狂愛サイリューム

須藤慎弥

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 ロケ現場で共演者さんやスタッフさん達と合流した聖南は、さっそくみんなに取り囲まれてあっという間に俺が近寄れる雰囲気ではなくなった。

 街ブラロケは最小限のスタッフさんしか来ない事が一般的みたいなのに、確かに今日はやたらと人数が多い。

 帽子を被った俺と、一見出演者側のようなルックスのルイさんは、慌ただしいロケ前の準備に追われるスタッフさんに紛れて聖南の様子を見ていた。

 背が高い聖南は、ADの女性が背伸びして日傘をさそうとしたのを断り、「撮影前にクタクタになる気か」なんて冗談交じりに笑っている。

 すでに集まり始めたギャラリーにも台本片手に手を振って応えていて、アイドルスマイルがとっても眩しい。

 音楽番組で歌って踊る聖南ももちろんカッコいいけど、俺はこの、ナチュラルで気遣いが出来る芸能人な聖南にも見惚れてしまう。

 ついつい、帽子を目深に被ってるのをいい事にフラフラと聖南に近付いていた時、共演者であるタレントの:木下 創(きのした そう)さんが聖南に話しかけた。


「セナさん、ETOILEのハルくんが来てるって本当か?」
「あぁ、ほんと。 木下さんの後ろに居るじゃん」
「…………っっ、お、お疲れ様です」
「おっ? わぁ!」


 ビックリした!と驚かれたけど、いきなり振り向かれた俺もビックリした。

 反射的にぺこっと一礼した俺は、少しはこの世界に馴染んできてるのかもしれない。


「本物だ! オレ、ハルくんのファンなんだ! 握手してくれ!」
「えっ? あ、あの……」
「あかんあかん。 今巷では夏にも流行るノロウイルスがはびこってるからな、無闇やたらと接触せん方がええっすよ」
「あ、あぁ……ノロ、……? えぇ……?」


 差し出された掌に困る前に、ルイさんが木下さんの機嫌を損ねる事なくうまく躱してくれた。

 ありがたい。 でもこれじゃ、まるで俺がそのウイルス持ってるみたいじゃないかな?

 木下さんは「ノロウイルスって何だっけ」と聖南に問い、「腹がピーピーになるやつ」なんて簡潔に説明したのには笑ってしまった。


「そういう事。 さっ、サクッとロケ行こーぜ!」
「お、おー! ハルくん、見ててね! まだ時間あるんだろっ?」
「はい、……少しだけ……」
「やった! オレ今日は張り切っちゃお!」
「木下さんはいつもそのテンションじゃん」
「そのいつも以上に頑張るんだよ! いやぁ、生ハルくんマジ可愛いなぁ♡ 男ってのが信じらんねぇ」
「え、……あ、あの……、っ」
「ハルペーニョこっち。 邪魔にならんとこで見てような」
「あ……はい」


 ファンだと言ってもらえるのはすごく嬉しい。 こういう時、どうするのが正解なのか未だに分からないし、握手もすぐには出来ないけど嬉しいものは嬉しい。

 ただやっぱり、まだちょっと知らない人は怖くて後退っていると、ルイさんから腕を取られた。

 こっそり振り返って聖南に手を振ると、遠ざかる俺に向かってニコッと微笑んでくれて……ドキッとした。

 コンサート会場で、推しと目が合った!と騒ぐファンの子達の心境ってたぶん、こんな感じだ。


「大丈夫か、ハルペーニョ。 あの人テレビと変わらんのは好印象やけど、ちょっとキモいな」
「いやそんな……そこまでは思わないですけど……」


 俺とルイさんは、コソコソっとスタッフさん達の最後尾に陣取った。

 スタッフさんからもギャラリーの一部の人からも「ハルくんだ!」という声が上がり始めた事で、全然紛れてないけど一応は隠れてるつもり。

 とてもマネージャーには見えないルイさんが隣に居る事で、もっと騒がれてる気がしなくもない。

 でも、聖南の迷惑にならないように小さく会釈するのみに留めて、この場は乗り切る。


「あんな触りたがるやなんて変態やん」
「ルイさん言い過ぎですよっ。 それだと俺とハグしたいって言ってたさっきのルイさんもキモい変態って事になります」
「うわっ、痛いとこ突いてきよった! しかも毒がいっこプラスされてる! なんや、ハルペーニョのくせに頭回ってるやん。 眠いんやなかったんか?」
「もう眠くないです。 聖南さんと会えましたし……あっ」
「分かってるって。 俺絶対よそに言うたりせんから安心せぇ。 ただな、一つ条件付けてもええか?」
「………………?」


 出演者五人がカメラの並ぶ様を……というより、聖南を凝視していた俺に背中を丸めたルイさんが耳打ちしてくる。

 聖南が濁したままだから、俺と聖南の関係を勘違いしたルイさんに「条件」なんて言われると変な緊張が走った。


「さっき俺が言うてたばあちゃんの事。 セナさんにも言わんでほしい。 この事は大塚社長しか知らんのよ。 あんま……言い回ってほしくない」
「あ……それは、はい。 分かってます。 大丈夫です、俺嘘は下手ですけど口は堅いんで」
「嘘が下手なのは分かる。 ハルペーニョすぐ目が泳ぐもんな。 普段かわいー目してるからバレバレなんや」
「か、かわいい? そんなに分かりやすいですか……?」
「あぁ。 めっちゃくちゃな」
「そうですか……」


 出会って三ヶ月くらいしか経ってないルイさんにまでそう思われてたなんて……ショックだ。

 おばあちゃんの事、誰にも言わないでほしいんだろうなっていうのは話を聞いてた時から何となく分かってた。

 こんなに深刻で、こんなにプライベートな情報は、ルイさんの気持ちを考えたら俺達の関係くらい秘密にしておかなきゃいけないと思う。

 下手な嘘を吐く前に、聖南ともそういう話題にならなければ問題ないんだ。


「ばあちゃんの事はマジで誰にも言うてないしな、……俺なんでハルペーニョに言うてもうたかな。 ハグしてほしかったんやろか」
「……あ……変態……?」
「言うやんけ! このやろーっ、くすぐりの刑や!」
「あ、っ……やめっ……あははは……っ」
「おい、始まるみたいやぞ。 静かにしぃや、ハルペーニョ」
「ルイさんのせいでしょっ」


 前に居たADの女性が、小声でやり合っていた俺とルイさんに非難の一瞥をくれた。

 騒いでごめんなさい、と頭を下げるとプイッとされる。

 さすがにロケがスタートした前方には迷惑かけてなかったけど、緊張感漂う後方スタッフにはギャラリーと大差無い俺達のじゃれ合いが聞こえてしまってたみたいだ。

 で、でも、弱い脇腹をくすぐられて堪えきれなかったんだもん……俺のせいじゃない。

 まだクスクス笑ってるルイさんのせいだ。



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