189 / 601
18♡心構え
18♡4
しおりを挟むテレビ局のスタジオだろうが、屋外の特設ステージだろうが、今日みたいな大っきい会場でたくさんの人を前にするステージだろうが、本番中全部同じ気持ちになれるってすごい事なんだっていうのを、俺はつい最近知った。
何回ステージに立っても、歌ってる時、踊ってる時に無になるのは変わらない。
出番直前は頭の中が真っ白けになって誰とも意思疎通できない……というかしたくない状態なのに、震える足でステージの上に立ってイントロが流れると、それまでが嘘のように目の前がキラキラになる。
それまでは繭の中に居るみたいなんだよ。
暗くて狭い場所で、人の声がすごく遠くに聞こえる感じ。 それは俺が、楽屋の隅っこでいじいじしてるからなのかもしれないけど。
今日のLilyの出番だってそう。
聖南が創ったメロディーがイヤモニから流れてくると、途端にパァッと視界が開けて、それに合わせて体が自然と動いてくれるこの感覚は未だに不思議だ。
ちなみにイヤモニっていうのはイヤーモニターの略で、こういう大きな会場では必須アイテムだったりする。 聴きやすいように調整された楽曲が正しく聴こえて、かつ会場の大音量で耳に不調をきたさないためのものだ。
今日のETOILEは、一周年って事もあってデビュー曲である「silent」の披露のみだった。
先月の生特番より出演者さんが多いから、まだまだ駆け出しの俺たちはセンターステージへの移動も今日は無かった。
振り付けをしながら、メインステージの上手と下手を行ったり来たりするのはドキドキしたけど、すれ違いざまに恭也が毎回視線を合わせてくれて助かった。
そしてなんと言っても、会場が赤と青の光で埋め尽くされる圧巻の光景は何度見ても涙が出ちゃいそうになる。
温かくて綺麗で、期待に満ちた美しいお星様がいっぱい。
恭也に熱狂してるお客さん達の表情も、ステージからは案外見える事にも最近気付いた。
緊張するなら目の前をじゃがいも畑だと思え、……なんて言ってた聖南の助言は、実は今もまだ理解不能だったりする。
「ハル君、恭也、お疲れー!」
「お疲れ。 ハル、恭也」
「あっ、ケイタさんとアキラさん……!」
「お疲れ様、です」
本番を終えた俺は、いつもの事ながら足がガクガクするから恭也に支えられて楽屋に戻った。
廊下で待っててくれた林さんも一緒に中へ入ると、ついさっきまでETOILEの楽屋だったここがCROWNの楽屋に様変わりしていて、衣装を着た長身のお兄さんが二人増えていた。
「俺たちも七組あとだから呼び出しあって、ちょうどいいからここ貰ったんだ。 スタッフの手間も省けんだろ」
「あ、あぁ……そうなんですね」
恭也から聖南へ、俺が引き渡される。 二人はいつもこれをすごく自然にやってのけてるけど、聖南と恭也は何かそういう契約でも結んでるのかな。
「あと五分もせんとダンサーも到着してここに待機って事やから、この楽屋が鮨詰め状態になるなぁ」
そうなんだ。 珍しい。
CROWNはどこに行っても特別待遇なのかと思ってたけど、会場によってはそういう事もあるんだ。
ルイさんが居るからこの場で俺をぎゅって出来ない聖南が、ちょっと不満そうに見えるんだけど気のせいかな。
「葉璃お疲れ」って耳元で囁くのやめてほしい。
ただでさえ膝がプルプルしてるのに、聖南の声聞いたら体に力が入らなくなっちゃう。
「ハルポン、恭也、お疲れさん。 二人は林さんが送るんか? 出番後なら俺送ってやれるけど?」
「いや……僕は恭也くんをホテルに送って事務所に戻ります」
「え? じゃあハルポンはどないするん?」
何となく気まずい空気が流れる中、ルイさんが俺と恭也と林さんを順番に見た。 アキラさんとケイタさんと成田さんは、ルイさんを見てる。 聖南はジッと俺を凝視してるから論外。
ここで事情を知らないのはルイさんだけで、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。
だって俺は当然聖南と帰るもんだと思ってたし、恭也は待機してたホテルにそのまま泊まって明日の撮影に行くって言ってたから……。
「葉璃は俺が送るよ。 親戚だし、な?」
「あ、は、はい、っ……すみません、面倒かけます」
「プフッ……!」
「…………ッッ」
「あぁそうか」と頷いたルイさんと、したり顔の聖南、慌てて話を合わせる俺。
そんな俺たちを見ていたアキラさんとケイタさんが、なぜか同時に背中を向けてクスクス笑った。
ルイさんがダンサーさん達を迎えに行って席を外してる間、話が見えなかったらしい恭也にコソッと問われる。
「───ねぇ、葉璃。 親戚って、何の事?」
そうだ。 何日かに一回しか会えない恭也には、このこと話してなかったんだっけ。
クスクス笑ってたアキラさんとケイタさんはもう知ってると見て間違いないから、恭也にも話しておかないとね。
「えっ、あ……実は、……」
……俺が下手くそな説明を恭也に耳打ちした直後。
「ぷっ───! ふふふふっ……ッ」
ネクタイを緩めながら真剣に聞いてくれてた恭也が、両手で顔を覆って声を殺して爆笑した。
何? なんでそんなに笑うの?
