狂愛サイリューム

須藤慎弥

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23♣悲嘆と希望 ─SIDE ルイ─

23♣9

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 わりと長身な俺よりさらに何センチか上にある視線が、もの言いたげやった。

 キョロキョロと辺り見回して、無人なんを確認すると小さく息吐いて呟く。


「俺が葉璃に言い寄ってる、ねぇ……」
「ハルポンはよう言いませんでしたけど、なんか……なんかこう、モヤっとするんです」


 これまでの事を辿っていくと、セナさんの行動は俺の推理通りやったらピタッとハマんねん。

 一回思い込まされると〝まぁ親戚やしな〟で勘繰りもせん。

 でも今考えたらおかしな事ばっかりや。

 家まで送るて言い続けてる俺に、頑として自宅を教えてくれんハルポン。 実家とか春香ちゃんの事とかそっちのプライベートな話は饒舌やのに、デビューしてから住んでる場所とかセナさんに送り迎えしてもらう事になった経緯はしどろもどろやった。

 CROWNとETOILEの出番が重なった時も、やけにETOILE……ハルポンとの接触機会が多かったし。

 昨日の電話の一件知ってしもたからには、親戚やから、の一言では済まされんやろ。

 黙って一点を見つめてる、あんまりにも芸能人らしい綺麗な横顔をずっと拝んでた俺を、ようやくセナさんが見返してきた。


「こんな時に聞くのも何だけど、ルイはETOILEの加入をどう考えてんの? ちょっと前に聞いた時は全然その気無かったじゃん。 オーディションへのモチベーションも正直褒められたもんじゃなかった。 まぁ……こういう事情があったからってのは今だからこそ分かることなんだけど」
「お、俺、……? なんで俺のETOILE加入がそれに関係あるんすか? 今答えなあかん事っすか?」
「ほんとの事知りてぇなら、今答えてほしい」
「……俺、は……」


 まさか質問返しされるとは思ってもみんかったな……。

 申し訳ないけど、昨日のダンス試験が無しになってちょっとホッとしててん。 だって……あの時の心境では実力の半分も出せへんかったやろ。

 オーディション落ちました、しゃあないですね、そんなあっさり諦められるような生半可な気持ちではもちろん居らんけど、俺より相応しいと判断された人が加入する事に対しては〝しゃあない〟と思う。

 そやかてやっぱり試験もせんと落とされるんは納得いかんから、オーディションの事は諸々済んだあとに直談判しに行こと思てた。

 昨日はハルポンもずっと俺と一緒に居ったし、事情知ってる社長のお達しなんか俺のスマホは一回も鳴らんかった。 て事は、俺もハルポンもあの後ダンス試験がどうなったんか分かってない。

 ……どういう事なんやろ。

 オーディションの指揮を取ってたセナさん直々に、加入の意思を聞かれたんは初めてやないから……つい深読みしてまうな。

 ここでの俺の返事が、審査を左右したりするんやろか。

 まぁ、今の俺の気持ちなんか一択やけど。

 一瞬悩んだんは、俺の加入の意思と二人の真実が等価交換になり得るんか分からんかったから。


「俺は……ハルポンと恭也が受け入れてくれるんなら、仲間になりたいです」
「……分かった。 とにかくしばらくはおばあさんの件で忙しいだろうけど、明日の午後一時間だけ時間作ってくれ」
「はい、それはええですけど……」
「俺と葉璃の関係なんだけど。 それは見て察してくんねぇかな?」
「えぇっ? そりゃナイっすよ!」
「どこで誰が見聞きしてるか分かんねぇんだ。 こんな廊下でぶっちゃけらんねぇよ。 勝手に喋ったら俺が〝ハルポン〟からキレられるし」
「…………っ?」


 そんなん等価交換でも何でもないやん。

 見て察しろって、あれ以上何を見てたら真実に辿り着くんよ。

 俺の呼び方を真似したセナさんは、意味深な薄ら笑いを浮かべてフィッティングルームの扉のノブに触った。

 ハルポンからのヘルプの声がせんかったのに、勝手に突入するらしい。 それも、セナさんやったらええんやろか。

 あかん。 どうしても思考がそっちに引っ張られてまう。


「あ、でも一つだけヒント教えとく」
「ヒント?」


 突入間際に俺を振り返ってきたセナさんは、また何かのCMみたいに人差し指を口元にあてとった。

 なぞなぞやあるまいし、と思いつつ反射的に聞き返してしもたが、それは多分、俺がマジで真実を知りたいと思てたからやろな。


「俺は、〝ハルポン〟さえ居れば何もかも失ったって構わねぇ」
「なっ!? そ、……それって……!」
「そういう事」


 フッ……て。 その不敵な笑みはハルポンの上目遣い並みに凶悪ですけど、セナさん。

 突入してもうた扉が、俺の前で無情に閉まる。

 中で何が行われてるんや。

 どんな会話が繰り広げられてるんや。


「と、とりあえずばあちゃんとこ戻ろか」


 誰にともなく呟いて、さっさとばあちゃんの棺がある部屋に戻った。

 これが最後になるやろう線香を足して、眠ってるばあちゃんの冷たい手に触れる。 落ち着こう思て触ってみたんやけど、あんまり効果は無かった。


「そんなら触るなや!て怒号が聞こえてきそうやな。 気色悪いまで言われそ……」


 はぁ……。 なんや分からんが気が抜けて、その場にしゃがみ込む。

 だってな、ばあちゃん。 俺の推理合うてた。

 とんでもない特ダネを知ってしもたんよ。

 セナさんの恋人居ます宣言の時、悪態つきながらこっそりショック受けてたん知ってるから信じたくないかもしれんけど、あれほんまやったわ。


「………………」


 セナさんの特別大ヒントで、すべてを察してもうた。

 あの口振りは……セナさんだけが一方的に迫ってるわけやない。

 セナさんの名前にハートマークを付けとったハルポンも同じ気持ちやっちゅー事で、二人の関係はもしかして──なんか。


「あー……そやからセナさん、俺に加入の意思を聞いたんか」


 仲間になるなら、この大スクープ教えたる。 そういう事?

 信用してもらえたんは嬉しいんやけど、にわかには信じられん話やで?

 あの、あの、あの、あの、あのセナさんが、ハルポンと付き合うてんの? トップアイドルと新人アイドルが? そんな衝撃的なニュース、俺はどう受け止めたらええの?

 そして俺は男の子やから、まず一番に無粋なこと考えてもうたけどしゃあないよな?



 もしほんまに付き合うてるんなら、二人はセックスした事があるんやろか……男同士やで?……って。




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