狂愛サイリューム

須藤慎弥

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0❥CROWN

CROWN⑥

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 相手が全員武器を持っていなかった事から、本気で聖南をその拳のみで袋叩きにするつもりなのだろう。

 聖南は光太に、紅色天賦の族員には誰一人この事を教えるなと言っておいたので、無論人数的には圧倒的に不利だ。

 しかし負ける気がしない。

 頭の悪そうな男の前に立ち、ぐるりと背後の連中を見回しても、一殴りで始末が付きそうな相手ばかりだった。


「日向聖南ってお前かぁ。  ゲーノー人だってほんとかぁ?  全然知らねぇなぁ」
「知らなくて当然。  ロクにテレビなんぞ見ないだろ、お前。  最近俺も露出ねぇけどな」
「え!?  聖南、芸能人なのか!?」
「光太もかよ。  説明めんどいからそこはスルーしとけ」
「んな事はどうでもいいんだよ~。  この写真ばら撒かれたくねぇなら相手しろよなぁ」
「写真って何だよ」


 背後で光太に驚かれて気が抜けそうになる。

 目の前の男は、聖南を知らないと言いながらポケットからくしゃくしゃになった写真を二枚、チラつかせてきた。

 後ろに控えた連中のうちの誰かが、聖南についてを調べ上げたようだ。

 目を凝らして見てみると、男が持つ写真には、金髪の聖南が喧嘩相手に馬のりになって関節技をキメているものと、打ち切りになる前に流れていたCM出演時の聖南が写っていた。

 ようは、世間に日向聖南の闇をバラされたくなければ大人しくぶん殴らせろ、という意味なのだ。

 わざわざ聖南の痛いところを突こうとする相手の必死さに、かえって闘志に火が付いた。

 思い通りにはならないと目を据わらせて男を睨んだのだが、視線が合わない。

 男は聖南の後方を見詰めて、何故か含み笑いをしている。


「あれお前の弟~?  子分~?」
「───何だと?」


 光太はさすがに弟には見えないだろ、と振り返ったそこには、驚くべき事に見知った顔が二つあった。

 二人は聖南に近寄ろうとするところを光太に腕を取られて止められていて、聖南は据わらせた瞳を見開く。


「お前ら……!」
「セナ!  もうこいつらみたいなのと関わらないって約束してたんだろ!  なんで…!」
「セナーっ!  なんかここ怖いよ…!  早くスタジオ戻ろうっ?」
「じゃあなんで付いて来たんだ。  来るのは俺だけでいいって言っただろ!」
「だって……セナとアキラが喧嘩したら俺が止めないとじゃん!」
「俺とセナが喧嘩するんじゃなくて、セナがアイツらと喧嘩するんだよっ」
「えっ、なんで!?  セナ、なんで喧嘩なんてするんだ?  喧嘩はよくないよー!」


 様子のおかしかった聖南を案じ、タクシーに乗り込んだすぐ後ろをアキラとケイタが尾けて来ていたらしい。

 まったく気が付かなかった自身に呆れつつ、来てしまったものはしょうがないので「ったく…」と彼らの元へ歩もうとした聖南を、男が大袈裟に嘘笑いをして引き止めた。


「ガキがガキの子分の連れて来やがった、ウケる!  じゃあまとめてやっちまうかぁ」
「なっ…やめろ!  あいつらに手出すな!  その写真バラ撒かれたとこで俺は痛くも痒くもねぇ!  んなもん無くてもお前ら相手してやっから!」
「あはは…っ、必死になってやんの。  写真なんかお前呼び出す口実に決まってんだろ~?  俺の族員まとめてボコりやがって…三人も骨折って戻ってきたんだからなぁ?  それ相応のお返しが必要だろ?」


 ───三人骨折った?  それめちゃくちゃ前の話じゃねぇか。

 確かに、聖南が関節技を極める前は幾人かを絶叫させてしまっていたが、その者らの族の総長という事だけは分かった。

 顔も族名も覚えていないけれど、そんな昔の話を持ち出すなどよほど悔しかったのか。

 袋叩きするつもりで何人も族員を引き連れて来るとは、相手するこちらが恥ずかしい。

 卑怯な奴らのその性根も気に食わない。


「セナ!」
「セナぁ!」


 何度も聖南を呼び続ける二人が居ると集中出来ないので、男を見据えたまま声を張った。


「こっちに来るな!  光太、そいつらを安全なとこに逃しとけ!」
「いや、それだと聖南一人で…っ」
「いいんだ、俺は今んとこ腕っぷししか取り柄ねぇから。  えーっと。  一、二、三……十五人か。  いいぜ、一人でやってやるよ。  かかってこい」
「カッコつけんなよ、ムカつくわー。  てめえら、やっちまうぞ!」


 聖南がフッと笑うと、いきり立った男達の雄叫びがこだまする。

 アキラ達が物陰に隠れたのを見計らい、向かってくる連中の方に走り込んだ聖南の身のこなしは少しも衰えていなかった。

 この一年のレッスンメニューがハード過ぎて、体力も筋力も以前より増したおかげか動きが軽やかだった。

 聖南の予想通り、関節技をキメる前の拳一打と一蹴りで次々と相手をなぎ倒していけて爽快だとすら思う。

 しかし、こうして人を意味もなく地面に転がすのは、これが最後。  本当に最後。

 こんな場面を見せたくはなかったが、アキラとケイタにも分かってもらいたい。

 聖南はこんな世界を経験していたのだと。

 普通に暮らしていたらまるで縁のない、狭い世界に聖南は生かされたのだと。


「さーて。  ……あーやっぱり一時間かかったな。  おい、お前。  今の俺の貴重な時間を奪った見返りは?」
「ぐっ…っ…あぁ!?」


 相変わらず一発も食らう事のないまま、考え事をしていてもいつの間にか十四名を叩き伏せていた。

 残るは総長、ただ一人。

 右腕を捻り上げた聖南は、男が持っていた写真を奪って自身のポケットに突っ込む。

 そして不敵に微笑んだ。


「お、まだ威勢いいな。  両腕キメっか」
「痛え……っ、手を……、手を!  離せぇぇっ!  何をする気だ……!  グハッ……!」
「ジッとしてろよ、下手に動くと折っちまう。  じゃ、いきまーす。  これで終わりな?」
「やめろ、やめろ……!  やめろーーっっ!」



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