狂愛サイリューム

須藤慎弥

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52★♣〝嬉しい話〟

52♣⑩

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 恭也と二人になった戻り道、今度恐縮し始めたんは強面のイケメンやった。


「俺乗せたままだと、また戻らなきゃ、ですね。すみません」
「ハルポンも恭也も謝り過ぎやから。どうってことない距離やし気にせんでくれ。俺が二人とおりたかったんよ。てかこれから恭也をメシに誘おうとしとるし」
「えっ!?」
「メシ、行かん?」
「いいですよ」


 言うが早いか、恭也はすぐにスマホで親に連絡を入れた。

 どさくさ紛れやったのに、しかもハルポン居らんのに即答してくれたん、めちゃめちゃ嬉しい。

 俺と二人でのメシは気まずくない、いうことやろ?

 特番の前日に行ったような、個室のあるちょっといい居酒屋でも行こか。そう言うと、恭也はそれにも二つ返事やった。

 運転中の俺に代わって予約を取ってくれたり、マップ開いて店までの道案内してくれたり、めちゃめちゃ協力的でまた嬉しなった。

 ダチとも違う、ハルポンとの関係性とも違う、恭也との関係は不思議なもんという他ない。

 未成年の俺たちは二十二時までに店を出らなあかんが、三時間もあればたらふく食えるやろ。

 晩飯時は大食いファイター並みの胃袋を持つハルポンがおらんのは、俺も恭也も少しばかり寂しいけど。


「恭也はノンアル飲まんの?」
「俺は……よく分からないんで。どれが、どんな味するのか、分からないと、嫌じゃないですか」
「苦手やったら飲み干さんでもええやん」
「それは、作ってくれた人に、申し訳ないので」
「……ほんま、恭也とハルポンて似てるよな。考え方も言う事も」
「そうですか? それは、結構……嬉しい……」


 掘り炬燵式の個室に通された俺たちは、〝ちょっといい〟言うても賑やかしい居酒屋で大人しくソフトドリンクを注文した。

 仲良く揃って烏龍茶を頼み、それにしとやかに口をつける恭也は、ハルポンと思考回路が似てると言われて嬉しそうにはにかんだ。

 一品料理もちょこちょこ頼みつつ、なんやかんやと言いながら腹ぺこやった俺たちはまずは食事に集中する、ここでも阿吽の呼吸。

 こういうとこがマジで心地いい。


「なぁなぁ、決算月のパーティーて何するん? なんで羞恥心無くせ言うてたん?」


 向かい側の恭也の食事のペースが落ちたとこを見計らって、数時間前から気になっとった事を聞いてみた。

 するとピタッと箸を止めた恭也が、苦い顔で天井を仰いだ。


「あぁ……そうだ。羞恥心……無くさなきゃだ……」
「どういう意味なんよ! 教えてぇな!」


 デカい会社やったら年末とか年度末に関わらずパーティーなんかしょっちゅうありそうなもんで、そこはあんま気に留めてなかってんけど。

 羞恥心を無くす、の意味がマジで分からん。

 はぁ、とため息を吐くイケメンは見るからにブルーになってもうて、そのパーティーとやらがあんまお気に召さんらしい。


「三月の決算月パーティーは、年末にあったお疲れ様パーティーより、もっと……言い方は悪いですが、ふざけてます」
「ふざけてる?」
「参加者はみんな、例外無く、コスプレして出席します。そのコスプレも、自分じゃ、決められません。ホテルの、指定された部屋に入ったら、衣装と、その衣装についての簡単な説明書きが、ベッドの上にポンと、置かれてるだけです」
「なんやそれ! めっちゃ楽しそうやん!!」


 逆に堅苦しさ満点のパーティーを想像しとったから、そんなんテンション上がるわ!

 大塚芸能事務所、決算月の三月にそんな楽しいことしてたんか。

 社長もやるやん。

 年末のパーティーはチラッと一時間くらい参加したが、ハルポンは不参加、恭也も早々に帰りはったし、俺は社長とだけ話してそそくさと帰ったんよな。

 スーツ着た芸能人やらお偉いさんがぎょうさんおったなかにずっとは居れんし、二人が居らんなら俺はそこに用が無かった。

 やけど来月は! 二人ともガッツリ参加する! しかも俺も参加してええんやろ!

