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思ったよりロケが長引いてしまったので、辺りはすっかり夕暮れ色に染まっている。
葉璃はレッスン終わりどうしているかと収録の合間もずっと時計と睨めっこをしていた聖南は、休憩で客室に戻ってくるなりスマホを手に取った。
そしてすぐさま葉璃に連絡してみたのだが、聖南は葉璃の癖がうつってしまったかのように下唇を出してスマホを握っている。
「…………なんでケイタが?」
『レッスン終わりに事務所のベンチに居たらケイタさんがいらして、事情説明したら送ってくれる事になったんです。 知ってる人だから、いいでしょ?』
「そりゃ……いいけど……」
葉璃はレッスン終わり、たまたま事務所に寄っていたケイタと出会したようで、現在送ってもらっている最中との事だった。
よく知らない奴ならば「何やってんだ!」と怒れるのだが、相手がケイタならばそう怒りも湧かない。 ……湧かないが、どうしてもヤキモチは焼いてしまう。
電話口で、運転中であろうケイタが「セナ?」と葉璃に伺いを立てている声すらモヤっとする。
「ケイタに代わって」
『……はい、ケイタさんに代わってって言ってます。 ……あ、はい、イヤホンこれですね、俺差しますよ』
二人のやり取りを聞いてモヤモヤ中の聖南は、テーブルを指先でトントン、と叩いてイヤホン装着の時を待った。
自分の隣には成田しか居ないのに、ケイタの隣には愛しの葉璃が居る。
不公平だろ、とよく分からない因縁はそっと胸にしまった。
『あ、セナ? お疲れー』
のんびりと電話口に出たケイタが非常ににこやかなのが想像出来て、いつも無表情な聖南とは正反対の明るさに葉璃がなびいてしまわないか途端に心配になった。
ケイタは聖南とはまた違う、役者向きなタイプの色男なので、そこもまた心配材料だ。
葉璃は決して顔で聖南を選んでいるわけではないだろうが、不安は拭えない。
ヤキモチ焼きな旦那を地で行く聖南は、手当たり次第に嫉妬してしまう。
「……お疲れ、ケイタ。 事故んなよ」
『怖い事言わないでよー! 俺セナと違って安全運転だから大丈夫だって! ハル君、お金持ってなかったんだからセナがいくらか渡してあげればよかったのに』
「親呼ぶからいらねーって受け取ってくんなかったんだよ。 てかケイタが送ってるっつー事は、葉璃ママ都合悪かったんだ?」
『みたいだよ。 俺が渡しても良かったんだけど、お金は嫌だって言うから。 俺ちょうどこれからフリーだし送るよって事になって』
「…………分かった。 葉璃に、家着いたらLINEしろって言っといて。 たぶん俺深夜まで返信できねぇと思うけど、見る事はできるから。 ……ケイタ、葉璃をよろしく」
『了解~! じゃセナ、頑張ってねー。 ……はい、ハル君ありがと。 セナが、家着いたらLINEしろってよ』
『はい、分かりました。 ケイタさん、すみません、お家と反対方向でしょ?』
二人の会話が漏れ聞こえてきたが、聖南はかじりついて聞いていたい衝動を抑えて泣く泣く通話を切った。
今日最後の収録のためにスタッフからお呼びが掛かったからだ。
まさか他の誰かに「葉璃をよろしく」と言う日がくるとは思わなかった。
とても大袈裟ではあるが、聖南は一世一代くらいのつもりでケイタに葉璃を託した。
荻蔵と葉璃が食事に行った時にも思ったけれど、葉璃と関わる周囲にヤキモキするなど、これらはまだまだ序の口なのだ。
信頼の置けるケイタに送ってもらったと聞いても、こんなにも心穏やかでいられないとはやはり聖南の器は極小だった。
飛んで帰りたい気持ちを抑えられているのは、葉璃が「仕事をちゃんとしない聖南さんは嫌い」と言うからで、聖南の中の優先順位は微動だにしないが仕事へのスタンスは変わった。
そしてまた、今日収録の番組も葉璃は見てくれるかもしれない。 という事は、何一つ手は抜いてないという所を見せなくてはならなかった。
元々切れていた下唇を噛んで痛かったので、聖南は複雑な面持ちでリップクリームを塗って立ち上がり、スタッフの後ろを付いていく。
大切な仲間と葉璃が仲良くなるのはとても良い事だ。
葉璃が困っていると知って、ケイタが迷わず手を差し伸べてくれた事も、すごく嬉しかった。
それなのに何故だろう。
大人げなく、物凄くヤキモチを焼いてしまう。
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