必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 翌日、宣伝広報部に企画書のデータを渡しがてら、そこにあった服を適当に借りて着替えた聖南はテレビ局へと向かった。

 今日は音楽番組の収録で、午前から午後にかけて行われる。

 来る途中で目薬を買う事は忘れなかった。


「おはよー、セナ。  あれ、目大丈夫?」


 いち早く楽屋に居て目薬をさしている聖南の元へ、朝に弱いケイタがテンション低めにやって来て、髪を無造作にかきあげている。


「おはよ。  昨日はありがとな」
「あぁ、ハル君ね。  なんかハル君すごく申し訳なさそうだったから、こっちが気を使ったよ」
「葉璃はそういう子だからな」
「……セナ?  大丈夫?」
「何が?」
「テンション低い」
「ケイタに言われたくねぇよ」


 朝一のケイタにそれを言われてしまうほど、聖南に元気が無い事を気付かされ苦笑した。


「おはよう、セナ、ケイタ」


 そこへアキラもやって来るとすぐさま聖南の異変に気付いたようで、鞄を置きながら「今度はどうした」と早くも的を射てくる。


「またハル絡み?」
「昨日俺がハル君送った時に電話した感じだと、あの後何かあったの?」
「ケイタがハルを送った?」


 そうそう、とケイタが昨日葉璃を自宅まで送る事になった経緯を説明している横で、聖南のスマホが知らない番号からの着信を知らせた。

 二人の前だったが聖南は構わずそれを取ると、それはOMSプロダクションの社長からであった。


「朝早くからすみません。  自分、大塚芸能事務所のセナと申します。  事情は何となく窺っておられるかと思いますが、昨日謝罪に来たそちらの麗々さんの事でお話がございまして」


 畏まった口調の聖南は、足を組んで瞳を瞑る。

 そのただならぬ様子に、アキラとケイタは会話をやめ何やら大変な事態の様相に固唾を呑んで見守った。

 電話の向こうでは、まだ若そうな社長が起立し、聖南には見えないというのに頭を下げているのではというほど謝罪を述べていた。


「あ、聞かれてますか?  えぇ、……はい、まぁ。  一昨日の件は、自分も反省しております。  ですので、謝罪はもう結構ですとお断りして、撮影に関しても変わらずいきましょうとお話したにも関わらず当社ビルまで来て頂いて。  はい、……そうなんですよ。  ……許せないんで、そこは。  今後一切彼女と仕事はしませんので。  あ、マネージャーの筒井さん、でしたっけ?  彼はお咎め無しでお願いします。  彼には非常に誠意ある対応をして頂きましたから」


 マネージャーの筒井からか、はたまた成田からかは分からないが、昨日の麗々のボイスレコーダーの件まで社長は知っていて、そのせいもあるようだった。

 通話を終えても尚、聖南は瞳を瞑ったまま微動だに出来ない。

 売り出し中の麗々が、Hottiで聖南とのカップルモデルとなって飛躍的に事務所も上向きだったようで、何とか考え直してもらえないかとお伺いを立てられたものの、聖南は譲れず話は平行線であった。

 続けて聖南は出版社へと電話をし、午後に立ち寄る旨だけ伝えておいた。


「セナ、……まだ早いからとりあえず出番までそっちで寝てろ。  その顔、昨日ロクに寝てねぇだろ」
「……ん。  そうする」


 アキラにそう促され、聖南は目薬を持ってソファにだらんと横になった。

 長い足がはみ出てしまい決して寝心地の良いものではなかったが、昨日は椅子に掛けたまま寝落ちしたのに比べると、横になれるだけまだマシだった。


『葉璃、ごめん……元通りに出来なかった……』


 予定外な出来事のせいだと言い訳したところで、結果は変わらない。

 葉璃にそれを伝えるのが怖くて、毎朝楽しみにしていた葉璃からのメッセージを未だ開く事が出来ないでいる。

 自分がこれほど脆い人間だとは知らなかった。

 葉璃に嫌われたくない。

 恋人として、先輩として、追い掛けたいと思ってもらえるような立派な背中を見せて、いつまでも羨望の的で居たかった。

 男たるもの、好きな人の前では格好良く居続けたいと思うものだ。

 八方塞がりの迷路に迷い込んでしまったかのような心境の聖南は、すぐに眠りに堕ちてしまう。



 今はとにかく幸せな夢を見たい。

 葉璃と笑い合う、幸せな夢を───。







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