狂愛サイリューム

須藤慎弥

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2❥ピアス

2❥⑦

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 陽が落ち始めて夕陽が眩しく、眼鏡を外した聖南は度の入ったサングラスに変えた。

 その眼鏡を葉璃が受け取り、ダッシュボードの中の眼鏡ケースにしまう。

 「ん」と渡しただけで分かってくれた葉璃が愛おしい。  とてもキスだけでは足りない。

 もう少し濃いスモークを窓全面に貼ればカーセックスも容易なのではと考えて、聖南は昔馴染みの整備士である友人にその旨を話したのだが、「違法だから無理」だと言われた。

 非常に残念だ。

 聖南も葉璃も、人前に出る生業だとこれだけが苦痛でしょうがない。

 普通のデートも出来なければ、いつムラムラしてもいい魅惑の青姦も不可能に近い。

 深夜の誰も居ない公園のトイレでする立ちバックや、山の頂上で厚着をして駅弁体位でいたすのもめちゃくちゃにそそられる。

 想像だけで楽しむしかない聖南は、隣に葉璃が居るというのに運転中も不埒な事を考えてしまうほど、実は欲求不満であった。


「なぁ葉璃」
「はい?」
「………今日抱いていい?」
「えっ!?  なっ、なっ……っ?  なっ?」
「いいよな?  収録終わったもんな?」
「………………っ!」


 Lilyのヒナタとしての初収録のため、葉璃の体の負担を考えて二日前から禁欲させられている聖南は爆発寸前だった。

 思い出のプロポーズをしたあの日も二日禁欲した後に葉璃を抱いたが、セックス時間最長記録を更新してしまうほど抱き潰したので、出来れば禁欲はしたくなかったのだ。

 セックスを拒む葉璃の理由は至極ごもっともで、聖南も協力は惜しまないと言ったがそれに関しては不服極まりなかった。

 一回でいいから、ではなく、聖南の場合は「二時間でいいから」とお伺いを立ててみたものの、頬を膨らませた葉璃が怒ってしまったためそれ以上駄々をこねるのはやめておいた。

 頭の中はそれだけしかないのかとブチギレられて、「協力してくれないエロ聖南さんなんて嫌い!」などと言われたくない。

 聖南を怯えさせる強烈な二文字が、不服な胸中と爆発しそうな下半身をやっとの事で抑えていた。


「葉璃ちゃん、エロい顔すんな。  もう勃っちまうだろ」
「そっ、そんな顔してませんよ!」
「その顔はOKって事でいいよな」
「えぇっ……!  でも明日も仕事が……」
「西区のスタジオ、入り時間は十二時。  俺も明日はゆっくりめの九時出」
「聖南さん、俺のスケジュール頭の中に全部入ってるの……?」
「あぁ、データ貰った瞬間に暗記すっから」
「暗記……!」
「俺の愛って重てぇよなぁ。  愛され過ぎてっからって逃げるなよ、葉璃ちゃん?」


 フッと八重歯を覗かせて笑って見せた聖南の目には、どう見てもその重たい愛に喜んでいる恋人の姿が映った。

 照れて黙り込んだ葉璃の頭を撫でて、今夜の約束を無理やり取り付けた聖南はご機嫌になり、ふと思い出す。


「ヒナタとしての初仕事はどうだった?」


 信号待ちに差し掛かり、葉璃の柔らかい頬をぷにぷにと摘んで遊びながら問う。

 ほんの少しだけ間があって、葉璃は答えた。


「大丈夫、でした。  俺はNG出さなかったです」
「何、じゃあ他のメンバーがミスったの?」
「あ……はい、……まぁ……。  その子ちょっとだけ苦手な振りがあるらしくて、練習の時も結構怒られてて……」
「そうなんだ。  録りが長引いたのってそのNGのせいだったのか」
「あれ……聖南さん、なんで長引いたの知ってるんですか?」
「葉璃からの連絡待ってたけどこなかったから」
「聖南さんも収録だったんでしょ?」
「歌録りとトーク録りの合間にスマホ握って待ってた」


 またしても重たい愛を匂わせると、葉璃はいじられていた頬をポッと薄紅色に染めた。

 まるで練習素材にもならないMVでの自主練と、スタジオでの通し練習だけで葉璃はノーミスだったと聞けば、聖南の機嫌は最高潮に良くなる。

 天性のセンスを持ち合わせた葉璃ならば心配要らないと分かっていたが、気の強そうな女性達に囲まれ、未だ本番前は緊張してガチガチになるというテレビカメラの前での撮影でNGを出さなかったとは。

 聖南の恋人は、一目惚れしたその日に見た瞳の強さと、意図せず内から滲み出ていた華やかなオーラが近頃ますます光を帯びている。

 思った通り、葉璃はなるべくしてなったこちら側の人間なのだ。  本人は往生際悪く今も決して認めようとしないけれど。


「あ、事務所寄ってい?」
「はい、いいですよ。  仕事ですか?  俺先に帰っときま……」
「いいのいいの、ついでに夜のラジオもな。  初めてっつーわけじゃねぇんだし、収録スタジオまで付いてきてよ」
「えぇっ?  俺居たら邪魔でしょ?   帰りますよっ」
「なんで邪魔なんだよ。  一緒に来てくんないの?」


 聖南はウインカーを上げながら少しだけ頬を膨らませた。

 その横顔を見た葉璃の反応は見られなかったが、しっかりと狼狽えて、悟った台詞が返ってくる。

 ぷ、と頬を膨らませ、流し目で相手を見る葉璃の幼い膨れっ面が、聖南はいたく気に入っていた。


「……っ、聖南さん最近のそれ……俺の真似してます?」
「あ、バレた?  葉璃のこれに俺弱いからさぁ、葉璃も弱いといいなーと思ってんだけど」


 そんなに頻繁にしていた覚えはなかったのに、あらゆる場面で無意識に出てしまっていたらしい。

 今日を含めて特にここ三日ほど、膨れる事が多かったのは確かだ。

 聖南の隣で本家の膨れっ面をした葉璃が、小さく「邪魔じゃないなら…」と呟いた事で、効果の程を確認した聖南だった。





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