狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
175 / 632
16♡

16♡10

しおりを挟む



 聖南から貰った、全体的に羊みたいなデザインの可愛いアイマスクは、安眠効果が抜群だった。

 スポーツドリンクをたっぷり飲んで、それを装着してシートに横になった瞬間からもう記憶が無い。

 たまに運転席から聞こえるルイさんの鼻歌ぐらいは耳にしてたけど、ロケ終わりの聖南から優しく名前を呼ばれるまで俺は、短いながらぐっすりと仮眠が取れた。


「はるー」


 ほら。 聖南が呼んでる。

 この時ばかりは年上らしさ全開の、甘やかすような声がすごく好きだ。

 もっと名前を呼んでほしくて、すぐに起きずにたまに寝たフリしてる事だってある。


「はるちゃーん」
「…………ん……」
「具合どう? 気分悪いとかは?」
「あ……聖南さん。 ……大丈夫です。 何ともないです」
「いい子に寝てたな」


 アイマスクを外しながらじわっと瞳を開けると、聖南が心配そうに顔を覗き込んできて、やわらかく頭を撫でてくれた。

 助手席側のシートを限界まで前に移動して、後部座席を広く取ったそこにサングラスを掛けた聖南が窮屈そうに居る。

 寝ぼけつつ聖南に抱きつこうとしてハッとした俺は、上体を起こしてキョロキョロと辺りを見回した。


「あ、あれ……っ、聖南さんロケはっ? ルイさんどこっ?」
「ロケは終わった。 てか目が覚めて一番に探すのがルイって……葉璃ちゃん、聖南さんヤキモチ発動しそう」
「えっ、あっ……ご、ごめんなさいっ、そんなつもりじゃ……」
「ロケ始まる前もルイとイチャイチャしやがって。 マジ妬ける」
「聖南さん……っ」


 うーっ、ほんとにそんなつもりじゃなかったのに……っ。

 ヤキモチなんて焼かないでよ、と項垂れると、俺に甘い聖南は「ごめん冗談」と笑った。

 絶対に冗談じゃないでしょ。

 すでにヤキモチ発動してるのに、それを隠すのが下手な聖南は俺の事が心配で、そちらに気を移すことにしたらしい。

 手の甲でほっぺたに触れられて、前髪を退かしておでこ同士をくっつける。

 ち、近いよ聖南……っ。


「ん、良かった。 もう熱くねぇな」
「あ……は、はい、すみません。 心配かけて」
「寝不足もあるんだろうな。 ごめんな? 反省してる」
「いえそんな……! 昨日は俺も悪いですから!」


 聖南がどうしてこんなに自分を責めてるのか、思い当たる節しかない俺も両手と首を振って否定した。

 だって……いつもの事だもん。 聖南とのエッチが長いのは。

 しかも最近では、俺も聖南を責められなくなってる。


「なんで? 俺が抜かなかったからやめらんなかったんじゃん。 葉璃眠そうだったのに」
「いや、その……だって、……あんまり覚えてないんですけど、……途中から俺も「もっと」って言ってた気がします……聖南さんが抜かないようにしがみついてたりして……むっ」


 思い出すと、せっかく冷めてきたほっぺたがまた熱くなってきた。

 話してる途中だったのに、手のひらで俺の口を塞いだ聖南とサングラスの向こうで目が合うと、もっと照れる。

 前までは「聖南さんはエッチがしつこい。長い」って文句を言ってた俺も、聖南のペースに慣れてきちゃって……最中はたくさんせがんでた。

 素面ではとても言えないような事を、たくさん……。


「それ以上かわいーこと言うな。 ムラムラすっから」
「………………っ」
「俺、マジで気を付ける。 気を付けてたつもりだけど、これからはもっと気を付ける。 葉璃の体のことちゃんと考える。 ……ちゃんと、控える。 ……我慢する」
「聖南さん……」


 手を握られて神妙にそう言われると、「気にしないでください」なんて言えなかった。

 エッチのし過ぎで寝不足がたたって、今日だって聖南にも周りにもいっぱい迷惑かけてしまった。

 炎天下でのロケ見学だったから──そんなの理由にも言い訳にもならない。

 現に仮眠を取った今すごく頭の中がスッキリしてるし、体も軽い気がする。

 聖南だけが責任を感じなくてもいいとは思うけど、俺とのエッチを我慢するって自分から禁欲発言した聖南の決意に感動してしまった。

 俺はチョロいのかもしれない。

 こうやって俺の事を第一に考える誠実なところを見せられると、聖南のカッコ良さに拍車が掛かる。


「嬉しいです。 聖南さんが俺の事を思ってそう言ってくれるの、すごく……。 でもあんまり我慢し過ぎないでくださいね。 禁欲のあとの聖南さんって本物の獣みたいなので……」
「け、獣……っ? 俺そんなにがっついてる?」
「……はい。 いやでも、禁欲とか関係ないかもですね。 たまに息が出来なくて苦しい時あります。 聖南さんいつも激しいし……なかなかイってくれないし……水分補給は唾液だし……トイレも行かせてくれないし……でも俺のこと気持ち良くしようっていうのは伝わるんですよね。 実際にとっても気持ちいいし……終わったらほぼほぼ歩けない事多いのは困るけど……お風呂連れてってくれて全部洗ってくれるから好きだなって思います……シーツも変えてくれるし……眠たいって言ったら背中トントンしてくれるし……」
「ちょっ、ちょっと待て。 葉璃ちゃん落ち着け。 俺とのセックス思い出してんだろ、今」
「えっ……?」


 思い出してたよ、もちろん。

 だからいま聖南のこと見られないんだよ。

 俺がいつも思ってる事を指折り数えてみると、とんでもないエッチをする彼氏みたいに聞こえるけど、俺にはこれが普通でこうじゃなきゃいけない。

 禁欲なんて、らしくない事しなくていいよ。

 聖南にそう言おうと思っても、今日を振り返るとやすやすとは言えないのがツラいところだ。

 困り顔の聖南をチラッと見てみると、サングラスを外して前髪をかきあげていた。

 カッコいい。

 俺の恋人がどうしようもなくカッコいい。

 何気ないその動作がスローモーションに見える。


「だからな、葉璃ちゃん……そういう事言われると俺ムラムラしちゃうんだって。 外でそんなかわいー事言うの禁止。 ムラムラしたってなんも出来ねぇじゃん……」


 大きな手のひらで両頬をぶにっと押されて、とんがった唇のまま俺は聖南に言った。


「……か、隠れてしゅるキスって、興奮しましぇんか」
「しましゅ」


 俺の口調を真似た聖南の即答に、自分で誘っておきながらのぼせ上がった。

 車の後部座席。 エンジン音だけが響く密室空間。 アイドル同士の秘密の密会。

 覆い被さるようにして、聖南が俺の唇を奪う。

 禁欲の決意が揺らぐくらいには、興奮するでしょ。




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...