狂愛サイリューム

須藤慎弥

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4❥ライバル

4❥②

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 久しぶりの再会だというのに、レイチェルは叔父である大塚社長ではなく聖南の方に興味津々であった。

 ノートパソコンを起動し、このディスクを預かった先週から自宅でも何度となく再生したレイチェルの歌声を流している最中も、聖南の隣にピタリと付いて腰掛けていた。

 女性らしい淡いピンク色のロングワンピースを着たレイチェルは、画面を覗いては聖南の横顔を伺うを繰り返している。

 聖南は意図してレイチェルの前でこれを再生した。

 やたらと視線を感じて居心地は良いとは言えなかったが、歌声や歌唱力はやはり申し分ない。


「……いかがですか、私の歌は。  日本で通用するでしょうか……?」
「いけるだろ」


 曲終わりの彼女の反応を見て、聖南は確認すべきレイチェルの人間性を即座に判断した。

 自信たっぷりに、片眉を上げて「どう?」と挑戦的に見られでもしたら、聖南のやる気は地に落ちていた。

 なぜならこの業界は、新人であればあるほど謙虚さが求められるからだ。

 歌う事についての才能が抜きん出ていても、トークの合間に滲み出る人間性が悪い方へ捉えられれば、二度とお呼びはかからない。

 芸歴の長い聖南は、横柄な態度を取って干された芸能人をそれこそ何十人と見てきた。

 いくら社長の姪っ子と言えども失礼な新人をプロデュースするのは自身の汚点にもなりかねないため、重要視すべきはそこだった。

 業界と世間はそう甘くない。

 だがレイチェルは、その才能に見合わない控え目な視線を向けてきた。

 恐らく彼女に、傲慢さは無い。


「ジャンルは問わないって聞いたけど、レイチェルの希望はないのか?」
「そうですね……。  ダンスミュージックやテクノポップスよりも、日本の王道のバラードを歌いたいかもしれません」
「ジャンル問うじゃねぇか」


 ざっくりとでもイメージを湧かせたくて聞いたのだが、きちんと希望があった。

 たった今流れていたものもレイチェルの選曲とあらば、聞くまでもなくバラード一択だろう。

 はじめからそう発注しとけ、と笑うと、レイチェルもクスクスと上品に肩を揺らした。


「申し訳ありません。  セナさんが創ってくださると聞いて、今までのセナさんの創作したものをすべて聴かせて頂きました」
「作詞はともかく曲作りはここ最近だけど」
「えぇ、あの……ETOILEというグループの「silent」、あの曲……とても素晴らしい」
「……silentな……」


 聖南が一番最初に作詞作曲を手掛けた、ETOILEのデビュー曲に捧げた渾身の「silent」を褒めてもらえると、悪い気はしない。

 一心に葉璃を追い掛けていた頃に創った、練りに練った詞は今も尚 音楽雑誌に取り上げられるほど話題を呼んでいる。

 ETOILEが生放送の音楽番組に呼ばれた際、春に出したセカンドシングルと「silent」はセットで二曲披露が定番となっていた。

 元々はCROWNの初バラード用にと創っていたものを、大幅な修正を加えてレトロポップスに仕上げた耳に残る旋律は、見事にETOILE二人の声とダンスに馴染んだ。

 葉璃と恭也の初めてのレコーディングの日を蘇らせて温かい気持ちになっていた聖南は、ここがどこかも忘れて思わず微笑んでしまう。


「歌詞も、メロディーも、私の心に響きました。  あのような名曲を創られるセナさんが、なぜ王道のバラードを創作しないのか不思議でたまりません」


 隣からビシビシと視線を送ってくるレイチェルが、核心に迫ってきた。

 途端に穏やかな気持ちが一変する。

 聖南は迷う事なく脳を仕事モードに切り替え、サングラスを外しながら足を組んで背凭れに体重を預けた。


「世間を見てるからだ。  俺は正直、「熱い情熱を持って満を持してデビューしました!」とは言えねぇからな。  世の流れを見て、スタッフともめちゃくちゃ相談して、応援してくれてるファンの子達が喜んでくれるものを創りたい」
「セナさんご自身には創りたいものがないのですか?」
「……どういう意味だ」


 余裕綽々で毅然と返答したにも関わらず、またしてもレイチェルの核心口撃を食らう。


『どういう意味だよ、……俺は創りたいもんを創ってるよ』


 大衆受けするものを生み出し、発信する。  これは事務所側から指定されたわけではなく、音楽業界で売れるためのセオリーのようなものだ。

 レイチェルは、生まれ育った国ではもちろん、日本での芸歴が無いからそんな無邪気な事が言えるのだと、聖南は鼻で笑いたかった。

 だが、出来なかった。

 少なからず動揺してしまったのだ。

 打ち込みでの曲作りを教わり、見様見真似で始めたツケが今頃になって回ってきたのか、聖南はそれを考えた事が無かった。

 聖南は与えられた仕事をこなしている。

 曲作りもプロデュース業もとても楽しく、関わり始めると時間さえ忘れて書斎にこもる。

 ──好きでやっている。  自分にはこれしか生きる道が無いと気付いてからは、やり甲斐も見出している。


『俺は本当に創りたいものを創ってねぇって、そう言いたいのか……?』




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