必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
493 / 541
〜八月某日〜(全六話)

ETOILE初歌番組♡①





   出番前は何をやってもダメだ。

   緊張して手も足も震えて、立っていられないから座るんだけど、座ったら座ったで落ち着かなくて水をたくさん飲んで催す。

   本番を迎えてしまえば、自分でも驚くくらい無心になれるのに……。






   俺は、先月の終わりからETOILEとして動き始めていた。

   デビュー会見後がちょうど夏休みだからって、来た仕事を目一杯受けてスケジュール帳が真っ黒になってたものを、一つ一つこなす日々。

   最初は様々な媒体の雑誌取材やインタビューが多かった。

   ポーズを指定されて何枚も何枚も大きなカメラで写真を撮られたり、矢継ぎ早な質問を次々とこなしていったり。

   その合間に、デビュー曲である『silent』を引っさげてのサイン会や握手会を全国各地のCDショップで行うとの事で、挨拶回りにもかなりの日数をかけた。

   俺も恭也も新人で、マネージャーである林さんも入社二年目の新人さんで。

   三人で四苦八苦して、事務所の色々な人から助けられながら半月ほど経った今日、ついにそのデビュー曲が発売される。

   テレビやネットでCMが流れていたおかげか予約受付は絶好調で、大塚事務所と契約している音楽サイトで『silent』が先行配信された二週目の今も、ダウンロード数一位をキープしてるらしい。

   「おめでとう!」って言ってもらえるにはまだ早過ぎるのに、事務所のスタッフさん達は顔を合わせる度に笑顔を向けてくれた。

   ETOILEとしての責任感が僅かながら生まれた俺も、売り上げどうこうの話はあんまり分からない。

   実のところ、俺は「売れたい」よりも「踊りたい」「歌いたい」の方が先行しちゃってるから、「おめでとう」にピンときてないのかも。

   こんな事、大人達の前では絶対に言えないけど……ね。

   今日は『silent』発売に合わせて歌番組での出演が決まっていた。

   ハルカとして聖南と出会った、あの生放送の歌番組だ。

   今日を皮切りに、来月中旬にかけて歌番組も徐々にこなしていかないといけない。

   だから今日、こんなに狼狽えてちゃダメなんだ。

   少しずつでいいから、この出番前のドキドキを減らす努力をしていかないと……って、さっきから頭で考えてるんだけど。

   全然、うまくいかない。

   ヘアメイクも衣装も整い、前室に呼ばれるまで待機を命じられた俺と恭也は、控え室にこもってジッとしていた。


「葉璃、今日はCROWNも一緒だから、良かったね。 心強いね」
「………………」
「葉璃ー? 聞こえてる? ……ダメか」


   立ったり座ったりを落ち着き無く繰り返してる俺に、恭也はいつも通り冷静に寄り添ってくれてる。

   恭也が何か言ってるのは分かってるんだけど、返事するだけの余裕が今の俺には皆無だ。

   人という文字を飲み込むアレは、もうやらないって決めた。

   だって全然効かないんだもん。

   聖南って文字を書くといいって恭也は教えてくれたけど、これ書いちゃうと聖南に会いたくなってたまらなくなるし、余計に緊張が募る気さえした。

   ツアー真っ最中のCROWNが、俺達の出演と被ってたのは偶然だ。

   というより、CROWNの方が先に出演が決まってたんじゃないかなと思う。

   あれからツアーには三回、同行した。

   デビュー曲披露もその都度させてもらって、聖南達も毎回バックダンサーとして踊ってくれている。

   轟く声援とキラキラした眩しい世界を体感する度に、俺は「ダンスが好き」「もっとうまく歌えるようになりたい」この気持ちが芽生えてきてて、ほんとに、緊張なんかしてる場合じゃないのに。

   いつもいつも思うけど、ステージに上がるまでのこれは一体なんなの。

   なんでこんなにガクガクしてしまうんだろう。

   絶対に慣れる日がくるから安心しろ、って聖南もアキラさんもケイタさんも言ってくれるから、「はい」って返事はしてみるものの……そんな日がほんとにくるのかな。


「ETOILEさーん、前室待機お願いしまーす!」
「……はーい」
「────っっ!!」


   呼ばれちゃった。

   どうしよう、もうそんな時間……っ?

   壁掛け時計を見ると、確かに時間は進んでいた。

   ……目が回りそうだ。


「葉璃、トイレ行って、それから前室行こうね」
「…………っうん、……うん、……」


   広さのない控え室を挙動不審にウロウロしていた俺を捕まえて、恭也がトイレに連れて行ってくれた。

   道中、膝が笑ってどうしようもないから恭也にしがみつくと、ちょっとだけ笑われた。


「これ、いつ頃なくなるのか、楽しみだな。 ……なくなっちゃうのは、寂しいな」


   ふふっと笑う恭也を見上げるといつも、ちょっとだけ裏切られた気持ちになる。

   去年まで似た者同士だったでしょ、俺を置いてキラキラな世界に慣れていかないで。

   足並み揃えて緊張を分かち合おうよ、恭也……。


「……恭也……緊張しないの?」


   洗面所で手を洗いながら、喉が閉まっちゃってたから掠れた声で鏡越しに恭也へ問う。


「してるよ、すごく」
「嘘だっ。 余裕だぜって顔してるよ……!」
「緊張、してる。 でも葉璃が、いるから、大丈夫。 何にも怖くない」
「…………恭也……」



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

元アイドルは現役アイドルに愛される

BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。 罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。 ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。 メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。 『奏多、会いたかった』 『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』 やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【R18】兄弟の時間【BL】

BL
色々あってニートになった僕、斑鳩 鷹は当たり前だけど両親にめっちゃ将来を心配されまさかの離島暮らしを提案されてしまう。 待ってくれよ! アマゾンが当日配送されないとこなんて無理だし、アニメイトがない世界に住めるか!  斯くて僕は両親が改心すればと家出を決意したが行く宛はなく、行きついたさきはそいつの所だった。 「じゃぁ結婚しましょうか」 眼鏡の奥の琥珀の瞳が輝いて、思わず頷きそうになったけど僕はぐっと堪えた。 そんな僕を見て、そいつは優しく笑うと机に置かれた手を取って、また同じ言葉を言った。 「結婚しましょう、兄さん」 R18描写には※が付いてます。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です