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3♡「ルイ」
3♡②
しおりを挟む最近、「分かってるよ!」と発狂したくなる出来事が多い気がする。
しかも初対面の同世代の人達に、そういう思いを抱かされてる。
Lilyに馴染めない事もそうだし、チャラ男から言われてしまった事もそうだし。
そんなの分かってる、理解してるよって事をこんなに面と向かって直接言われると、心が苦しくて仕方ない。
だってしょうがないじゃん……元々俺は根暗で卑屈野郎なんだから。
俺がアイドルになった経緯なんて「いつの間にか」しかない。
今となっては、不純かもしれないけど大きな目標も出来て、ステージに立つと目の前いっぱいに広がるお客さんの姿や声に、体の芯から沸き立つ心地良さを感じる事も出来てる。
あとはこのチャラ男がグサグサ言ってきた内面的な部分を治さなきゃいけないって、俺自身もちゃんと分かってるつもりなのに……!
「何も言わんって事はどういう事なんかな。 ETOILEのもう一人の人いてるやん? キョウヤ、だっけ。 あの人はデビューからめちゃくちゃ成長見えてるんやけどな。 ハルはずっとデビューの時のまんま。 会見見てたけど「この人こんなんでデビューしようとしてるんか」って驚いたんやから……」
「わ、わ、分かってます! お、俺がどうしようもない奴だって事は分かってます! アイドルなんて向いてないのも、みんな言わないだけでなんでお前がって思われてるかもしれない事も分かってます!」
「そうなん? じゃあなんで成長せんの?」
「………………っ」
──駄目だ、俺にはこれ以上言い返せるだけの実力も実績も勇気もない。
すごくすごくすごくすごくムカつくけど、チャラ男の言う通り過ぎてぐうの音も出ない。
しかもこのチャラ男、意地悪で言ってきてるって感じじゃないんだ。 「なんで?どうして?」と、疑問に思ってる事を率直に俺にぶつけてるだけ。
でもよっぽど、そっちの方が心に響いて痛い。
「し、失礼します……! タオルありがとうございましたっ」
俺はチャラ男の返事を待たずにトイレを飛び出した。
あのままあそこに居たら、もっと動揺させられてしまう。
本当の事ばかり言われて腹を立てている俺は、それこそ成長出来てない半人前以下の人間だ。
エレベーターは使わずに、非常階段を一段一段踏み締めて上った。
ついてきやしないかってたまに振り返っても、俺の事なんか追い掛けて来る価値もないんだろう。
髪を揺らす外の風が生温くて、さらに嫌気が増した。
大体なんであの人が大塚の事務所ビルに居るの。
局でも会って、事務所でも会ったって事は大塚所属の俳優さんなのかな。
出会った頃の聖南のようにチャラチャラしてるその見た目に対し、整った顔立ち、声優さんみたいにいい声、真っ直ぐで向上心アリアリな内面、俺には無いそれらがやたらと鼻についた。
自分が完璧だからって、俺にまでそれを求めないでほしい。
ヒナタで遭遇した時もそうだったけど、他人との距離感って大事だよ。 目を見て話す事と同じくらい。
俺は自覚してるけど治せてない末期だ。
あの名前も分からないチャラ男はその自覚があるっていうの? 無いよね? 俺が狼狽えてる事にも気付いていない、無神経な人。
「……同じ事務所でも部門が違えば滅多に会わないって言ってたよね、聖南さん」
チャラ男が俳優部門に居るなら、無神経仲間の荻蔵さんみたく会う頻度も少ないはず。
無神経で声が大きくて女性関係がだらしなくて散々だけど、あのチャラ男に比べれば荻蔵さんの方がグサグサ言ってこないだけ断然マシだ。
───分かってるもん。 ……成長してないって、自分でも分かってるもん……。
心と同時に、耳が痛かった。
恭也は歌もダンスもそつなく出来ちゃって、苦手だった他人との会話もそうは見えないくらい今では上手に受け答えしてる。
去年から立て続けに二本も映画の準主役に抜擢されて、影武者任務のためにETOILEの仕事をセーブしましょうってなる前から、実は個々の仕事の方が多かったんだ。
春に出したセカンドシングルでたくさん音楽番組に出してもらって、ほぼ毎日顔を合わせてた日々が恋しい。
もう何日恭也と会ってないか……。
大好きな恭也の成長を褒めてくれたのはとっても嬉しかったけど、でもそこで止めてくれれば良かった。 俺の成長が見えないって事まで言わなくていいと思うんだ。
俺の身近に居るお世話になってる人達からの言葉なら、正座して項垂れてしっかりと聞くよ。
俺のためを思って言ってくれてる、それなら俺も頑張らなきゃなって。 ましてや反発するかのように「分かってるよ!」なんて絶対に思わない。
「………………」
趣の違う社長室のある階に足を踏み入れる。
ノックをして、秘書さんとよく分からないお辞儀を交わし合ってから社長室に戻ると、すぐに女性の歌声が聴こえてきた。
音楽番組に出るようになって、やっと流行りの曲を知った俺にも分かる、人気のJ-POP。
ノートパソコンを前に真剣に耳を傾けている聖南の隣に腰掛けて画面を覗いたら、美しい異国の女性が流暢に歌い上げていた。
声も容姿も綺麗な人……。
素人じゃないのかな。 ……歌もとっても上手だ。
劣等感の塊になっていた俺は、もしかして聖南はこの人をプロデュースするのかなって考えると嫌で嫌でたまらなかった。
何にもない俺なんかよりも、何倍も何十倍も何百倍もプロデュースしがいのありそうな「女性」───。
「……葉璃?」
「はい?」
触れてこようとする聖南を無意識に避けてしまってた俺は、心の中が凄まじい自己否定でいっぱいになっていた。
成長したいのに、出来ない。
いや、どこかで、出来ない自分でもいいやと思ってるのかもしれない。
そんな俺を聖南は……どう思ってるんだろう。
恋人として愛されてるのはすごく伝わってるし、俺も大好きだから離れるなんてもう考えられない。
でも、じゃあ……同じ業界に居る者としての俺って、聖南にはどう見えてるの……?
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