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〜 一月某日 〜(全九話)
6♡葉璃の嫉妬①
千秋楽を迎えた聖南に心からの「お疲れ様でした」を、まだ言えてない。
苦手だなんて言ってられない、ちゃんとお祝いしてあげなきゃ……と思い裏口の扉を開けてみたその時から俺は、子ども染みた嫉妬に心を支配されている。
俺の目の前で、仕事仲間とはいえ女の人とイチャイチャするなんて許せない。
ひどい。 ……ムカ、つく。
立食形式の打ち上げの途中で、聖南は俺を送らなきゃいけない体で早々と抜け出したはいいけど、ずっと心の中がモヤモヤする。
抱き合ってるシーン(聖南は違うって言ってたけど)をバッチリ目撃しちゃった後に、その相手の人と仲良さそうに喋ってるところをわざわざ俺に見せつけてきたんだよ。
人前なのにぎゅっと俺の腰を抱いて、逃げられないようにしときながら。
聖南はすらりと背の高い綺麗な女の人と並んでた方が絵になるから、俺はあぁいう場面を見るといつも劣等感に襲われる。
『愛してるのは葉璃だけ。 何も疑うな』
何度も何度も、俺がぐるぐるする度に聖南はこう言ってくれるけど、聖南の隣に居る自信なんか持てるわけない。
もう卑屈な事は思わない!って決めても、ちょっとの事で俺はすぐに自信を失う。
聖南が俺を選んでくれてる理由が、途端に分からなくなる。
俺じゃない人と楽しそうに喋って、笑ってる姿を見ると、ぎゅうぅって胸が苦しくなって、最後はムカついてしょうがなくなるんだ。
卑屈でネガティブな俺でも、ヤキモチくらい焼く。
別れなきゃ、って決断を急いじゃう反面、無性に腹が立つなんて……支離滅裂もいいとこだよね。
俺の事好きって言ってくれたのに。
俺の事だけ見てるって笑ってくれたのに。
どうしてその人と笑い合うの。
俺には分からない話をして、二人で納得し合うの。
───いや、ほんと、……俺ってとことん訳分かんなくてヤな奴だ。
「葉璃、いつまで黙ってんだよ。 今度は何をそんな怒ってんだ」
「………………」
「葉璃ちゃーん」
「………………」
布団にくるまって聖南の視線から逃れていた俺は、上からのしかかってくる重みに潰されかけた。
タクシーで聖南宅に着いてすぐ、聖南が部屋着に着替えてる間に一人でさっさとシャワーを浴びた俺を聖南は咎めたりしなかったから、気が緩んでたとこはある。
主役の女優さんと聖南が仲良く話してたのがほんとに嫌だったし、それを見てた俺の心の余裕の無さにも嫌気が差してたから……聖南の顔を見られなかった。
だってヤだったんだもん。
……それしか言えない。
「もう~葉璃ちゃん、マジで何なんだよ~。 久々に会えたんだから抱っこくらいさせろよー」
「………………」
「はーるー! いい加減に出て来ねぇと無理やりやっちゃうからな! いいのかよ! 俺はすげぇ不本意だけど、嫌がる葉璃を押さえつけて穴に指突っ込んでぐっちゃぐちゃに掻き回して首筋噛んで泣かせ……」
「や、やめてっっ!!」
黙って聞いてたらすごい事を言い始めて、聞くに耐えなくて慌てて布団から出る。
飛び出した瞬間、俺を待ち構えてた聖南に力強く抱き締められて体が固まった。
「やーっと出て来た。 するわけねぇだろ、俺が葉璃を押さえつけてヤるなんて」
「…………聖南さんはやりかねない……」
「やめろよ! 俺そんな事しねぇよ。 葉璃は激しいのは好きだけど痛いのは嫌いだもんな?」
「…………っ」
……分かってるよ、分かってる。
聖南が強引に俺を押さえつけたりなんかしないって、そんな事は……。
顔を覗き込まれてドキドキしてると、背中に回された腕が早速パーカーの隙間から滑り込もうとしてるのに気付いた。
すぐに素肌に触れられて、大きな手のひらが俺の背中を撫で回す。
このパーカーを俺に着せたがる理由だけはハッキリしてるね、聖南……。
「で? なんでイジけ虫になってたのかなー、俺のかわいー葉璃ちゃんは」
「……言いたくない……」
「ふーん? そんじゃ、はじめまーす」
「な、っ? 何を……っ……わっ!」
「何って決まってんだろ。 一週間もお預け食らってたんだ。 聖南さんは超~~~葉璃不足です」
イジけ虫じゃなくてヤキモチだってば。
……なんて恥ずかしくて言えないでいたらあっという間にパーカーを脱がされて、押し倒される。
下着だけのあられもない格好で聖南を見上げると、さらりとお腹を撫でられた。
「覚悟しろよ、イジけ虫くん」
「イジけてないってば……!」
「じゃあ何なの。 タクシーん中でも手繋いでくんなかったし。 話し掛けても上の空だし」
「タクシーの中で手なんて繋いだら、運転手さんに変に思われるからですよ!」
「見えねぇようにコートのポケットに手入れりゃ良かったんだよ」
「…………んっ……」
俺の様子がおかしかったワケを徹底的に聞き出そうとしてる聖南が、不満そうに目元を細めた。
ずるい……そんな顔ですらカッコいいなんて……。
近付いてくる聖南の顔に見惚れていると、ちゅ、と音を立てて唇を奪われた。
少しだけ唇を開くと、すぐに聖南の舌がやってくる。
顔の角度を変えて、深く交わるその舌の勢いに圧されて俺は目を瞑った。
「なぁ、言えよ。 なんでイジけてたの」
「イジけて、……ん、ふっ……、ない……」
「今日譲らねぇな、珍しい」
「んっ……んっ……っ……ふ、ん……」
離れてくれない聖南からのキスは、いつも以上にしつこい。
なかなか唾液を飲まそうとしてこない事からも、俺への追及を優先させようとしてるんだって分かる。
……そんな……言えないよ、……恥ずかしいもん。
怒ってもいるし、拗ねてもいる。
けど一番の理由は、胸に広がるぎゅってした痛みの正体。
ぬるっとした刺激が気持ちよくなってきた俺は、いつの間にか聖南の背中に腕を回していた。
「あ……もしかしてイジけてんじゃなくて妬いてんの?」
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