狂愛サイリューム

須藤慎弥

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49♡デート

49♡16

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 どれだけ重要な内容なのか知らないけど、聖南は俺に聞かせるためだけにレイチェルさんとの会話を録音していた。

 ちょっと深刻そうな顔で、「何があっても誤解されたくない」だって……。

 いったいどういう会話なんだろう。

 そんな前置きされると嫌でも身構えちゃうよ。

 聖南の表情がずっと強張ってて、何だか怒ってるようにも見えるし……。


『── ~~さんと二人きりだなんて!』
「…………っ!」


 うわっ、ビックリした! いきなり始まるんだ……!

 ……って、再生したんだから当たり前だよね。

 ビクッと肩を揺らした俺とは対照的にまったく動じない聖南は、画面を睨んだまま一時停止をタップした。

 まだ再生して五秒くらいだったのに、どうしたんだろ。


「── ここで俺、腕打った」
「えっ!?」


 おもむろにバスローブの袖を捲って見せてくれたそこが、確かに赤くなっている。これは……後々青紫色になっちゃう地味に痛いやつだ。


「開けたと同時にズイッと近付いてきたんだよ。咄嗟に体捻って避けたんだけど、おかげで壁に激突した」
「だ、大丈夫なんですか……?」
「いや、これが痛いとか言いてぇわけじゃなくて。レイチェルのはしゃぎようがスゴかったんだ。それを伝えたくて」
「あ、あぁ……」


 そのはしゃぎっぷりなら、再生して五秒でもうかなり伝わってるよ。

 秘書室でばったり出くわした時に俺に牽制してきた時とは、まるで声色が違ったもん。

 いつもなら俺の反応にクスクス笑ってくれたりする聖南が、ずっと真顔だ。つられて俺も、神妙になる。

 再生マークをタップした聖南が「続けるぞ」と言った声も緊張感たっぷりで、だけどその理由がすぐに分かった。


『セナさん、お待ちしておりましたわ! 私たちがこうして二人きりになるのはいつぶりかしら? リテイクの日以来だから……一ヶ月半ほど? やだ、もうそんなに経つのね。セナさん、私はこの時を待ち侘びていました! お会いしたくてお会いしたくて、おじさまにも何度かワガママを言ってしまいましたの。けれどセナさんはお忙しい人。おじさまは私のワガママを聞き届けてはくださいませんでした』


 息吐く間もない、大はしゃぎのレイチェルさんの声。

 いつ息継ぎしてるのってくらい矢継ぎ早だ。

 聖南に会えた喜びで大興奮しちゃってて、言いたい事が止められなかったんだろうな。


『あ、あぁ、そう……』
『セナさんからのご連絡を今か今かとワクワク待つひとときも楽しかったですけれど、私はセナさんと直接お会いしたかったのです! 実は、いろいろとお尋ねしたいことがあります。私の胸に秘めた想いも、もう一度どうしても、お伝えしたかった』
『…………』


「…………」


 流暢な日本語を、こんなに早口で操れるなんて単純にすごい。純日本人なのにどもりまくる俺とは大違いだ。

 饒舌なレイチェルさんに対し、聖南の塩対応っぷりもヒドイ。

 好意をもたれて嬉しくない人はいないというけど、恋人がいる聖南に向かって真正面から好き好きアピールをするのは、なんか違う気がする……。

 後からこうして聞いてる俺でさえちょっと引いてるから、それを直に見聞きした聖南は体ごと後ろに傾いていそうだ。


『んーと……俺喋っていい?』
『やだ、私ったら! セナさんにお会いできて嬉しいあまり、ペチャクチャとうるさかったですわね! 少し落ち着きますわ。……セナさん?』
『そこから動くな』
『えっ……?』
『いいか、その位置から一歩たりとも動くんじゃねぇ。俺に近付いたら即帰るからな』
『そ、そんな……』


 うわぁ……塩対応の極みだ……。

 俺、好きな人からこんなこと言われたらショックで逃げ出したくなるよ。

 とてもその場にいられない。

 だって、想像でしかないけどきっと聖南は一見みんながビビっちゃうくらいの、あの真顔だったに違いない。そのうえ、この声、この台詞。

 どう少なく見積もっても自分は拒絶されてるって、普通は気付くもんじゃない?

 うーん……卑屈ネガティブを地で行く俺だから、そう思うのかなぁ……。


『分かるだろ? ただでさえこの状況はあんまよろしくないんだ。恋人が居る身だしな、俺』
『……セナさん……私、なにかセナさんの気に触ることをしてしまったのでしょうか……』


 あっ、ちょっと気付いてる!

 でも、聖南が不機嫌そうだなって程度の疑問形。

 こうして聞き返せる勇気、大したもんだよ。

 俺には無理だ。こんなに強いハート、俺は持ってない。


『あぁ、いや……パーソナルスペースに入ってほしくないだけ』
『パーソナルスペース、ですか?』
『分かんねぇならいい。とりあえず距離は保っててくれ』
『はい、……』


 そこでハッとしたのか、聖南の声が少しだけ和らいだ。

 不機嫌を貫き過ぎると、強心臓のレイチェルさんだとしてもまともに会話が出来なくなるかもしれない。

 こうして録音しようとするくらい重要な話がしたかったんだとしたら、感情的になったレイチェルさんの逃亡だけは避けたかったはず。

 とはいえ聖南は、〝パーソナルスペース〟ってやつを保ってほしいという事だけはビシッと訴えていた。

 そんなにグイグイきてたのかな、レイチェルさん……。


『胸に秘めた想いってやつは後にして、俺に聞きたいことがあるなら先にどうぞ』
『先に私がお話してよろしいのですか?』
『よろしいから聞いてる』


 聖南の言い草に、油断していた俺は吹き出しそうになった。いつもいつでも変わらない姿勢に、キュン……ともした。

 胸に秘めた想いってやつを先に受け取らず、相手に話させておいてなお聖南のペースに持っていこうというのがひしひしと伝わってきたからだ。


『私……ついこの間、エトワールのハルさんとお会いしましたの』
『へぇ、そうなんだ』
『あら、ご存知ありませんでした?』
『なんで俺がその事を知ってると思ったの』
『深い意味はありませんわ』
『あぁそう。……で?』


 密着してベッドに腰掛けている俺たちは、今時有線のイヤホンを片耳ずつ付けて〝密会中〟。

 だけど、ただ会ってイチャイチャするんじゃない。

 これからどう転ぶか分からない、俺たちにとっては弱味でしかない切り札を握っている相手との直接対決を、この貴重な密会中に聴いている。

 もっと話したい事があったのに。

 もっとやらしい事、したかったのに。

 聖南がもうこれ以上痩せてしまわないように、七日に一回はデートしようって決まったばかりでウキウキだった心が、完全にシュンとしぼんだ。



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