背中向けて肩揺らしてる、お兄さん二人も。
「ね、ねぇ、恭也? そんなに可笑しい? 面白い?」
「えっ? あぁ、ごめんね、……おもしろい」
「なんで!?」
「セナさんと葉璃が、親戚なんて……。 しかも、兄弟とか、従兄弟とか、そういう明確なものじゃ、ない。 〝親戚〟……」
「分かる~! 俺も聞いたとき笑っちゃったよー!」
「絶妙なんだよな。 そこまで近い血縁ではない、みたいな」
「ふふふふふ……っっ」
いやいや、そんなに笑う事かなぁ?
何ヶ月かに一度くらいしかお目にかかれない恭也の爆笑が見れて、俺は嬉しいけど……複雑だよ。
アキラさんとケイタさんが同調するから、余計に笑いを堪えきれてない。
事情を知った成田さんと林さんまでクスクス笑ってるし……。
聖南、どう思う?って振り返ってみると、聖南はそのクスクスには参加せずまだジーッと俺を見ていた。
書斎でパソコンに向かってる時と同じ、すごく集中してるような真剣な表情だ。
「……聖南さん……?」
「あ? あぁ……悪い。 さっきのヘソとケツが頭から離れなくて」
「えっ!?」
「なんか……葉璃のこと見てるだけでイけそう」
「えぇっ!?」
何言ってるの、聖南!!
聖南の真剣な顔は怒ってるように見えるんだから、そういう紛らわしい想像しないでてほしいよ!
しかもとんでも発言まで飛び出した事で、出番後の手足のプルプルとドキドキが一気に消えた。
「なぁ、〝親戚〟のお兄さんとやらしい事しよっか?」
「~~~~!? 聖南さんっ!!」
聖南……完全に変なスイッチ入っちゃってる。 ここがどこだか分かってる?
俺たちにとっては神聖なステージの裏側に居るんだよ。
今から七組後……約一時間後には会場中のお客さん全員を大熱狂させるCROWNのリーダー様が、まさかこんなとこで瞳をギラギラさせて恋人に盛ってるなんて。
「……今日もセナとハルは平和だな」
「ほんとほんと」
「葉璃、怒ってる。 可愛い」
───三人とも、心が広過ぎるよ。
顔を真っ赤にして目をウロウロさせてる俺の方が変みたいだ。
肝心の年上の恋人は、「ルイが戻るまで食べさせて」とか言いながら首筋をはむはむしてくるし。
俺は、……どうしてるのが正解なのかな。
10
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
元アイドルは現役アイドルに愛される
陽
BL
人気アイドルグループのエースだった奏多は事故により脚を怪我し、グループを脱退する。エースの抜けたグループの人気はみるみる下落し、そのまま解散。そのことに責任と罪悪感を感じた奏多は芸能界の表舞台から引退し、正体不明の作曲家Kとして裏で支えることに。
罪悪感からご飯を食べなくなった奏多の肌は痩せこけ、青白くかつての輝きはなくなっていた。
ある日の打ち合わせでかつてのグループメンバーである颯真と再会する。
メガネとマスクをしているがかつてのメンバーのことは騙せない。
『奏多、会いたかった』
『僕、奏多さんのパフォーマンスを見て、人生変わったんです!』
やけに自分に懐いているワンコ系の後輩リオと、かつてのグループのメンバー颯真に受け止めきれない愛を向けられる話。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる