499 / 541
〜十月某日〜(全十話)
1♡〜ハロウィン特別企画〜
──なんでっ? なんで俺だけ?
「葉璃、いつまで、膨れてるつもりなの」
「…………なんで……俺だけ……」
「仕方ないでしょ。 作家さんが、そう決めたんだから。 とっても、似合ってるよ」
「う~~~~っっ」
唸らないの、って恭也が微笑む。
いいじゃん、恭也は白衣着てるんだから。
ちゃんとしたお医者さんが着るような、ドクターコートを着てるのは恭也だけじゃない。 CROWNの三人もみんな、ドクターコートを着てる。
それなのに俺は、……女性もののナース服だ。
頼んでもいないのに、これは何故か超ミニ丈。 ついでに、本来無いでしょってくらいの厚底ナースシューズも履かされて。
「今はしてる看護師さんあんまり見ないけど、一応ね!」と付けられたナースキャップも、しっかり頭に装着されている。
……ねぇ、どうして?
どうして俺だけナース服なの……?
今日は歌番組のハロウィン特集の回だ。
ツアーを大成功に収めたCROWNと、ありがたい事に八月に出したデビュー曲が未だトップテンに入ってる俺達ETOILEが、今日はセットで呼ばれている。
事務所の先輩後輩であるCROWNとETOILEのメンバー五人が、三組に分かれて曲目を披露する、まさにハロウィン特別企画なんだそう。
出演が決まった先月末時点から、それぞれが持ち歌ではない曲を番組の作家さんから指定されて、合間合間に練習に励んできた。
さっき見てきたのは、聖南とケイタさんの収録風景。
この時はまだ俺は私服のままだった。
局が大々的に売り出す予定の映画が医療系をモチーフにしたものらしいから、宣伝と仮装を兼ねて白衣を着ての録りだって事は聞いてたし、特に変に思ったりはしなかった。
聖南のドクターコート姿がやけに似合ってて見惚れちゃったけど、俺も一時間後には本番だからぼんやりしてられない。
なぜなら、俺だけ一人なんだ。
聖南とケイタさん、アキラさんと恭也、この二組が出来上がってて、そうなると俺は自然と一人での歌唱って事になるよね……。
作家さんから渡された曲が、やたらとエッチな歌詞が目立つアップテンポナンバーだったから、これを一人で歌うの!?って最初はドキドキだったけど……振り付きだから覚えてしまえば意外と気にならなくなった。
互いの曲目を知らされてない聖南にも、どの曲歌うんだ?って聞かれてしまったから、本番まで秘密!って言って誤魔化しておいた。
この曲はちょっと、事前に聖南に伝えておくのはマズイ気がしたからだ。
聖南の事だから、歌詞がエッチ過ぎだから選曲を変えてもらう、とか平気で言い出しそうだもん。
収録を見学して控え室に戻った直後、スタイリストさん達に囲まれた俺は十五分後……この姿になっていた。
──で、冒頭に戻る。
CROWNとETOILEは別々の控え室だけど、もう何となく分かってしまった。
ナース服なの、たぶん俺だけだ。
どうしてみんな俺を女装させたがるの?って膨れてると、恭也がずっと背中を擦ってくれた。
似合ってるよ、そりゃ。 みんなはね。
背が高いしカッコ良くて凛としてるから、本物のお医者さんみたいだし。
もし俺が着るとしたら研修医用の白衣とかかなって思ったのに、ナース服とはやられた。
予想もしてなかった。
「じゃあ、俺、収録行ってくるね」
「…………うん。 がんばって……」
「あ……セナさんには、葉璃の衣装の事、ギリギリまで秘密だからね。 ここで、ジッとしてて」
「…………うん……」
何だか楽しげに控え室を出て行った恭也は、今日も緊張なんてしてなさそうだった。
俺は一人でカメラの前に立たなきゃいけないし、このナース服のミニスカート加減には慣れないし、いつもより何倍も緊張してるっていうのに……。
「……聖南さん……なんて言うかなぁ……」
まーた女装させられてんの、ってニヤニヤしそう……。
「せめてこのスカート……長くなんないのかな」
あまりに短いから、スカートの裾を引っ張ってみるけどそんな事で長くなるわけない。
はぁ、と溜め息を吐いて大人しく着席した俺は、手のひらに「聖南好き」って書いてみる。
ちょっと前に聖南に言われてから、ちゃんと「好き」を足してみてるけど、これもあんまり効果がない。
むしろ逆効果だ。
聖南って文字を書くだけで会いたくなるのに、好きって書いちゃうと胸がぎゅーって苦しくなる。
出番前の緊張と聖南への想いが一緒くたに襲ってくるから、このおまじないは今までの「人」文字よりもっと効果が望めない。
「ハルさーん、スタンバイ行きましょ~」
「……ヒッ……!」
も、もう恭也とアキラさんの録り終わったの……!? まだ三十分も経ってないよ!
……スタッフさん達を待たせるわけにはいかないから、俺はゆっくり立ち上がって短いスカートを鏡越しに直す。
「聖南さんが見に来てませんように……!」
控え室を出ながらそう願ってみたけど、……聖南はスタジオに陣取ってるだろうな。
確実に。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
元アイドルは現役アイドルに愛される
陽
BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。
罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。
ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。
メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。
『奏多、会いたかった』
『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』
やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。