必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
223 / 541
39☆

39☆ 3・アキラとケイタはセナハルの味方




 結局のところ、話を聞く限りではやはりセナが怖じ気付いてるだけのようだ。

 この仕事を無き物にしてしまった事で、それをハルに話して仕事をしていないと判断されたら、「嫌いです」とまた言われてしまう、と。


「その仕事NGなの、俺達でも納得の理由なんだからさ、セナ。  心配しなくても、ちゃんと説明したらハル君は嫌いとか言わないって」
「ケイタ……お前、いっぺん笑うのやめろ」


 セナの隣でクスクスが止まらないケイタは、肩を揺らしながらも励ましているつもりなのだが、セナからするとバカにされているような気がしてならないらしい。

 くっつこうとするケイタをグイと向こうにやるセナを見て、アキラは唐揚げを頬張った。


「やっぱなー。  セナ一人でぐるぐるしちまうその癖、なんとかしねぇとな」
「ほんとほんと。  あ、アキラ、その唐揚げの皿取って」
「はいよ。  じゃ俺そっちのシーザーサラダ取って」


 二人はセナのしょんぼりの原因を知って安心し、途端に食欲旺盛になった。

 モデルの一件を抱えたこんな状態のセナを一人にしておけない。 何より現場で鉢合わせるセナがこのまま抜け殻で居られると、ジメジメして気分が良くない。

 アキラもケイタも、セナの生い立ちを知るあまり過剰に心配してしまいがちだが、この数カ月は大したことのない些細なすれ違いでセナは病んでいく。

 それはハルも同じなのだろう。

 恋愛経験のないセナとハルは小さな事で周囲を巻き込むほど思い悩み、それが結果、惚気に変わったりするのだ。


「今日のこの集まり何なんだよ……」


 黙々と食べて飲んでを始めた二人を、セナは眼鏡を上げながら不満そうに見詰めた。


「セナ、そのビールもう抜けてるだろーから次のやつ頼めば?」
「いらねぇって。  水でいい」
「何だっけ、セナが好きだった甘いやつ。  それ頼めばいいじゃん」
「あー何だったっけ!?  セナ!」
「うるせぇ。  今のお前らに言うとめちゃくちゃ笑われそうだから言わない」


 セナはお酒が強くない。

 美味しいともあまり思わない、と言っているのを、打ち上げや食事会の度に聞かされていたアキラは、セナが唯一「美味い」と微笑んだそれの名前を思い出せずにケイタと悩んだものの、セナは教えてくれなかった。

 ウーロンハイを飲み干したケイタがふと腕時計を見て、アキラに目配せする。

 視線に気付いたアキラが何気なくスマホをいじり始め、ケイタにまた視線を戻して頷いた。

 刺し身にわさびをべったり付けて食べようとしている辛党のセナは、その二人の合図には気が付かなかった。

 アキラがスマホをいじって数分後、個室の扉の向こうから成田の声が聞こえた。


「おーい、三人いるかー?」
「いるよ~。  どうぞー」


 ケイタが返事を返し扉が開かれても、成田が合流したとて何ら違和感がないと思っているのか、セナは顔を上げずに蟹と格闘していた。

 その様子を見ていたアキラとケイタは、いつその存在に気付くかなとまたも笑いをこらえるのに必死だった。

 蟹と数分格闘していたセナが、ようやくケイタに「そのハサミ取って」と顔を上げた瞬間、持っていた蟹の足をポロッと皿の上に落とした。


「なっ…………」


 成田の隣には無表情のハルが居て、セナをジッと睨んでいる。


「……なんで……」


 その額には怒りマークがびっしりと浮かび上がっていて、セナは蟹臭い手を拭こうとおしぼりを持ったが情けなくその手は震えていた。

 よほどセナはハルと会うのが怖かったのだとアキラは察知して、ひとまず一度立ち上がる。


「ケイタ、こっち来い。  成田さんも。  ハルはセナの隣な」


 アキラの言葉に各々が動き始め、ハルもそれにならいセナの横にちょんと座った。

 だがセナはじわーっと掘りごたつから足を上げて、ゆっくり部屋の隅へと逃げていく。


「…………無理、……無理!」
「何が無理なんですか」


 一定の距離を保ったまま無言で見詰め合うセナとハルを、向かいに座る三人はその様子をしばし見届けた。

 動揺を隠し切れないセナの前で、ハルは小さく息を吸い込んだ。


「……聖南さん。  ……俺の事、嫌になったんですか?  ……だとしたら、帰ります。  もういいです」
「も、もういいって……違う!  嫌になんかなってねぇ!  なるわけねぇだろ!」
「じゃあなんで連絡くれなかったんですか?  何日も何日も。  既読も付かないなんて、おかしいじゃないですか。  あれだけ毎日連絡しろってうるさかったのに」
「……それは……っ」
「言えないんなら、俺がここに来た意味がないから帰ります。  ……お邪魔しました」


 戸惑うばかりのセナを、ハルは毅然と置き去りにするべく立ち上がった。

 怒っていた表情が悲しげなものへと変わり、そんなハルの背中をセナは情けない顔で見詰めているだけだ。





感想 3

あなたにおすすめの小説

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。