狂愛サイリューム

須藤慎弥

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57♡見せかけ

57♡⑧※




 温もりきったあったかい部屋では、全裸でいても全然寒くない。

 だからって産まれたままの姿で、しかも万人から愛されてる恋人の前で四つん這いになってると、寒いわけでもないのにぷるぷるっと震えてしまう。


「んー……別に異常は無さそうだけどな。まだムズムズする?」


 薄暗かった明かりを調整した聖南は、俺のお尻を鷲掴んでムニッと開き、まじまじとそこを見て言った。

 今こそ穴があったら入りたい心境で震える俺にこの恥ずかしい格好を強いた恋人は、いたって真剣そのものだ。

 ……なんで聖南は浴衣を羽織ってるのに、俺は全裸なの……って、騒いだ俺には文句を言う資格が無い。


「さ、さっきよりかなりマシになりました! な、なのでもう……ていうかこの格好すごく恥ずかしいんで、あの……っ」
「待って、穴の中も見せろ」
「中っ!? い、い、いやもうほんとに大丈夫なんで……っ!」


 聖南がやらしい意味で言ってるわけじゃないのは、表情を見れば分かる。

 お尻のムズムズは、聖南が綺麗に洗ってくれてからほとんど感じなくなった。

 あれはいったい何だったんだろう、と考える間もなく、心配気な聖南が俺のお尻をガン見し始めて数分。

 なかなか離してくれない聖南に、俺は「もう大丈夫です」って三回は言った。……と思ったら今度は中まで見るって……!?

 ど、どうやって!?


「ボディーソープの刺激でムズムズしてたんだろうな。中がどうにかなってたらヤバイから、ちゃんと見ときたい」
「あ……そういう事なんですか? ボディーソープ使って体洗ってもムズムズしませんでしたけど……」
「いやアナルは別だと思う。デリケートな場所だからな」
「……今までこんなことなかったんでビックリしました」
「俺も」
「…………っ」


 そうだよね。聖南は驚いたと思うよ。

 さっき聖南が「何事かと思った」ってぼやいてたけど、その言葉にすべてが詰まってる。

 そっか……ボディーソープは何でも大丈夫ってわけじゃなかったんだ。

 たまたま今まで何も起こらなかっただけで、こういう事もあるんだって初めて知った。

 聖南が冷静でいてくれて良かった……。


「ほら、あと中を確認したら終わるから」
「聖南さん……どうにかなってるかなんて、見て分かるんですか?」
「見ても分かるし、指の感触でも分かる」
「えぇっ?」
「でもやたらと指入れねぇ方がいいか? んー……」


 どうしよ、と呟く聖南の表情を確認するために、俺はこっそり振り返った。

 あ……やっぱりやらしい顔してない。

 俺はもはや聖南の目を見ただけでムラムラしてるかどうかが分かるようになっちゃったから、少しだけ残念な気持ちになった。

 勝手に騒いどいて何だけど……。

 今日はもう、しないのかな……?

 羽織っただけの浴衣の隙間から大きくなった〝聖南さん〟が覗いてるんだけど、どうするんだろ。

 でも本気で心配してる聖南に横槍を入れるようなことは言えないし、何よりまだ大事な話の途中だ。


「ちょっと待ってな」
「え?」


 立ち上がった聖南が、浴衣の前を整えながら寝室を出て行った。

 ちょっ、どこ行ったのっ?

 俺、四つん這いで取り残されたんだけど……このままでいるべき? 横になってていいの? ちょっと待ってってどれくらい? すぐ戻って来る?

 その場で固まった俺は、どうでもいい事を真剣にぐるぐるする悪いクセが出た。

 またもやぷるっと震えて肩肘をついたその時、聖南が何かを持って戻って来た。


「指入れるにしてもローション必要だろ」
「あ、……」
「そんな不安そうな顔しなくていい。今日はしないから」
「えっ、えっ!? でもさっき……っ」
「状況が変わったんだからしょうがねぇじゃん」
「…………」


 やる事はやるって聖南が言ってたのに……。

 まぁでも、これはムズムズしちゃった俺が悪い。あげく大事な話はそっちのけになってしまってるし、聖南もやる気が削がれちゃったんだよね。

 ……聖南の聖南さんは、目のやり場に困るくらい元気いっぱいなんだけどな。

 同じ男だから、やる気満々だとしても萎えないことはないって知ってる……とはいえ、人より性欲が強い聖南が我慢できるのかは知らない。

 やらしい代物を手のひらの上で人肌に馴染ませてる聖南は、仕事モードの時みたいに真面目な顔付き。

 だけどそれを、どこにどうするの。

 ……我慢、できるの……?


