必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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~五・六月某日~(全五話)

♡新たな任務④




 女装して、知らない曲の振りとフォーメーションを覚えて、視聴者に違和感を感じさせないように完璧に踊る。

 俺は正直、影武者経験があるからそれに関してだけはそこまで大変な事じゃないと思ってたけど……大きな間違いだった。

 「Lily」を知らなかった俺は、打ちひしがれている両隣は置いといて、ケイタさんが背後にやって来て見せてくれた動画に呆然とした。

 足の動き、ステップ、一糸乱れぬ振り……上半身のこの振付けが半端ではなく細かい。

 まるで一文字ごとに手や腕、指先までもがクネクネと動いてるように見えて、これは、曲を覚えたところでそうやすやすと体に入るものじゃない。

 memoryの時とはかなりダンスの種類も違っていて、CROWNともETOILEとも当然違う。

 細かい振付けと女性らしい足の動かし方はとても独特で、それが十一人全員ピタリと揃っている様は圧巻の一言だった。

 こんなの……通して踊れるようになるまで相当時間が掛かるよ。

 毎日毎日、メンバーと連携取って呼吸を合わせなきゃ無理だ。

 しかも、何だろう……。

 衣装がエッチっぽい。

 三曲動画を見せてもらったけど、全部ミニスカートかショートパンツで、足が丸出しなんだよ。

 かろうじて上半身にはヒラヒラがいっぱい付いてるからか、見ようによってはそうでもないようにも……見える。

 ……いや、どうかな。  世の男達からするとLilyの衣装は、ムラムラっとしちゃうんじゃないのかな。


「おい……これを葉璃に着せろってのか……?」
「葉璃は、こんなエッチなの、着ちゃダメだよ……っ」


 画面を覗き込んできた両隣から悲痛な声が届いて、「あ、やっぱそう見えるんだ」ってすぐに納得した。

 そして、二人が同時に頭を抱えた理由も分かった。

 それぞれ形は違っても、俺に異常な愛情をくれる二人には耐え難い事らしい(ナースのコスプレした時と何が違うんだ)。

 動画を見せてくれていた俺の背後から、ケイタさんが社長に問い詰める。


「ねぇ、もちろんハル君に決定権あるんだよね?  拒否します、って言えないようになってたりしないよね?  大塚芸能事務所は、業界一位二位を争うでっかい事務所だもんね?」


 さりげなーく嫌味と圧力を含ませているケイタさんの問いに、社長は苦虫を噛み潰したような微妙な顔をした。

 その瞬間、そこに居た全員が俺を見て、それから……聖南を見た。


「ハルの影武者を遂行するにあたって、ここに居るお前達の協力が必要だ。  人助けだと思って……な?  ハル」
「な?  じゃねぇよ……」
「セナ、お前の理解と協力が一番必要なんだよ。  この話は、ハルがもう一皮剥ける大きなチャンスだ。  ……ハル、やってくれないか?」


 みんなの視線が集まってきて、俯く俺の返事をジッと待ってる。  ───「はい」っていう返事を。

 両隣はそれを望んではいないだろうけど、社長の言う通りなら俺は……やるしかない。

 新人だから何でもやりますというスタンスを見せたかったのもあるし、現状は聖南とCROWNの名前におんぶに抱っこな俺が断るなんて、それこそ不相応だと思ったから。

 気付いたのは、この話を聞いてすぐに俺ってばまた「無理だ!」とネガティブ全開だった事。

 取り巻く周囲と俺の立ち位置は一変しているのに、俺自身が以前とまったく変われてない事がすごく嫌だったんだ。

 春香に頼まれた時もそう。

 佐々木さんのお父さんに、アイドルとしてデビューしないかと誘ってもらえた時もそう。

 CROWNのライブに同行して、バックダンサーを演るってなった時もそう。

 最初は「ダメだ」「無理だ」なんて言っておきながら、最後には「やって良かった」と達成感に涙していたくせに、俺は何を恐がってるんだろう。

 全然、前に進めてないよ。

 根暗野郎のままじゃ、聖南の隣に居られないのに。

 自信がない事を恥ずかしいと思わなきゃ、この世界ではやっていけないんだから。

 俺は、聖南に猛反対されるのを覚悟でゆっくりと頷いた。


「───やります。  がんばります。  でも、一つだけいいですか。  ……スケジュールをうまく組んでもらって、過労死しない程度にがんばりたいです。  俺はまだ死ねないんです。  やり残した事がいっぱい、あるので……」


 指先をモジ…としながら勇気を出してそう言うと、アキラさんとケイタさんが何故かゲラゲラ笑ってくれて、社長室の空気が一気に明るくなった。


「ハル君、セナの言葉真に受けてるー!」
「兼任の間は確かにめちゃくちゃハードかもしれないけど、ハルが過労死するほどの無理は絶対させないから安心しろ」
「ほんとですか……?  それなら、……あの振付け相当大変そうで不安ですけど、がんばります」


 女装だけは不安じゃありません!とは、もちろん言わなかった。

 春香の影武者だった件は、まだ社長と林さんは知らないんだから、余計な事は言わないに限る。


「葉璃……本気か?」
「葉璃……本気なの?」
「うん、決めた。  がんばる」


 俺がちゃんと目を見て頷いた事で、両隣からは一段と大きな溜め息が聞こえた。

 動揺してても仕方ない。

 いつも俺の影武者任務は突然で、絶対的に拒否権は無かった。

 嫌だ、無理だ、ってゴネてても、結局はやるしかなかった。

 俺がやらなきゃ、困る人しか居ないから。

 だったらやるしかないよ。

 俺がその話を引き受けて会社の役に立てるなら、聖南との仲を裂かないでいてくれた社長のためになるなら、半年間という期限付きの影武者……過労死寸前までやってやる……!




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