必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
490 / 541
〜七月二十九日〜(全六話)

〜その晩〜




   正真正銘の葉璃の拉致事件に関し、社長直々に葉璃ママへと連絡が入ったが、ちょうどその場に聖南も居た事で話は呆気ないほどスムーズであった。

   葉璃が何もされていないと言い張った事、佐々木が舎弟を使って犯人達を戒めている事、葉璃ママが葉璃の意見を尊重すると容認してくれた事。

   それらは社長を落ち着かせるには充分で、そして聖南自身も、葉璃の意思が固い以上はもう何も口出すべきではないと思っている。

   ただ、大塚所属の、しかも会社を上げて熱を入れているデビュー直後の葉璃を拉致し怪我を負わせたとなると、社長も黙っていられなかったらしい。

   葉璃ママに何度も詫びた後、聖南と電話を代わった際に「そいつらはこの世界で二度と再起できないようにする」と声高に言っていて、聖南も深く頷いて「よろしく」と返した。


「───葉璃、怪我したとこ痛くねぇか?」
「全然。 って言いたいとこなんですけど、ちょっとだけ。 でも治り早くするテープもあるから、何日かの辛抱です」


   葉璃の聖南を想う愛と、佐々木の機転によって、あの一件は一部の人間だけが知る所となった。

   memoryが所属する相澤プロダクションと大塚芸能事務所は以前にも増して強固な連携体制が取れたようだし、聖南にとっても葉璃からの大きな愛を感じられたし、悪い事ばかりではない。

   だからと言って許せはしないが、「聖南さんとお揃い」とどこか嬉しそうだった葉璃の脇腹の傷痕を思い出すと未だ腸が煮えくり返る。


「二度とあんな事が起こんねぇようにするから。 それは風呂上がりに貼るんだろ?」
「そうですね、寝る前がいいかな」


   明日から葉璃は仕事始めだ。

 聖南も、強引にもぎ取った今日のオフを挽回すべく次の地へ飛ばなくてはならない。

 数日間も離れ離れになるので、そんな事は耐えられない聖南は葉璃を当然の如くお持ち帰りしてきた。

   今夜の夕食は中華のお店に行き、葉璃に大量に食べさせてご満悦な聖南は、使い慣れたキッチンでアプリコットティーを淹れてやっている。

   コーナーソファの角に腰掛け、ふわふわのクッションを抱いたいつもの葉璃を眺められて、聖南の気分は最高だった。


「はい、熱いから気を付けてな」
「わぁっ、アプリコットティーだ! ありがとうございます!」
「中華の後は紅茶がいいよなー」
「はいっ。 あ、聖南さんも同じの飲んでる」
「ん?」
「聖南さんと紅茶ってなんか……似合ってるようで似合ってないですよね」
「おい、また俺イジりかっ?」
「違いますよ! 聖南さんはブラックコーヒーのイメージが強いからだと思うんです。 紅茶飲んでるの、俺に合わせてくれてるのかなぁって」
「いや、葉璃のために淹れてるけど、俺は紅茶も好きなんだよ。 似合わねぇって初めて言われた」


   クスクス笑う葉璃に向かって、聖南は少しだけムッとした表情を見せる。

   大好きな葉璃に言われて不機嫌になってしまった聖南は、子どものようにプイとそっぽを向いた。

   葉璃ならどんな聖南でも分かってくれるとの信頼から、そんな態度を見せている。


「あ、もうっ、また拗ねてる! でも今のは俺が悪かったですね、似合わないって言葉間違えました! えーっと……イメージと違う?って言った方がいい?」
「……どっちにしても似合わないんだろ」
「似合います! 聖南さんに似合わないものなんてないです! ……もーっ、すぐそうやってムッとするんだから……」
「葉璃が俺をイジんだもん」
「イジってないのに! イジるのは、チャラいって事だけ……」
「それ! それマジで嫌! 俺はチャラくねぇ!」


   最高の気分が台無しである。

   葉璃のためにチャラい髪型をやめているというのに、いつまでそれを引っ張るのかと聖南は葉璃の腿の上に乗って言い返した。


「聖南さんっ、重いですよ!」
「葉璃が可愛くディスってくんだけどどうしてやろうか?」 
「誰に言ってるんですか!」
「読者。 ……いや何でもねぇ。 葉璃、……そのテープって結構枚数あんの?」
「え、読者?? テープなら、あんまり無かったと思いますけど……」
「じゃあ貼れるの朝方だと思っとけよ」
「…………っっ!!」


   もしかしてまた寝かせてもらえないのかと、葉璃が目をまん丸にして聖南を見詰めた。

   昨夜お預けを食らった、葉璃を前にしての一日禁欲状態の聖南は恐らく……言うまでもなく朝までコースだ。

   葉璃は傷を負っているのでいつもの休憩は多めに入れてやるが、それでも今夜は寝かせてなどやれない。


「明日の夕方までには解放してやるから、病院はそん時行こうな。 やっぱこの傷はちゃんと治そ」
「あっ……も、もうっ、紅茶まだ飲んでない……っ」
「な、葉璃? お揃いだーって言ってくれて嬉しかったけど、葉璃に傷は似合わねぇよ」
「んっ……聖南さ、んっ、……あっ……」


 聖南は、葉璃が持っていたティーカップを優しく奪ってテーブルに置くと、着ているシャツを捲って傷を見ないようにしながら、薄いピンク色した小さな膨らみを啄んだ。



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。