202 / 632
19♣夢 ─SIDE ルイ─
19♣7
しおりを挟むセナさんに頭下げて、恭也とハルポンにも頭下げて、まだ顔がブチキレてる大塚社長とスーツ五人組にも「お疲れっした」と声を掛けた。
ハルポンから貰ったペットボトルを手に、一人でエレベーターに乗り込む。
こないだのダンス試験では二時間以上費やしたのに、今日はたった十分ほどやった。
これで人生が変わるかもしれんって考えると、マジでスゴイよなぁ。
一階まで降りてく間、なんの気無しに腕時計を見る。
まだ昼メシ食うてもええ時間やんか。
「まぁな……必死になる気持ちは分からんでもないねんけど……」
密室にひとりぽっちになると、得意の独り言が出た。
この業界を目指すからには、有名になりたい、金持ちになりたい、その辺りの夢を持ってる連中の欲深さは理解出来ん事もない。
しかも知名度もバックアップも抜群のETOILEには、何としてでも加入してあやかりたいと思うのが普通や。
けど、俺が釈然とせんかったのはそこやと気付いた。
夢を追うのは結構。
ただし今回はETOILEの新メンバー加入オーディションやろ。 恭也とハルポンと一緒に夢を追って行くんじゃあかんのか。
俺が聞いてた立派なおべっかスピーチの中身の一部は、どれもこれも自分の希望とする夢を語ってはった。
誰一人として、"二人と踊りたい"、"二人と歌いたい"、"二人と夢を叶えたい"、そういうのんが無かった。
まだETOILEはデビューして一年や。
だからこそ一緒に創り上げていけるんちゃうの。
なんで自分の夢ばっか追ってるんよ。 誰かを蹴落とそうとするヒマがあるなら、ETOILEの出演番組を手当たりしだいに見たらええのに。
二人の良さは、バラエティーでも音楽番組でもナチュラルに出てるっちゅーの。
「……ルイさん、……っ、ルイさん、……なんで……? 俺、ひっぱたくって言ったのに……」
「うわっ、ビビッたー! ハルポン上に居ったんやないの? どっから降りてきたんっ?」
エレベーターの扉が開くと、目の前にどんよりと黒い雲を背負ったハルポンが居った。
「非常階段から……」と呟くハルポンに、そうかと返事をする。
ハルポン……足が速いねんな。 しかも全然息切れしてないやん。 凄っ。
「ほんまごめん。 ひっぱたいてもええよ。 でも熱入れて歌うたから自信はあるで、俺」
騙されてしもたから言うても、実際に遅刻してもうたのは俺や。
ここは潔くひっぱたかれようやないの。
デカい事務所の一階ロビー、奥まった位置にあるとはいえエレベーター前で目立つのはどうかと思たが、ハルポンの気が済むならと俺は屈んでほっぺたを差し出した。
なんかハルポンが泣きそうやねんもん。
俺が朝イチでハルポンに連絡して確認取っときゃ、こんな事にはならんかったのに。 こんな可哀想な顔させんかったのに。 ……そう思うと、ひっぱたかれても足らん。
心が痛い。
「……それはっ、……もちろん歌声もリズム感もやっぱり皆さんと全然違いましたけど……でもちょっと……」
「なんや」
「ルイさん、……プロ意識足りなさ過ぎませんか……? 俺がこんなこと言うと生意気だしぶん殴りたくなるかもしれないですけど、まさかお昼寝してるなんて……」
ん、と差し出した顔をグイと押された。
ひっぱたくつもりはないらしい。
プロ意識も何も、俺はそんな大それた人間やないんやけどな。
CROWNのバックダンサーしてるって時点で、そうなんのか?
ハルポンの言うてる意味を分かりかねたが、どこのどんな仕事でも大事なシーンでの遅刻はヨシとされんのが常やから、納得はする。
「……そやなぁ。 何も反論はございません」
「ルイさん、ふざけないで」
「ふざけてない。 ちょっと悔しいから意欲湧いてきたし」
「……悔しい? どういう意味ですか……?」
「ハルポンをガッカリさせてすまんかった。 マジで、……二度とこんなこと無いようにするわ」
「ほんとですか……? 俺、ルイさんのこと贔屓してるって思われるの嫌なんです……ルイさんが本気になってくれないと、俺……ルイさんと一緒に踊れないじゃないですか……」
えぇ……そないなこと言うてくれるん?
こないだ一晩中俺のこと考えてくれてたって、あれやっぱマジやったんかな。
ハルポンにここまで言わせて、奮起せん俺やないよ。
贔屓してるなんて、誰にも言わせん実力見せたるよ。
……この遅刻が選考に響いてないとええけどな。
「ハルポン可愛いこと言うなぁ。 キュンや」
「またふざけてる……」
「ふざけてないって、……」
「──葉璃」
「あ、……聖南さん、恭也……」
向かい側のエレベーターから颯爽と降りてきたんは、セナさんと恭也。
この二人は俺を、ではなく、ハルポンを追ってきたんやろな。
「恭也、セナさん、今日はほんまにすみませんでした。 次回があるかは分からんですけど、こんなこと二度と無いようにします」
「あぁ、そうしてくれ」
「……お願い、します」
筋を通しとかんとどうも気持ち悪くて、二人にはもういっぺん頭を下げた。
セナさんと恭也は、上のスーツ集団よりも穏やかや。
遅刻なんて許せるか!て怒鳴られるかと思たんやが……特に芸歴の長いセナさんには。
二人からハルポンに視線を移した俺は、腕時計を見ながら頭にスケジュール表を思い描く。
前回の試験のとき同様、明日の仕事の確認をしようとしたんやけど……。
「ハルポン、明日は午前フリーで、午後は……」
「十三時から取材二件と十六時から打ち合わせ、ですよね」
「そうや。 スケジュール完璧に覚えてて偉いやん」
「……ふふっ。 ルイさんにも教えなきゃいけなくなりましたね。 今日みたいなことがあったら大変」
「もう言わんでくれ。 ドロドロな感情に巻き込まれて反吐が出そうなんや」
「…………え?」
「それじゃ、俺は失礼します」
しもた、また口が滑った。
誤魔化すためにハルポンのやらかい髪の毛をくしゃくしゃに掻き回して、二人に会釈した俺は裏口へと早歩きで向かった。
「なんでやねんっ」
地下駐車場に駐めてあった車内は冷気が残ってて、乗り込んですぐこう喚く。
なんでや。 なんでや。
なんで、ハルポンには何でもかんでも言うてしまいそうになんの?
10
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
灰の底で君に出会う
鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。
それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。
これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる