  仕事モードに切り替えろ」
「明後日から俺達の新曲のレコーディングもあるんだし、セナがそんなだといい歌唄えないよ。  いいの?  ハル君に下手な歌聞かせても」
「………………」


 年長者で芸歴も長く、マイペースながらも先頭に立ち続けてくれていた聖南。

 今までこんなにも人間らしい感情を見せた事のない聖南を二人がかりで励ましている様は、以前の聖南が見たら大層驚くに違いない。

 これまでの聖南は上っ面だけだった。

 いくら明るく楽しげに振る舞っていてもその間の記憶が抜け落ちている事が多く、楽屋に戻って「俺何か変な事言ってなかった?」とアキラとケイタに尋ねる場面がしばしばあった。

 だらしない私生活と、仕事中の健忘は自覚があってもそこから抜け出す事は出来なかった。

 二人にも多大に迷惑を掛けてきたと思う。

 葉璃と出会ってからというもの、嘘のように心のバランスが保てるようになった。 それはとても良い事だが、しかし別の問題が発生しては意味がない。


「年明けからお互い忙しくなるってのは分かってた事だろ?  セナは大人の余裕見せなきゃな。  ちゃんと仕事を頑張る男の背中見せとかないと、ハルが愛想尽かして他所に行っちまうぞ」
「それは困る」
「だろ?  ならシャキッとしろ 」


 アキラは聖南をそう奮い立たせるも、肝心の本人はスマホ片手に寂しさと戦っている最中なのであまりよく聞いてはいなかった。

 けれど、二人の言う意味は分かっている。

 葉璃も言っていたから。 心は一緒だと。

 ───切なくて涙が出そうでも、頑張らなくてはいけない。

 駄々をこねても許してくれる葉璃に「寂しい」「会いたい」と恥ずかしげのないメッセージを連投した聖南は、ただ叱咤激励してほしかった。



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。