232 / 541
39☆
39☆ 12・仮装パーティーはお開きへ・・・
アキラも会場内へ戻る必要性を感じなかったので、ハルを連れてロビーでセナが戻ってくるのを待っていた。
向かいに座るハルはしきりにうさ耳を取りたそうに頭をいじっているが、それはカチューシャと、さらにヘアピン数本で固定しているようでなかなかうまくいかないようだ。
「耳、取りたいのか?」
「はい、もう嫌です。 自分でしちゃったからぐちゃぐちゃで……。 うぅ……早く着替えたい……」
自分で入れたピンが複雑に交差しているようで、取るのを諦めたハルはだらりとテーブルに突っ伏した。
部屋へ上がろうとしないハルは、セナに「俺に黙って着替えるな」とでも言われたのだろうか。
突っ伏している事でうさ耳がアキラの目の前にやってきたので、そのふわふわな手触りを楽しんでいると、ハルが小さな声で呟いた。
「なんか足も痛くなってきたし……」
「足? 痛いの?」
「え、はい。 そろそろ薬の時間だから」
「薬!? ハル、どっか悪いのかっ?」
どういう事かと驚いたアキラは、突っ伏したままのハルを覗き込むと彼はきょとんとして見詰めてくる。
足が痛くて薬を飲んでいるなどとは初耳だ。
「あれ……聖南さんから聞いてないんですか?」
「薬の事なんてなんにも」
「そうなんですか……」
体を起こし、よれた衣装を直すハルは心なしか嬉しそうにしているが、アキラはそんな事よりも「痛い」「薬」というワードに狼狽えて立ち上がった。
「いや、てかその薬の時間ってのが迫ってんなら、上行って飲んできたら? セナには俺から言っとく……」
痛いと言うからには一刻も早くハルを部屋に戻らせねばと、のんびりなうさぎをアキラは急かそうとした。
けれど会場入口から立派な海賊様が出て来て、立ち上がっているアキラに気が付き声を掛けてくる。
「おぅ、アキラ。 葉璃知らねぇ?」
「ここ居るよ」
「あー? 何で二人がこんなとこいんの」
早速セナの勘繰りが始まった。
アキラが説明を始めようと口を開くも、ハルうさぎが実に冷静にセナを見上げて耳を揺らす。
「聖南さん、お話終わりました?」
「あぁ」
ひとまず部屋へ行こうにも、その事を本人に告げておかなければ「葉璃はどこ行った!」と騒ぐために、ハルもアキラと同じくセナに一声掛けようとしていたらしい。
ハルはゆっくりと立ち上がり、腕からぷらんとぶら下がった時計を内ポケットに仕舞い込んでいる。
その何気ない動作が、アキラにとっては非常に目の保養だった。
「俺、部屋戻ってていいですか?」
「いいけど……どした? 中はやっぱ居づらい?」
「いえ……薬の時間だから」
「そうか、ならしょうがねぇ。 俺も行く。 痛みは?」
「少しだけ。 アキラさんに今その話しようとしてたとこで……。 あ、聖南さんはもう少し中に居てあげてください。 言ったでしょ、俺ばっか優先したらダメです」
「なっ……でも……っ」
「じゃあ、俺お先に失礼します。 アキラさん、話聞いてくれてありがとうございました」
一緒に部屋へ行く気満々だったセナをピシャリと拒否したハルは、アキラに一礼して微笑み、エレベーターで本当に一人で行ってしまった。
セナと対面しただけであんなにも人が変わったようになるとは、驚くなという方が無理だった。
業界の者等はもちろん、関係者は皆セナに一目置いていて低姿勢だ。
芸歴が長い事もそうだが、大塚社長とは実の親子のような間柄である事、そして何よりごくわずかの人間しか知らないであろうがセナの父親が業界に顔の利く者である事で、彼のバックはとにかく強い。
しかしセナはそのような後ろ盾を使わなくとも、この世界で生き残っていける才能と才覚がある。
だからこそ誰にも何も咎められない立ち位置に居るわけだが、唯一そんなセナを窘める事が出来るのがハルなのだ。
幼い頃から知るアキラは感慨深かった。
まさかセナの前に、これほど夢中になる恋人が現れるとは思いもしなかった。
ハルに出会わなければ、過去が闇深いセナはこれからどうなっていたか分からない。
アキラは、兄弟のように育ったセナの幸せをひたすら喜んでいる胸中を、実は照れくさいのでそっと胸にしまっている。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
元アイドルは現役アイドルに愛される
陽
BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。
罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。
ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。
メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。
『奏多、会いたかった』
『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』
やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【R18】兄弟の時間【BL】
菊
BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。
待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!
斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。
「じゃぁ結婚しましょうか」
眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。
そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。
「結婚しましょう、兄さん」
R18描写には※が付いてます。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。