必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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~四月某日~(全四話)

❥新居にて③




 部屋着に着替えている様をジッと見ていた聖南は、ムラムラを押し殺して葉璃をリビングに引っ張ってきた。

 ETOILEは、セカンドシングルを発売して約一ヶ月。

 今週のランキングも五位以内をキープしていたために、この時間まで歌番組の収録があった葉璃は少々疲れ気味に見える。

 葉璃のお気に入りの場所であるコーナーソファの角に腰掛けさせて、聖南は紅茶を淹れようとキッチンに立った。

 そしてやはり、葉璃は例の真っ白モコモコクッションを抱いている。

 ──可愛い。


「はい、お疲れ」


 アールグレイをミルクティーにしてやると、ティーカップを受け取った葉璃は香りを嗅いだあと「わぁ…」と感嘆の声を上げた。

 その声と表情に、聖南も「わぁ…♡」だ。

 しばらく葉璃がミルクティーを楽しむ横顔を黙って見詰めていた聖南は、唐突にある事を思い出す。


「なぁ、葉璃。 ここに住むからには、俺の通帳ぜんぶ渡しとくから金関係を葉璃に管理してもらいてぇんだけど。 なんか良くねぇ? 奥さんって感じで」
「えぇっ? 嫌だ! 絶対嫌です!」
「即答かよ! なんで嫌なんだ!」


 まさかそんな剣幕で一蹴されるとは思ってもみなかった。

 度々呼ばれる情報番組では、世の夫婦は妻が金の管理をしていると知った聖南は、葉璃にそれを託そうと心に決めていた。

 驚愕に目を見開き、ミルクティーを吹き出しかけたこの様子では恐らくそれは無理そうだが。


「俺には絶対扱いきれない金額だからですよ! 聖南さんは事務所の税理士さん付いてたじゃないですか。 その方に引き続きお願いしてください」
「税理士に任せてんのは税金関係だろ? 葉璃がさぁ、毎月決まった日に「はい、今月分♡」っつって現金渡してくれたら、俺の夢がまた一つ叶うんだけどなぁ」
「……渡すだけなら一回だけしてあげますけど、その後はやりませんよ。 というか、お金の話だから言いにくいなって思ってたんですけど……逆に、俺の通帳を聖南さんに渡しておきなさいって母さんに言われました」
「葉璃ママに? 俺が葉璃の通帳管理すんの?」
「はい。 俺まだ未成年だし、家出た事ないから、毎月どれくらいお金かかるとか分かんないじゃないですか。 その点、聖南さんは独り暮らし長いのならしっかりしてるでしょって」
「うーーーん……」


 葉璃ママの言う事は正しい。 正しいのだが、何やら気が引ける。

 独り暮らしが長いと言っても、聖南は一般家庭の感覚を持ち合わせていない。

 葉璃に三百六十五着もの服を買い与えようとしているほど、金銭感覚は狂っている。

 物を粗末にしたりはしないし、無駄も極力抑えようとはしてきたけれど、葉璃が絡むと湯水のように使ってしまう。

 どう考えても、しっかりはしていない。

 葉璃ママがそう言っているのなら、歳上である聖南が責任持って管理すべきだと分かっているが、腕を組んでしばし考え込んだ。


「ダメですか? 俺のギャラ?お給料?もそこに入るようになってるんで、そこから生活費とか……」
「いや、そういうのは俺がもつからいいんだけど。 でも葉璃も自由になる金は持っといた方がいいだろ?」
「そうなんですけど、今キャッシュレスの時代だから何とかなるかなって。 必要な時は、聖南さんに〝お金ください〟って頼みます」
「え…………今なんて言った?」


 そうか、今は現金がなくても不自由なく生活出来るか……そう納得しかけた矢先、ある台詞が聖南の心臓を撃ち抜いた。

 葉璃が抱いていたモコモコクッションを優しく奪って、瞳をギラつかせる。


「あぁ、えぇっと……キャッシュレスの時代だから何とかなる……」
「違う、その後!」
「その後って……〝聖南さんにお金くださいって頼みます〟……?」
「それ! それすげぇかわいー!」
「どこが可愛いんですか……」
「ちょっ、もっかい言って? ください、じゃなくて、ちょうだいに変えて」
「聖南さん……また変な性癖出てますよ……」
「言って! 頼む!」


 呆れ顔の葉璃に両手で拝んでみせると、はぁ、と一息吐いてクッションを奪い返される。

 葉璃に管理してもらうよりも、妙な背徳感を覚えてドキドキするこちらの方が、聖南には魅力的だ。


「…………聖南さん、お金ちょうだい」
「~~~~っ!♡」


 我ながら恋人に何を言わせているんだろうと、頭の中の冷静な部分ではきちんとそんな自覚はあった。

 だが、とてもキた。

 元々セックス中の泣き顔が好きな聖南は、葉璃が聖南のせいで困ったり戸惑ったりするとたまらなく萌える、変わったフェチを持つ。


「やる! 全財産やる! 葉璃になら持ってる株とか不動産とか全部やる! 何なら昔康平から貰った通帳もやる! まったく手付けてねぇから!」
「えぇ!? い、いらないですよ! 何言ってるんですか、ほんとにもうっ!」


 可愛いカツアゲにご満悦な聖南は、呆れ返った葉璃にバシッと肩を叩かれたがニヤニヤが止まらない。

 これが予告なしに聞けるのなら、葉璃が未成年のうちは聖南が管理してやろう。  いやむしろ、願い出よう。


「あー……いいな。 金の話してんだけどすげぇテンション上がった。 同棲開始って感じ味わえてるわぁ」
「ほんとですね。 でもお金の話ってなんか……色気ない……」
「お、じゃあ色気のある話する?」
「いいですよ。 どんな話ですか?」
「決まってんじゃん。 今夜のセックスについて」
「────っっ!」




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