狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
98 / 632
9★ ─SIDE 恭也─

9★3・嫉妬

しおりを挟む



 バラエティー番組の収録中、順調にネガティブ発言で場を沸かせた葉璃は、みんなの期待通りモジモジしてずっと俺から離れなかった。

 主に俺が発言し、視線を彷徨わせた葉璃がボソッと一言を発するだけでそこに居る意味が生まれる。

 俺にとっては隣に居てくれるだけで安心する存在が、華やかな世界に必死に慣れようとする様は見る者すべてが応援したくなるのだと思う。

 アイドルであるからには女性ファンを掴まなきゃならないと、社長から言われた事がある。 セナさんが創る楽曲は申し分ないから、個々のファンの掴むためにはそれぞれに個性が無くてはならない、と。

 ただし俺達ETOILEの場合、今までのアイドルとはちょっとだけテイストが違う。

 葉璃のキャラも相まって、一見危なげな俺達の仲は流行りにうまく順応した。

 ETOILEに ″箱推し″ と呼ばれる二人セットでのファンが多いのは必然に思えた。 多分誰が見ても、デキてると噂されるくらい俺と葉璃の距離感が近いからだ。

 二人の身長差がさらに邪な妄想を掻き立てるらしく、アイドルファンのみならず新たなファン層を獲得している俺達は本当に運がいい。

 しかもそのおかげで、CROWNとETOILEの出演が被ったセナさんが、いくら葉璃を可愛がっていたとしてもただの先輩後輩にしか捉えられない、予期せぬ目くらましにもなっている。

 それをセナさんがどう思っているのかは分からないけど、俺は二人の仲が引き裂かれる事態になるのだけは避けたいから、いっそ妄想されたままでいい。


「また来週だね、葉璃」
「……うん」
「……寂しいね」
「……うん」


 葉璃と居る時間はあっという間に過ぎる。

 昨日今日と、午後から夕方にかけての収録でずっと一緒に居られたのに、次また会えるのは来週だ。

 俺はこれから明後日まで隣県で撮影があって、寂しそうな葉璃を置いて行きたくないと思っても、仕事だから行かなきゃいけない。

 俺が映画の仕事を頑張る事で、デビューしたばかりのETOILEがさらに多くの人に認知してもらえて、活躍の場を広げるきっかけに繋がる。

 そうなれば、この世界で葉璃と長く生きていくチャンスが高まるかもしれないから、俺は少しずつでもステップアップして可能な限りETOILEを守りたい。

 でも、……いつにも増して寂しそうな葉璃を置いて行くのは忍びないな。 ……すごく。


「……うん……。 週末、恭也の撮影見に行きたい」
「え、来てくれるの? ほんと?」
「春香のとこ行かなきゃだから夕方までしか居られないけど、行きたい。 差し入れ持って行く」


 今まで何度か撮影現場に来てくれた葉璃だけど、知らない役者さんやスタッフさんに囲まれて「可愛い」を連呼されるのがすごく苦手だったと話していたから、もう来てくれないだろうなって諦めてたのに。

 セナさんの仕事が忙しくて構ってもらえてないのかな……?

 荷物の入った鞄を机に置いて、近付いてきた葉璃の頭を撫でる。


「嬉しい……待ってるね。 ところで、春香ちゃんのとこって?」
「あぁ、それはやな、ハルルンにダンス見てほしい言われて相澤プロのレッスンスタジオに行ってるんよ」
「は、ハルルン!?」


 すっかりその存在を忘れていたルイさんが口を挟んでくる。

 春香ちゃんからの告白を保留にしている俺は、その名前を聞くのが少し気まずかったけれど、それ以上に「ハルルン」に驚いた。


「……今日の俺のあだ名なんだって。 毎日呼び方変わってる」
「あだ名……。 え、でも、昨日は普通だったよね?」
「昨日はハルミやったからなぁ、あんまあだ名っぽく聞こえんかったんやろ。 俺のイントネーションのせいもあるか?」
「ハルミ……別人になってる……ふふふっ……」


 笑っちゃ可哀想だと思ったんだけど、こらえきれなかった。

 方言のせいか、物言いが強いルイさんは他人に誤解されやすい人だと思う。

 昨日から見ていると、それがよく分かる。

 葉璃に強くあたっていた以前の彼の発言も、昨日今日の葉璃への言い草も、思った事を素直に述べてるだけでまったく悪意が無かった。

 事情を知らないにしてもズケズケ言い過ぎでしょって、葉璃に甘い俺はどうしてもキレちゃいそうだったけど……葉璃が言い負かされていないから庇うに庇えない。


「恭也! ここで笑うと負けだよ!」
「負けってなんや。 なんも勝負してないわ」
「この際言っちゃいますけど、もうあだ名やめてくださいよ! 毎日考えちゃうんですよ、今日はなんて呼ばれるんだろって!」
「なんや、ハルルンも楽しみになってきてるやん」
「それはないです!」
「ふふふふ……っ」
「恭也っ、笑ってないで味方してよ!」
「───恭也君、行ける?」


 不覚にも二人のやり取りがツボに入ってしまった。

 目尻を拭いながら、楽屋に戻って来た林さんに視線で合図をして、ルイさんにプンプン怒っている葉璃の頭をもう一度撫でる。


「あ、はい。 行けます。 じゃあ……葉璃、週末待ってるね」
「うぅぅ~~っ、もう行っちゃうの?」
「……葉璃……可愛い……」


 立ち上がった俺の服をキュッと掴んで、心を許した相手をどこまでも虜にする葉璃の上目使いに、俺は見事にやられた。

 今日の撮影は行かなくていいんじゃないのって、チラっとそんな悪い考えが浮かんでしまうくらいには、やられた。

 ついつい本能のままに葉璃を抱き締めてしまって、「出番前」の言い訳が出来ないから後でセナさんに謝らなきゃ……。


「はいはーい、アツアツなとこ悪いけどやな。 恭也は仕事なんよ。 代わりに俺がぎゅってしといたるから、恭也今のうちに行きや」
「……あっ…………」
「ルイさんは嫌だぁっ! 恭也がいいー!」
「駄々こねるなや。 ハルルンも今から春香ちゃんとこ行かなやろが」


 尤もな事を言うルイさんに、さらりと葉璃を奪われた。

 セナさんだったら仕方ないと思えるのに、ルイさんに葉璃を奪われるのは納得いかない。

 林さんに急かされなければ、俺だってもっと葉璃を抱き締めていたかった。

 俺は、ルイさんから羽交い締めにされてる葉璃を置いて楽屋を出て行く。

 この、後ろ髪を引かれる思いは、紛う事無く嫉妬だ。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...