狂愛サイリューム

須藤慎弥

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2❥ピアス

2❥④

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 スタジオに入る直前、先に全員を中に通した聖南はルイの方を向いて、忠告という名の痛い体験談を述べた。


「そうか。  でもな、遊ぶのもいいがほどほどにな。  中途半端な事してっと、俺みたいな痛烈なしっぺ返しくっから。  一昨年のニュース見たろ」
「あはは…!  セナさんは派手に遊び過ぎでしたもんな!」
「うるせぇ」
「今は彼女一本なんでしょ?」
「もちろん。  ゾッコンだ!」
「うわ、古ー!  ゾッコンって古ー!」


 過去の自らの乱れた性生活は、本当に身に沁みて後悔している。

 晴れて付き合えたとしても、欲望のままだった過去の過ちを消す事など出来なくて、想いを伝えたところでなかなか信じてもらえなかった。

 葉璃は特にかもしれないが、それだけ遊んでいると相手に信用してもらえるまでの道のりが非常に困難なのだ。

 まだ自制の効かなそうな若造だからこそ忠告してやっているのに、ルイはあっけらかんと返してきてイラッとした。


「ルイ…お前殴られてぇのか?」
「あーあーあー!  パワハラはよくないっすよ!  俺なんも言うてないし!  古ー!って言うただけ…」
「それがいけねぇんだっつーの。  お前とは六つも離れてんだ、古ー!なのも仕方ねぇ」
「それもそっすね!」


 ゲラゲラ笑いながらスタジオに入って行ったルイの背中に「この野郎…」と呟いて、聖南はスタッフ等に挨拶をして回った。

 曲を流してのリハーサル時、目の前にあるモニターで背後のダンサーとの動きの確認もしていたが、今日初めて合わせたとは思えないほどのシンクロ率だった。

 彼等は振りも立ち位置も完璧に頭と体に入れてきていてプロ意識を感じたと共に、相当な準備をしてくれていた事が窺えた。

 ちょうど聖南のバックで踊るルイは、新メンバーながらセンターポジションを任されているのも頷ける。

 ダンスのテクニック、絶妙な抜き加減は聖南と通ずるものがあった。 

 そして会話をしていて思ったのだが、ルイには地方育ち故のおおらかさがある。  都会で育った聖南はもちろん、身近な者にルイと似たようなタイプの男は居ない。

 聖南と対等に口が利ける点も好印象で、物怖じしない性格も気に入った。

 他の二名も同様で、こちらは聖南に対しては若干緊張の面持ちではあったが、いざ本番となると顔付きが変わりケイタの人選に狂いはないと思わせてくれた。

 飛び抜けたセンスがあって骨のある奴がバックダンサーについてくれたと、聖南は素直に嬉しかった。


「───次は来月の生特番だ。  そん時はステージ広いからもう少し動きやすいと思う。  客席見えてテンションも上がるしな。  …じゃ今日はお疲れ、ありがとう」


 本番の録りもNG無く終了し、これからトーク録りに入るのでダンサー等はここで解散となる。

 事務所に所属していないフリーの者も居るので、いつの間にかやって来ていた成田がその場でタクシーチケットを配布し始めた。

 「お疲れーっす!」と野太い声に背中を押されて、聖南はCROWNの楽屋へと戻った。


『葉璃……大丈夫だったかな…』


 聖南は私服のポケットからスマホを取り出し、腰掛ける。

 林マネージャーに転送してもらった葉璃のスケジュールによると、この録りが終われば夜はフリーだ。

 聖南の方があと一つ、恒例のラジオの仕事が控えているのでゆっくりは出来ないが、葉璃を満腹にしてやってからラジオの現場に連れて行こうと目論んでいる。

 収録が終わったのなら、一刻も早くどこかで落ち合いたい。

 スマホを確認してみるも、葉璃から連絡はきていなかった。  まだスマホに触れない状況だという事だ。

 葉璃からの連絡が先か、トーク録りに入るのが先か、聖南はソワソワしながらスマホを握り締めた。

 その直後、手のひらの中のスマホが振動する。


「───!  ………なんだ、社長か……」


 出会ってからもうじき三年目を迎えるというのに、毎回葉璃からの着信に胸を躍らせている聖南は、画面に表示された文字にあからさまに肩を落とす。


「何?」
『なんだ、セナ。  機嫌が悪いのか?』
「いや別に悪くねぇけど。  社長が俺に電話してくるって要件ある時だろ」


 手持ち無沙汰で、机を指先でトントンと叩きながら足を組むと、アキラとケイタも楽屋に戻って来た。

 聖南が通話中であるのを見て、二人は空気を読んで静かに着席し水分補給をしている。


『今ハルがLilyの件で手一杯なところ悪いんだが…セナにプロデュースしてほしい者が居るんだ』
「…………誰?」
『私の姪だ』
「姪~~?  ………断っていい?」
『何故だ。  断らないでほしい』


 会った事もない者のプロデュースをするなど、多忙を極めるのが分かっていて気が進まないどころの話ではない。

 それが社長の姪であれば尚更だ。

 プラス、頭の中で一瞬のうちに考えたのは、

『もしその姪が才能の無え下手くそだったら創った曲が無駄になる』

であった。

 社長と近しい関係なら尚の事、言いにくい。

 それならばはじめから断っておいた方がいいと、この時の聖南にやる気はまったく無かった。


「いや、でもな、」
『まぁ一度歌声を聴いてほしい。  セナの言いたい事は分かる』
「じゃあデモ聴くだけな」
『その後、プロデュースもお願いしたい。  報酬は弾むぞ』
「金の問題じゃねぇっつーの。  てかな、そもそも俺、今年CROWNとETOILEの新曲抱えてっから他をプロデュースしてる暇無えんだよ」
『去年、ミュージカルと新曲二つ、それに加えてLilyのプロデュースを並行していたのを知っているんだぞ。  セナなら出来るという事だ』
「うわ、バレてんのか。  ……って、そりゃそうか、社長だもんな…」
『今日のラジオ前に事務所に寄ってくれ。  早速デモを聴いてもらいたい。  いいか、頼んだぞ』
「え、おいっ、勝手にそんな…!  ……切りやがった」




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