220 / 632
21♡強欲
21♡5
しおりを挟む意見を聞きたいって、どういう意図なんだろう。
最終選考に残った候補者の人達についてどう思ってるかを知りたいのか、メンバー加入後のETOILEが五人体制になる事についての気持ちというか、意気込みを知りたいのか……。
不敵に笑っただけの社長さんの思惑を全員が探るように、社長室の時が止まる。
意見、って言われてもなぁ……。 選考基準はみんなそれぞれバラバラだろうし、そもそも俺は誰かを選ぶような立場の人間じゃない。
この先のETOILEを長い目で見た時、誰となら馬が合いそうかとかそんな風にしか見られないんだよ。
明日の歌唱試験はアップテンポとバラード、両極端な二曲で選考していく。
前回と違ってレッスンスタジオでの歌唱だから、候補者と選考人全員の前で見られながら歌う緊張感を跳ね除けないと、思うように声が出なくなる。
通常はレコーディングスタジオでの本格的な試験が最後に行われる事が多いらしいけど、今回逆なのは聖南とスタッフさんがあえてそうしたんだって言ってた。
俺は正直、もう少し候補者の人達の人となりを見たかった。 それをちょっと前に聖南に溢した時、「そのためだよ」と言われて首を傾げた事を思い出す。
極端な話、明日の歌唱試験でそれが見えるだろう事を見越して、聖南もETOILEに関わるスタッフさん達も実力の伴った人格者を仲間にしたいと考えてるんだ。
専門的な事で判断出来ない俺は、ただその考えに乗らせてもらってる、だけ……。
「さて。 まずは三人から伺おうか」
ズズッとお茶を啜る社長さんは、今の沈黙なんか大袈裟だってくらい口調が淡々としてる。
肘置きで足を組んだ聖南が、その台詞に片目を細めて「うわ……」と呟いた。
「……事情聴取みてぇ」
「セナ、事情聴取された事あるの?」
「あるに決まってんじゃん。 あ、でも一回だけな? 俺その場に居ただけなのにしょっぴかれてさ。 そん時マジで社長みてぇなツラの奴に……って、無い無い! 無いからな、葉璃!」
「えっ、なんで俺に……!」
ケイタさんと会話していたはずなのに、いきなりこっちを向くからビックリした。
一瞬だけ、なんで〝社長さん〟と〝事情聴取〟が結び付くのかなとは思ったけど、当たり前じゃん、って苦笑する聖南を見てたら納得だ。
取り繕って、俺にいい格好しようと慌ててる方が逆に変なのに。
「昔の聖南さんならあり得る話ですし、今さら驚きません。 それとも……俺に嘘吐きたいですか?」
「うっ……」
「聖南さん、俺は聖南さんの過去のヤンチャについて何か言った事なんて無いと思いますよ? どう見ても嘘って分かる嘘を吐かれる方がイヤです」
「だ、だよな、そうだよなっ? ごめん、葉璃ちゃん! あのな、俺……一回だけ社長みてぇなツラの男に事情聴取された事あるんだ。 でもこれだけは言える! 俺は断じて、警察の厄介になるような事はしてねぇからな? ちょっとやり過ぎた喧嘩はあったかもしんねぇけど、それは十年も前の事で……っ」
「ふふっ……」
慌ててる、慌ててる。
俺は、こっちの正直な聖南の方が好きだよ。
驚かないって言ってるんだから、それ以上何も話さなくていいのにどんどんボロを出す。
顔の前で両手を合わせて〝ごめん〟のポーズをした聖南を見てると、謝る必要のない事でこんなに必死になってる姿が愛おしくてつい笑ってしまった。
「………………」
「………………」
ここがどこだかも忘れて、どちらからともなく見詰め合う。 お互いの視線には「会いたかった」を乗せて、無言の会話をした。
「ゴホンッ」
「ゴホンッ……割って入って申し訳ないが、私のコレは事情聴取ではないぞ」
アキラさんと社長さんが同時に咳払いした事で、俺達は瞬時に二人だけの世界から還ってくる。
いけない……気心知れたみんなと居ると、すぐこうなっちゃう。 俺の頭を撫でた聖南も、「分かってるって」と悪びれずに笑った。
「気を取り直してもう一度聞く。 アキラ、ケイタは最終選考に残った候補者らを見てどう思った?」
「んー、……どう思ったか、ねぇ……」
「俺達の選考基準言っていいの?」
「あぁ。 ハルと恭也をデビュー前から支えてきたお前達が一番、最終オーディションのみに関わる重要性を感じているはずだ」
アキラさんとケイタさんは、まるで両極端な風貌で「うーん」と唸っている。
社長さんの言ってる事がふわふわしていて掴めない。
今それを聞いてどうなるのかな。
ここでの話は誰にも漏らさない、選考には響かないと言ってたけど……社長さんは一体、俺達からどんな言葉を聞きたいんだろう。
「じゃあまず俺から」
最初に口火を切ったのはアキラさんで、俺と恭也がさっきまで見ていたノートパソコンを指差した。
「このオーディションが始まる前から俺が思ってたのは、ハルと恭也がこの一年で築いた土台を崩さない人がいいってこと。 二人の存在感を打ち消すような人は要らねぇ」
「ほう……候補者にそのような人物が居る、という事か?」
「そこまで言及はしない。 ただ俺は、最終選考に参加はするけど二人の意見を最優先したい。 もちろんスタッフもセナもそのつもりで居ると思うけどな。 俺はもっと、第三者寄りのスタンスでいかせてもらう」
言い終えたアキラさんが、恭也と俺を順番に見て優しく微笑んでくれた。
アキラさんとは、デビュー前……いやそれよりちょっと前から面識があったけど、その時からずっと印象が変わらない。
聖南の次に芸歴が長くて、メディアでもCROWN三人の長男役を担ってるだけあって、俺達にとってもほんとのお兄ちゃんみたいだ。
スーツや警察官役がよく似合うクールなお兄ちゃんは、実は聖南の次に俺を甘やかすのがうまい。
「……ふむ、なるほど。 ケイタはどうだ?」
「うん。 今頃それ言う?ってこと、ぶっちゃけていい?」
続いて、社長さんの視線がケイタさんに移る。
すると何やら爆弾発言を予感させる台詞に、ケイタさんのやわらかな声色とは反対に社長室の空気がピリついた。
10
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
灰の底で君に出会う
鮭茶漬け
BL
両親を亡くした高校生、神崎透は叔母の家に引き取られて暮らしている。しかしその家は、家族と呼べる場所ではなかった。家事、雑用、そしてバイト。どれだけ働いても感謝されることはなく、透は「穀潰し」と呼ばれながら日々を過ごしていた。
それでも透は思っている。ここに置いてもらえるだけでありがたい、と。
これは――居場所を持たなかった少年が、初めて愛を知るまでの物語。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる