必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
537 / 541
~五・六月某日~(全五話)

♡新たな任務

─葉璃─  五月某日




 CROWN「セナ」のイメージカラーは黒。

 その黒の背景に真っ白な羽根が弯曲に描かれている五センチ四方のキーホルダーを、たったいま聖南から二つ貰った。

 裏面には、これまた黒の背景に筆記体で「SENA」と書かれている。  文字の色は銀色。

 これはライブ会場やネット通販で売られている、CROWNのグッズの一つらしい。

 つるつるした表面は傷が入りにくい加工がされていて、デザイナーさんの羽根の絵も背景もなんだか凄く洗練されていてかっこいい。

 イメージカラーと名前別に、アキラさんとケイタさんのものもあるなら、聖南に内緒であとでこっそり買っておこうかな。


「いいか、コンシェルジュはもう葉璃の顔覚えてるかもしれねぇけど、万が一のためにこの鍵持っといて」
「え、二つ……?」
「こっちが隣の部屋ので、こっちがここの」
「あぁ、そういえば隣のお部屋借りたんでしたっけ……」


 このマンションの家賃は、俺が考えてるより何個も0が多いと思う。  怖くて、詳しく知ろうとした事はない。

 俺と聖南の付き合いのカムフラージュのために、聖南はもう一つ部屋を借りた…しかも偶然空いていた隣に。

 アキラさんとケイタさんは心配して言ってたんだよ。

 『新人アイドルがそんないいマンション出入りしてたら、逆にマスコミにネタ与える事になってカムフラージュにならないだろ』って。

 ほんとにほんとに、その通りだと思った。

 でも聖南は、八重歯を覗かせてニヤッと笑い、もし突撃取材を受けても(無いと思うけど)「後輩が先輩の家に居候して何が悪い、前例ありまくりなこと突っついてメシ食う気かっつって追い返してやる」なんて笑い飛ばしていた。

 もう借りてしまった後だし、聖南は聞く耳持たないしで、俺は何も言う事はしなかった。

 カムフラージュ用の隣の部屋も、仮装パーティーの時の社長の助言で生活必需品は揃えてるみたいだ。

 ……誰も住まないのになぁ。  勿体無い…。


「そうだよ。  葉璃の住民票は隣の部屋に移してあっから、間違えんなよ?  まぁ住所書く事なんてほぼほぼねぇだろうけど」
「え、なんで俺の住民票を聖南さんが移せるんですか?  そんな事できるの?」
「出来ねぇよ。  葉璃ママに頼んだ」
「なるほど……。  なんか母さんとめちゃくちゃ打ち解けてますね、聖南さん……」
「そうなんだよ。  葉璃ママ超理解早えし最高だよな。  あとは葉璃パパとも親密にならねぇと」
「もう大丈夫だと思いますよ。  お父さんも聖南さんの事いい先輩だなって言ってたし」


 この同居も、聖南が頻繁に俺の両親とコンタクトを取り続けていたからこそ、すんなり事が運んだ。

 母さんに至ってはもう俺達の事はバレてしまってるけど、お父さんにはさすがに言い出せなかった。

 聖南は打ち明ける気満々だったのを、なんと母さんが止めたんだ。


「そこなんだよなぁ!  ヤバイんだよ、いい先輩状態が続くのはよくない。  愛し合ってます宣言しにくくなるから早めに打ち明けないと、マジでタイミング逃す!」
「お父さんにはまだですもんね」
「葉璃ママがちょっとずつ説得してくれるっつー話だけど、俺も地味めには動かねぇとな」
「ここは、張り切ってる母さんに任せてたらいいですよ。  聖南さんが息子になったって毎日家で騒いでて喜んでたから、うまくやってくれそう」
「マジでか!  嬉しいな!  葉璃ママにまたこれやってやんなきゃ」


 お気に入りの香水を手首にシュッと振りかけて、その手首を耳の後ろに擦り付けた聖南が、俺に手銃を向けてきた。

 俺も、母さんも、実は聖南のこの手銃にメロメロだったりする。


「あっ……!」
「え、何。  葉璃もこれ好きなの?」


 ───俺がキュンッてなったのがバレた。

 無表情でいたつもりなのに。  すごい。

 セクシーな香りを纏った聖南が、嬉しそうに近付いてくる。

 これから事務所に行かなきゃいけないから、夜は冷えるし薄手の上着を羽織ったところで聖南に捕まった。


「……はい。  カッコいいです、それ……。  客席からCROWNのライブ観てた時、それされてドキってしました」
「えーえーえー♡  それ早く言えよっ」
「…………っ!」


 俺のキュン顔をすぐに見抜いた聖南に、手銃攻撃を連発される。

 片目を細めてのそれは、すごく気障なんだけど聖南にはよく似合ってる。

 ほんとに、直視出来ないくらいカッコいい。

 いや……カッコいいのはいつもか。


「わっ……!  聖南さんっ、時間時間!」


 「かわいーなぁ」と言いながら抱き締めてきた聖南と、くるくる回りながらソファに倒れ込んで笑い合っていた俺は、はたと我に返る。

 現在の時刻、午後八時。

 この時間に聖南と居られる事が嬉しくて、柄にもなく舞い上がってしまった。


「あー?  もうー?  葉璃との貴重なイチャイチャタイムが社長のせいでなぁ……」
「こんな時間から社長のお話って、何なんですかね?  恭也も呼ばれてるって聞きましたけど……ETOILEの件かな」
「いや、アキラとケイタも来いって言われたらしいから、別の話じゃね?」
「え!  アキラさんとケイタさんもっ?  みんな集合ですか」
「そうだな。  葉璃、二人に会うの仮装パーティー以来?」
「ほんとだ、そうですね。  二ヶ月近くお会いしてない……」
「アイツらも葉璃はどうしてるかってうるせぇから、ちょうどいいな。  行くか」
「はいっ」


 笑顔で頷くと、聖南は綺麗に微笑んで頭をヨシヨシしてくれた。

 俺は、キーホルダーが付いた二つの鍵をクローゼットの中にしまい込んで、玄関で待つ聖南の元へ駆けた。

 だって今は、鍵はいらないもん。

 聖南と出掛けて、聖南と帰ってくるんだから。



感想 3

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

【完結】優しい嘘と優しい涙

Lillyx48
BL
同期の仲良い3人。 ゆっくり進んでいく関係と壊れない関係。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。