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〜八月某日〜(全六話)
ETOILE初歌番組♡③
出演アーティストが歌唱順にスタジオに入って行き、その度に拍手と歓声が巻き起こる。
三番目の出番らしいCROWNが入って行った時には、局ごと揺れたんじゃないかと思うくらいの大歓声だった。
ツアー中で歌番組が久しぶりだからか、裏のモニターでスタジオの様子を見てると、聖南がめちゃくちゃはしゃいでいた。
出て行っただけの数秒で、しかも喋ってないのに、あの存在感。
アキラさんとケイタさんが笑いながら、はしゃいでる聖南の両腕を取って定位置に連れて行ってる。
……人気絶頂のアイドル。
……芸歴が長くて事務所内でも実権握ってる。
そんな事を少しも鼻にかけない、ああいう無邪気で飾り気のないところ、ほんとに好きだな……。
モニターでスタジオの様子を見てたら、四組目のロックバンドの人達が呼び込まれて行った。
ETOILEは新人なので、この番組の方針に沿って最後の出順だ。
……あぁ、もう。 腕と足が震える。
デビューしたばっかの俺と恭也が出て行ったら、みんなポカーンとしてこの熱気が無くなっちゃうんじゃないかって、そんな不安にも押しつぶされそうだ。
『最後は、先月デビューしたばかり! ETOILEのお二人です! どうぞ!』
い、行かなきゃっ。
ついに呼び込まれてしまって、ちょっとだけ恭也に凭れかかる。
「葉璃、行くよ。 大丈夫、俺がいる」
「…………う、ん……」
頷くと、恭也がニコ、と微笑んでくれた。
スタッフさんに誘導されて、膝がガクガク笑ってたけど、何とか一歩一歩踏み締めて歩き、スタジオ内に入って行く。
さっきまでの「キャーッ」が一瞬で止む想像をしてたのに、俺達が出て行っても空気は何にも変わらず温かかった。
向かって右端に司会者が居て、ずらりと出演順にアーティストが並ぶ一番後方に、俺と恭也は立った。
……眩しい世界に来てしまった。
明る過ぎる照明、目の前には五台のテレビカメラ、その奥には何十人もの大人達。
振り返る勇気はないけど、後方の客席には左右に五十人ずつ観覧客もいる。
なんと言っても、生放送だから、こうしてる今もテレビの向こうでたくさんの視聴者がこの番組を観ている。
あ、そんな事考えるんじゃなかった。
頭真っ白だ。
恭也……ごめん、今日もぜーーんぶ、恭也任せになってしまうかもしれない……。
『それではまず一組目、Lilyの皆さんです!』
オープニングトークもそこそこに、Lilyと紹介された十一人組のダンスグループがセット内の持ち場についた。
音楽が流れ始めてパフォーマンスが行われている最中、他の出演者達はゾロゾロと後方の席へと移動する。
足取りの重い俺を心配してくれたのか、聖南とアキラさんとケイタさんが席に誘導してくれた。
そして当然のように俺の隣に聖南が座ってるけど……席順これで合ってるのかな……。
「なぁ葉璃、思い出すよな。 初めて出会った日の事」
「え……?」
聖南が小声で耳打ちしてきた。
そうだ。
ハルカの影武者だったあの日の俺は、まさしくこの場所、この位置で聖南に話し掛けられた。
金髪に近いロン毛で、とてつもなくチャラかったあの頃の聖南を思い出す。
俺はあの時いくつものプレッシャーを抱えてたから、今の比じゃないくらい緊張してたっていうのに、何だかどうでもいい事をニヤニヤしながら話し掛けられたっけ。
「スタジオの外でまず一目惚れしたんだけど。 葉璃のダンス見て、その後この場所で目が合って……撃ち抜かれたんだよな。 思い出すなぁ」
こんな内容の耳打ち、絶対に今するべきじゃない。
どんどん顔が熱くなる。
緊張とは違うドキドキが、俺の心臓をうるさくさせてしまう。
目の前でカメラに向かってパフォーマンスをしている女の子達のダンスに集中したいのに、聖南がそれを許してくれない。
気付けばさっきよりピタッと密着してきてるし、カッコいい袴姿だし、髪型もキマってるし、いつも通り綺麗でヤンチャな顔してるし、照れくさくてかなわない事言ってくるし……。
「せ、聖南さん、ちょっ……照れるからやめてください」
「あの日のこと忘れた事ねぇよ、俺。 葉璃のために歌ってたのに、葉璃はずーっと下向いて手のひら文字やってたよな」
「だって初めてハルカの影武者した日でしたから……」
「あん時、マイク持ったまま葉璃のとこまで来て、「こっち向けよ」って言いそうになったんだ。 危なかった」
「えぇ……っ?」
「恋は盲目、って言うだろ。 あの時から俺は葉璃の虜♡」
「いや、あの……、聖南さん、今本番中ですよ……!」
話の達者な聖南は、いつでも司会者から話題を振られてもいいようにマイクを握っている。
今はそのスイッチ切られてるかもしれないけど、いつオンになるか分からない。
本番中で、尚且つ俺はETOILEとしては初めての歌番組なんだから、ヒソヒソ話で俺をメロメロにしてくるのはいけないと思う。
俺と聖南のコソコソは、カメラにもバッチリ映り込んでるはずだ。
聖南が俺にピタッと密着して耳打ちし、フッと優しく微笑んでるその姿も、真っ赤な顔で狼狽える俺のあたふたも。
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