狂愛サイリューム

須藤慎弥

文字の大きさ
217 / 632
21♡強欲

21♡2

しおりを挟む



「ぅわ、ちょっ、恭也……っ?」


 恭也の右手が、今度は俺の目元を隠して前が見えなくなった。

 これ……誰かが入って来たら絶対ヘンに思われる。

 恭也が、自分と俺の視界を遮ってさらに溜め息を吐いた。


「この際だから、白状する。 葉璃が、セナさんと付き合ってるって、聞いた時。 俺、すごく嫌だった。 葉璃を、取られたって、思った」
「え、……っ?」
「今はもう、そうは思わないけど、あの時はほんとに、……一人で焦ってた。 俺から、葉璃が、離れていくんだって。 葉璃のことを、一番分かってるのは、俺なのにって」
「恭也……」
「俺は、セナさんには、何もかも敵わない。 だから今、二人を幸せな気持ちで、見てられる。 でも今度は、ルイさんが現れた。 それだけじゃない。 加入するメンバーは、あと三人も、居るんだよ。 俺はどんどん、葉璃の中から、消えていっちゃう」
「……そ、そんな事……」


 ……恭也……そんな風に思ってたの? 焦ってるって、そういう意味だったんだ……。

 瞳が物凄く悲しそうだったのは、親友の位置が脅かされそうな不安を感じてたから……?


「……恭也、手おろして」
「嫌。 俺いま、すっごく情けないこと、いっぱい言ったから、葉璃の顔、見られない」
「そんなことないってば。 手おろしてくれないと、この親指に噛み付くよ」
「葉璃になら、いいよ」
「なっ……、埒が明かない!」
「いまは、ほんとに無理。 お説教するなら、このままして」
「もう~~」


 なんで噛み付くって言って「いいよ」なの?

 やっぱり、拗ねちゃった男はこうなるんだよね。

 とても身近に似たような人が居るから、こうなるのはなんとなく分かってた。

 恭也と聖南は、考え方がほんとによく似てる。

 拗ねた時にめんどくさいのも、ね。


「じゃあもうこのまま言っちゃうけど、恭也、ちゃんと聞いててね?」
「……耳、塞いでていい?」
「いいよ。 そうしたらこの手、耳にいくもんね。 目を見て話せる」
「……葉璃、頭いい」
「でしょ。 今すっっっごく頭回ってるもん」
「…………声が、怒ってる……」
「怒ってないよ。 恭也から叱られる事はあっても、俺が恭也を怒るなんてあり得ない」
「今がその時、でしょ」


 ……待ってよ。 そのネガティブは俺の特権であって、穏やかそのものな恭也が出していいものじゃない。

 俺への異常な愛情を打ち明けるだけ打ち明けて、俺からのそれは受け取らないつもりなのかな。

 心配してくれてたのも、ルイさんとの内緒話を秘密にされて悲しいって気持ちも、本当は俺じゃなくて恭也の方が〝加入するメンバー〟に複雑な思いを抱いてるって事も、ぜんぶ充分伝わった。

 目を見て不安を拭ってあげようにも、頭ごと抱かれててそれは無理そうだ。

 大きな手のひらで真っ暗になった視界の中、安心を与えてあげられるようにもっと恭也に寄り掛かった。


「どうしたの、恭也。 今の恭也は、焦ってるっていうより拗ねてるようにしか見えないよ。 確かに俺がいけないよ? 恭也に内緒にしてる事があるなんて、俺が逆の立場だったらめちゃくちゃ嫌だもん。 でもね、今はほんとに言えないんだ。 恭也だから内緒にしてるんじゃないよ。 これはルイさんのプライベートに関する事で、本人の承諾もナシに俺がベラベラ喋っちゃいけないって意味。 ETOILEにも俺にも恭也にも、全然関係ないことだよ」
「……そうなの? 俺を除け者に、してるわけじゃ、ない?」
「してないってば! なんで俺が恭也を除け者にするんだよ! 聖南さんの次になっちゃうけど、恭也は大切な親友で、大好きな人なんだよっ?」


 ここまで根暗発言を連発された俺は、目元を覆っている恭也の手のひらに自分の手を重ねて息巻いた。

 傍から見ればすごく可笑しな光景だと思う。

 万が一聖南に見られたら、いくら恭也相手でも間違いなくヤキモチ焼かれちゃいそうなくらい密着してるんだから。

 でもほっとけないよ、こんなにネガティブな恭也は初めてなんだもん。

 もっと余裕があるときの恭也なら、絶対にこんな思考回路にはならない。


「……ほんと? 葉璃、俺のこと、まだ好き?」
「好き! 俺にとって恭也は、二番目に大事な人!」
「…………葉璃……」


 勢いに任せて俺も気持ちを告げると、ゆっくり手のひらを外してくれた恭也が眩しそうに俺を見た。

 数分間暗闇に居た俺も、白む視界の中に恭也を捉える。

 ビックリするくらいお互いの顔が近かったけど、二人とも驚く事もなく全然気にならなかった。

 だって……〝まだ〟ってどういう事? 俺は恭也と出会ってから、ずっと好きだよ。

 何かから身を隠すようにいつも猫背で、誰にも素顔を見せたくないって暖簾みたいに前髪伸ばして、面白味のない根暗な俺の隣でゆっくりゆっくり世間話をしようとしてた頃から、ずっと。

 今や成長著しい恭也は、俺にとって精神的な面で大きな支えになってる。 それは恭也が、俺を引っ張るために努力を重ねた結果だ。

 甘えてる俺もよくないんだろうけど、恭也には分かっててほしい。


「やっと目が合った」
「葉璃、俺も好き。 俺は、葉璃のこと、一番に好き。 葉璃が俺のこと、嫌いになったら、生きていけない」
「……そこまで?」


 目を細めたまま、恭也が俺の両手を握るために体ごとこちらを向いた。 動きに合わせて、革張りのソファーがキシキシッと音を立てる。

 せっかくの強面イケメンが台無しだよ、恭也。




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

灰の底で君に出会う

鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。 それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。 これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

処理中です...