狂愛サイリューム

須藤慎弥

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6❥胸騒ぎ

6❥2

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 半信半疑だったけれど、ツラそうな素振りを見せなかった葉璃にどこまで深く踏み込んで良いものか、聖南も大いに悩んだ。

 成長出来ていない、甘えていると、テレビを通しての「ハル」しか知らない第三者から指摘を受けた葉璃は、ぐるぐるした後に少しだけではあるが吹っ切れた様子だった。

 聖南は微塵もそんな事は思っていなかったが、葉璃のためを思って成長途中なのだからと背中を押してやり、決して甘えてなどいないという事だけは真摯に伝えたつもりだ。

 葉璃が努力家なのは知っている。

 あがり症で「どうしよう」「うぅ……」と呻く事はあるけれど、根本的に弱音はほとんど吐かない。

 過密スケジュールにも一切文句は言わないし、むしろ「こんな俺なんかに仕事くれるなんて」と指先をツンツンさせて卑屈さを全開にし、聖南をよく笑わせてくれる。

 あらゆる媒体がETOILEを使いたいと思うから仕事が途切れないのであって、俺なんかと卑屈になる必要はないのだ。

 聖南は多少、贔屓目で見ているのかもしれないが、それ抜きにしても葉璃はこの世界で生きていく運命なのである。

 聖南と出会った事も然り、スカウトマンに発掘された事も然り。

 そんな葉璃が追い込まれていた。

 恐らく、Lilyの中での居場所がなくなったと感じる、決定的な何かがあったのだろう。

 しかしようやく、危ない形でぐるぐるしていた葉璃が聖南を頼ってくれた。

 こんなにも葉璃がツラい思いをするくらいなら、運命に逆らってもいいとさえ思った。

 聖南は葉璃が笑顔で隣に居てくれたらそれでいい。

 飼い殺すつもりなどさらさらないが、外の世界は嫌だと言うなら永遠に聖南の懐に居たらいいのだ。


『逃げないって言い張ったからな……俺の葉璃ちゃんは頑張り屋さんだ』


 間もなく流れていたVTRが終わる。

 聖南の真剣な表情がワイプに抜かれ、司会者らがマイクを握り直したのを横目に見ながら、聖南は最後に回想する。

 葉璃のメイクを直してもらうため、メイク担当の者を呼び出す際にLilyの楽屋に乗り込んだ時の事を──。






 葉璃を一つ上の楽屋に残した聖南は、小走りでLilyの楽屋前にやって来た。

 やや強めにノックをして扉を開くと、まぁまぁ賑やかなLilyの面々が一斉に聖南を見て固まる。


『あッ、セナさん……!』
『キャーーッッ!』
『セナさんだぁ!』


 彼女らは揃いの薄いピンク色のセクシーな衣装を着て、キィキィ鳴いていた。

 うるせぇ、と内心で毒付いた聖南は、無言で中央の長机に腰掛ける。


『メイク担当って誰?』
『……彼女です』


 無表情の聖南がメンバー達を見回し、うち一人が指差した女性を捉えて指先で呼んだ。


『あ、そ。  悪いけど今すぐメイク道具持って付いて来て』
『は、は、はいっ』


 こちらへ歩もうとした女性にそう言い放つと、女性は一瞬だけ立ち竦んで回れ右しメイク道具をかき集め始めた。

 その者が準備を終えるまで、むかっ腹が治まらない聖南は腕を組み牽制にかかる。

 唇の端を上げてようやく笑みっぽいものを浮かべるも、どうしたって端がヒクつく。

 こいつらのせいで葉璃は苦しみ、悩み、メイクがボロボロになってしまうほど泣いて、今は暗闇の楽屋でポツンと独りで待っている。

 ……黙っていられるはずがなかった。


『リハーサルお疲れ』
『そんなぁ、セナさんもお疲れ様ですっ』
『今日の衣装も素敵ですねぇ』
『カッコイイですぅ』


 表裏を巧みに使い分ける女性のあざとさを知る聖南は、まったく動じる事なく笑った。

 この表の部分のみを知る大人達はきっと、葉璃の苦悩を分かってやれない。  綺麗どころが揃うLilyであれば尚更、彼女らの表面的な美しさしか見えていないだろう。

 フッと笑うに留めていた聖南の唇が、すでに愛想笑いの限界にきていた。

 これだから聖南は、役者に向いていないのである。


『葉璃どこ行ったか知らねぇ?』
『えっ?』
『さ、さぁ……』
『まぁどうでもいいか。  お前らには関係ねぇもんな。  葉璃が今どこで何してるのか、どんだけの覚悟持ってこの仕事引き受けてるのか』
『………………』
『………………』
『事務所の偉いさんはマジで、何考えてっか分かんねぇよなぁ。  だってさぁ、もしこの仕事がうまくいかなかったらダメージ受けんのはSHDだけじゃねぇじゃん?  葉璃はもちろん、俺らも大塚も盛大に叩かれんだぞ~。  あ~怖え怖え~』


 静まり返った楽屋内に、聖南のわざとらしい笑い声が響いていた。

 メイク担当の者を聖南が呼びに来た事、そしてこのあからさまな牽制はメンバー達を震え上がらせた。

 葉璃が今どこに居るのか、聖南直々に此処へ出向き、何故メイク担当の者を連れて行こうとしているのか。

 すべて理解したであろうLilyのメンバー全員が、無意識に立ち上がって聖南の方を向いていた。


『リハーサル見た限りじゃ、うちの葉璃はうまくやってるように見えんだけど、どう思う?』
『……はい、……』
『ヒナタちゃん、すごく頑張ってます……』
『だろ?  よく分かんねぇけど二週間でLilyの振り覚えなきゃっつってたからな。  めちゃくちゃ努力してんだよ。  ETOILEの仕事セーブしてまでやってる「重要な任務」だから』
『………………』
『………………』
『じゅ、準備出来ました!  ところでどなたのメイクを……っ』


 事情を知るメイク担当の者が、この楽屋内に
漂うただならぬ雰囲気を察し大急ぎでメイクボックスを抱えた。


『付いて来て。  じゃな、本番頑張って』


 答えぬまま聖南は立ち上がり、今度は本物の笑顔を彼女らに向ける。

 聖南が他事務所の同業者に遠回しながら本気のお灸を据えるなど、初めての事だった。



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