「何か言いたそうだな、葉璃ちゃん?」
「い、いやっ、今日はその……するものだと思ってたんで……っ」
「でもムズムズするんだろ? 様子見た方がよくない? 俺の挿れてムズムズ悪化したら大変だし」
「それは……っ、そうかもですけど……!」


 な、なんかこれって、俺がめちゃくちゃエッチしたがってるような会話じゃないっ?

 聖南はやらないって言ってて、でも俺はやらないのはおかしいと食い下がってる……そう聞こえなくもないよねっ?

 あ、いや、……そうなのかな。

 ほんとは俺、したいと思ってるんじゃないの。

 体は正直でも聖南の瞳はやらしくなくて、それが残念に感じたってことは……。

 それに、話もそこそこに慣らそうとしたのだって、ほら、だって……いざって時にすぐ……。


「ムズムズし始めて俺が来るまで、結構経ってた?」
「……いえ、聖南さんすぐに来てくれたんで五分くらいかな……。分かんないですけど……」
「そっか」


 こうしてる今、さっきのムズムズはウソみたいに消えている。

 すぐに聖南が来てくれて、洗い流してくれたからヒドイ状態は避けられたと思うんだ。

 背後でローションを温めてる音がぬちぬち聞こえると、俺はどうしてもやらしい気持ちになる。

 聖南は違うの? 俺のことが心配なあまり、そういう気になれない?

 騒いじゃった手前、俺は何にも言えないって分かってるけど、聖南が見て異常が無いと思ったなら、別に……。


「聖南さん、あの……、聖南さんが大丈夫だったら、大丈夫ですよ、俺は……」
「ん?」
「あ、えっと、いや……その、……」
「ん~? なになに~?」


 うぅ……聖南、ちょっとだけ楽しそうな声になってる……。

 俺がその気になってるって気付いたんだな。

 こんな恥ずかしい格好を何分も耐えてる俺に、聖南はまだ何か特別なセリフを言わせようとしてる。

 そしてきっと、俺がそれを言わなきゃ聖南はその気になってくれない。

 俺が思ってる以上に、聖南はムズムズをかなり心配してるからだ。


「も、もうムズムズしてないんで、聖南さんが、……聖南さんが……」
「うん。俺が何? とりあえず指入れるよー」
「えっ、あっ……」


 『ムズムズしてない』じゃダメなんだ……!

 問答無用でぬぷっと侵入してきた指にビクついて、たちまち体を縮ませる。

 声も抑えられなかった。


「ん~……いつもと変わんねぇかなぁ。色も……うん。いつも通りに見える」
「あぅっ……んっ……んっ」


 ゆっくりと何かを確認するように回し挿れられた指を、つい締め付けてしまう。

 知らん顔で〝確認〟し続ける聖南は、いつもに増してゆっくりゆっくり指を動かしてくれてるんだけど、それが何ともじれったい。

 たっぷりのローションが指の動きを滑らかにしてくれていて、俺が反射的にきゅっと締めても聖南はへっちゃらそうだ。


「どう? 違和感ある?」
「ない、です……っ! あっ……やだ、そこっ……」
「葉璃ちゃんの指の長さだったらここまでが限界だろうな」
「んっ……ふっ……」


 腰が落ち着かない。やらしさを感じないたった一本の指が、俺のその気をもっと高めていく。

 ほんとに確認してるだけなの? と疑いたくなるほど、聖南はしつこく中で指を動かしていた。

 たまにイイとこを掠められると、もはや抑える気の無い声がどんどん上擦っていった。

 俺じゃ届かないところまで指の腹を使って念入りに確認する聖南に、『もう大丈夫』を伝えるには何をどう言えばいいの。

 聖南が言ってほしいこと、……。

 聖南が俺に言われて嬉しいこと、……。

 聖南のやる気を復活させる言葉……。



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