 しかもしかも、コスプレして!?

 陰キャ組とか根暗なキャッチフレーズの付いた二人のコスプレとか、見た過ぎる……!


「そうかぁ、そうなんや。楽しみなことばっかや。ちなみに恭也は何やったん? 出席したんは過去二回、やっけ?」
「……一昨年は死神で、去年は天使でした」
「真逆!! そんじゃハルポンは?」
「葉璃は……一昨年が、うさぎ。不思議の国の○リスに出てくる、うさぎ、分かります? コスチュームがまんま、それでした。去年が……黒猫、だったかな」
「ハルポンは動物シリーズなんかな」
「ふふっ……。さぁ?」


 大塚ともあろう事務所が適当な衣装をこしらえるとは思えんし、二人のコスプレはなかなか完成度高かったんちゃうやろか。

 ますます楽しみや!

 一体どんな感じなんか、想像だけじゃ追い付かんな。

 大いに興味をそそられてしもて、完全に食べる手が止まってしもたがしゃあない。


「二人の写真無いん? 見てみたい」
「…………あるには、あるんですけど、……」
「うん?」


 恭也もついに、箸を置いた。

 食事も終盤やからって手止めさせてスマンと思いつつ、スマホを取り出した恭也の手元に目がいく。


「これを俺が持っていることは内緒にしていただきたい。特にセナさんと葉璃には」
「ンッ、恭也がスラスラ喋る時はガチで必死の時やからな。秘密は守るで」
「はい。頼みます」


 おぉ、恭也こっち来るんか。

 おもむろに立ち上がって俺の隣に座った恭也は、まるで誰かが憑依したみたいになめらかに喋ってはる。

 さすが、デビューから二年連続で映画の準主役に抜擢されただけのことはあるわ。

 バレたらマズイ写真を持っとるとの事で、俺も心して見てみようやないの、……と恭也が開いたスマホの画面に、俺は文字通り釘付けになった。


「……なんやこれ。恭也の完成度もかなりえぐいんやが……ハルポン……なんやこれ……」
「でしょ? 俺が内緒にしてでも所持していたい気持ち、ルイさんなら分かりますよね?」
「……分かる、分かるで。でもちょっと落ち着け恭也」
「葉璃、この黒猫の時より少し肉付きが良くなったんですよ」
「へ、へぇ?」
「たった一年なんですけど……。セナさんが毎晩たくさんご飯を食べさせてくれてるからでしょうね……。抱き心地が全然違う。元々かなり痩せていたので、抱きしめたら壊してしまいそうだったんです。でも最近は少しふっくらしてて……それがすごく可愛くて……。いやそれでも痩せてる方なんでしょうけど、もっとモチモチになってもいいくらいだと俺は思うんです。ルイさんはどう思いますか? ルイさんはどちらかというと細身の方が好きそうですよね」
「お、おう……」


 とんでもなく饒舌過ぎる恭也に、圧倒された。

 ハルポンが痩せとるとかいう次元の話やない。恭也の興奮度合いは、やっぱりハルポンに対していかがわしい想いを感じる。

 いや感じずにはおれん写真ではあったが。


「俺は……そやなぁ、俺もガリガリは好みやないよ。少々肉付きよくても全然構わんし、むしろそっちのが好きかもしれん」
「分かります! 俺、細身の方に惹かれがちだったんですけど、最近の葉璃を見てたら幸せな気持ちが倍増しちゃって。もっともっとモチモチになってほしいとまで。ふふっ……」
「気持ちは分かるけどな、あんまり肥えるとアイドルやんのキツなるからなぁ」
「ですよね、残念」
「……っ、あはは……っ」


 恭也、興奮のあまりなめらかに喋り過ぎやって。コワイコワイ。こっちは笑うしかないて。

 でも、そんだけの代物やった。

 そのまま映画に出演できそうな完成度の恭也は、「めっちゃええやん!」と言えた。

 ただ……ハルポンの黒猫姿は……エロかった。

 エロいしかなかった。たまらん可愛かった。

 あかん、抱けちゃう。……そう思った。

 まぁまぁそんなに興奮せんと。付くもん付いたオトコノコに違いないんやから、と恭也を宥めようとした俺は、とても人のことは言えん。

 明日……肉付きチェックのためにハルポンを抱きしめてみてもええかな。







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