狂愛サイリューム

須藤慎弥

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8❥関係性

8❥7

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 聖南がラジオ終わりに葉璃をここに呼ぶ際、アキラとケイタの目も憚らず二人は彼らだけの世界に入って熱い抱擁を交わす。

 ……というよりも、聖南が体内に葉璃を取り込もうとする勢いで抱き込むだけなのだが、葉璃はとても嬉しそうに取り込まれる。

 しかし現在、聖南の両腕の行き場がなくなっている。 それはこの場にルイが居るからに他ならず、空気が重たくならないうちにケイタは帰り支度をしながら何気なく葉璃に問い掛けた。


「こんな時間までハル君仕事だったの?」
「あ、いえ違うんです。  一昨日から、仕事終わりに前通ってたスクールに行ってて」
「そうなんだ。  なんでまた?」
「春香達のダンスを見に……」


 眼鏡を外したアキラも口を挟みつつ、葉璃が以前通っていたダンススクールに赴く事になった顛末を聞いた。

 聖南は一昨日の時点でその話は葉璃から聞いていたので驚かなかったが、そうなるとルイと居る時間が長くなるではないかと懲りずにヤキモチを焼いて葉璃を困らせた。

 ただし、春香のダンスを見に行くというイレギュラーが増えた事で、ルイが葉璃を事務所に送る時間と聖南の仕事終わりの時間を合わせやすくなったので悪い事ばかりではない。

 いくら仕事をセーブしたからと言って、依然として聖南の多忙さは変わらないため、付き人としてルイが関わると葉璃にとっては不自由さが増した事だろう。

 これまで仕事が終われば自由に帰宅出来ていたものを、送迎まで張り切るルイに自宅マンションを知られないよう、事務所で聖南の迎えを待たなくてはならなくなったのだ。

 それもまた新たな秘め事のようで聖南には何ら重荷とは感じていないが、それさえ葉璃のストレスになっていやしないだろうかという懸念はある。

 ルイとは犬猿の仲だと豪語する葉璃は、聖南のぐるぐるを解消すべく家ではたくさん甘えさせてくれるので、いくら目の前でイチャつかれても黙って見ていられる。

 そう、……あとほんの少しだけなら。


「ハルぴょんと春香って子が双子なんて知らんかったからさぁ、俺めちゃめちゃビックリしたんすよ!  memoryは知ってたんやけどな。  上手いよな、あの子ら」
「上から目線……」
「そんなつもりないって!  上から言うてないわ!」
「そこが嫌なんです。  無理です」
「冷た!  ハルぴょん俺にはそれしか言わんやん!  嫌です、無理ですって!」
「だって無理なんですもん!」


『お、葉璃。 よく言った。 無理無理って言い続けろ』


 万が一にもルイが葉璃に惚れないように、葉璃自身が強大な予防線を張ってくれると聖南は安心だ。

 葉璃が常に持ち歩けるサイズになってくれれば話は早いのだが、そうもいかないので聖南は葉璃を信じるしかない。

 やはりとても「犬猿の仲」には見えない二人の関係性が聖南を脅かす前に、ルイにはどこかのタイミングで葉璃との事を打ち明けるのも策ではないかと聖南は思った。


「な、なんか……ハル君とルイ、うまくやってるみたいで安心したよ」
「そうだな。  殺伐としてたらハルが可哀想だって心配してた」
「何で殺伐とするんすか!  俺は仕事はきっちりやるっすよ!  なぁ、ハルぴょん?」
「えっ……えぇ、すごく動いてくれますね」
「俺、意外と使えるやろ?」
「まぁ……。 でも、スタッフさんに俺と同じ感じで喋るのはやめた方がいいです」
「ちゃんと喋ってない?」
「方言のせいなのかな……オラオラ感が凄いんですよ」
「オラオラ感ってなんや!  こんなに爽やかボーイやっちゅーのに!」
「爽やか……?  ルイさん爽やかだと思います?」
「え……あ、あぁ……爽やかではないかな」
「その辺のチンピラに見えなくもない。  あ、昔のセナってこんな感じだったよな」
「そうだね」


 葉璃が小首を傾げてアキラとケイタを振り返ると、二人は苦笑を浮かべながら聖南に気を配って答えている。

 彼らの大方の予想通り、そろそろ聖南も限界だった。


「───葉璃、帰るぞ」
「……あ、っはい」


 指先でちょいちょい、と葉璃を呼ぶと、少しだけはにかんで聖南の傍へやって来た。

 ───可愛い。 一連のイチャイチャを許せるくらい、可愛い。


『これだから葉璃ちゃんたまんねぇんだよなぁ♡』


 ここにルイが居なければ、葉璃は聖南の服の袖を引っ張って甘えるように見上げてくる予定であった。

 畜生と不貞腐れたのは一瞬だけで、何もかも葉璃の照れくさそうな表情でチャラになった。

 ヤキモチ焼きも大概にしておかないと、葉璃に呆れられたら身も蓋もない。


「あーぁ、またお説教タイムかいな。 ハルぴょん今度は何したん? 怒られっぱなしやなぁ。 俺がハルぴょん送りましょか? いくらセナさんがハルぴょんの家知っとるからって、一日の終わりに説教なんて疲れるっしょ?」
「いや疲れねぇよ。 俺のは愛あるお説教だからな」
「ブフッ……! 愛あるお説教て!」


 聖南がわざわざ仕事場へと葉璃を呼び付けたのは、帰宅途中の車内で「説教」をするためなのだろうと勘違いしているルイに、遠回しに恋人同士である事を匂わせてみたのだが無駄だった。

 吹き出したルイは「愛あるお説教ですって!」とアキラとケイタに笑い掛けていて、二人はどういう表情をしていたらいいか分からず困惑している。

 やはりルイには打ち明けておいた方がいいのかもしれない。

 ETOILEへの加入が本格化したら、その時が打ち明け時だと聖南は葉璃にその旨を報告しようと目論む。


「ありがとな、ルイ。 葉璃ぴょんここに連れて来てくれて」
「せ、聖南さん……っ」
「アキラ、ケイタ、また来週な」
「お、おぅ、またな。 セナとハルぴょん」
「セナ、ハルぴょんの「お説教」ほどほどにね~」
「セナさんお疲れっす! ハルぴょん、明後日またモーニングコールするからなぁ! お疲れ~!」


 皆で「ハルぴょん」を連呼したせいで、葉璃が戸惑いと羞恥で狼狽えている。

 一刻も早く、葉璃の頬が膨らまないうちにここから連れ出さなければと荷物を持った聖南は、「モーニングコール」という言葉に引っかかって立ち止まりかけた。


「お、お疲れさまです……! 行きましょ聖南さんっ」


 そんなもの要らねぇ、と口をついて出てしまいそうだった聖南の背中を葉璃が慌てて押した事で、二次災害にならずに済んだ。

 


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