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25★ゴシップ2 ─SIDE 恭也─
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道が混んでいて、局に到着するまで一時間はかかってしまった。
道中、一度葉璃から「まだ?」と待ちこがれている様子のメッセージを受け取り、「もうすぐだよ」と返事を返した俺はとても気分がいい。
水瀬さんの話をどこかで聞いたような気がするというモヤモヤは、胸の中に秘めておく事にした。
売り出し中の若手俳優に彼女が居て、さらに同棲していて、さらにさらにDVの加害者として警察沙汰にまでなりかけた……なんて話、聞かないでいたかったよ。
そんなとんでもないスキャンダルを部外者中の部外者である俺が知ってしまったので、万が一世間に漏れてしまうといけない。
今夜の寝床は決まったのかな、という余計な心配はしない事にした。
林さんの運転で局に到着し、警備員の目や受付の女性も軽やかにスルーする。 楽屋の場所だけ確認して、林さんと共にエレベーターに乗り込んだはいいが昇降さえ焦れる。
四階の廊下を早足で進み、〝ETOILE〟と書かれた張り紙の楽屋を発見した。
葉璃が中に居るというだけで、はやる気持ちを抑えられない。
「葉璃ーっ」
「……っ、恭也!」
ルイさんの隣に掛けていた葉璃が、俺の声に勢い良く振り返り、迷い無く短い距離を走り寄ってくる。
あぁ……たまらない。 可愛い。
この瞬間、いつもセナさんに対する罪悪感が生まれる。
ぴょんっと飛び付いてきた体を優しく抱きとめて、見上げてくる葉璃に笑い掛けた。
「一週間ぶり、だね」
「うん! あれ、恭也また髪型変わった?」
「変わってないよ。 あ……毛先を少し、切ったかな」
「あぁ、それだ! 先週と違って見えるもん」
「スゴいね。 切ったと言っても、数ミリの世界だよ」
葉璃、そんなに些細な違いまで分かるんだ。 ちょっと感動しちゃった。
映画の撮影中、作品によるだろうけれど大多数では髪型や髪色が一切いじれないと聞いた。
今回俺が参加している作品は青春恋愛映画で、ストーリー上そんなに時間軸が変わらないから余計に、シーンが前後しても違和感が出ないよう毛先の微調整くらいで済ませなくてはいけない。
音楽番組で髪型をセットしてもらった時ならまだしも、普通にしていて誤差の範囲を気付いてもらえるなんて、嬉しい事この上ない。
それだけ、俺のことを見ていてくれてるって事でしょう?
心を開いた葉璃はそういうところがあるから、甘えられたり気にかけられたら最後、ガシッとハートを掴まれて囚われてしまうんだ。
高校時代、葉璃と出会ったばかりの俺がそうだったように、今にも俺達の抱擁を引き裂こうとしているルイさんも、きっと……。
「はいはーい、お二人さんイチャイチャはそんくらいにしてや。 俺と林さんはどんな気持ちでおったらええねん」
「お疲れ様、ハルくん」
「あっ、林さん! お疲れ様です」
「えっと……ハルくんだけ、ちょっといいかな」
「……はい?」
挨拶を交わした林さんが、葉璃を手招きした。
車中で「Lilyの件でハルくんに話がある」と漏らしていたので、おそらくその話だろう。 内容までは俺も知らないけれど、緊急との事だった。
ここでは話せないから外へ連れ出そうとしているのに、事情を知らないルイさんは怪訝な顔付きになる。
「なになに? どうしたん?」
「ちょっと内密な話が」
「それ俺も知っとかなあかんのやないん?」
「いえ、大丈夫です。 伝達があるだけなので」
「そんならここでしたらいいやん。 何もよそ行かんでも……」
「葉璃、戻って来るついでに、ミルクティー、買ってきてもらえる?」
「あ、……うん、分かった!」
見るに見かねて、助け舟を出した。 一瞬「えっ」と動きを止めた葉璃も、俺の意図に気付いて頷く。
何せ打ち合わせの時間がある。 急かすのは無理もない。
ルイさんの気持ちも分かるけれど、林さんが葉璃を連れ出そうとしているという事はヒナタの事はまだ内緒なんだ。
……えっと、一旦整理しよう。 ルイさんは二人の関係は知ってるけど、ピンチヒッターの件はまだ知らない……でもルイさんはヒナタに夢中だったような……。
うわぁ、ややこしいな。
「それじゃ少し席外します。 スタッフの方来られたら、ルイくん対応よろしくね」
「……はいはーい」
すっかり拗ねてしまったルイさんの隣に、俺は腰掛けた。
緑茶のペットボトルに手を伸ばしかけて、まずいと手を引っ込める。 退室を促すべく葉璃にアイスティーを頼んだのを忘れてた。
そーっと隣を窺うと、ルイさんはいかにも「ちぇっ」と言いたそうに唇を尖らせている。
そして出た台詞がコレだ。
「……ちぇっ、なんやねん」
あ、ほんとに拗ねてるんだ。 俺やセナさんと同じで、真顔が怒っているように見えるルイさんも表情での感情が分かりにくい。
シャツとジーンズというラフな出で立ちでも、足を組んで腰掛けているだけで華がある。 さすが、この業界に引っ張られただけの事はあるな。
長く芸能界から退いていたらしいけれど、芸歴で言えば先輩に変わりないルイさんと同じグループとして活動していくなんて、未だに信じられない。
葉璃だってそうだと思う。
そういえば葉璃に強くあたっていた時も、ルイさんはこの表情をしていた。
今じゃすっかり、俺が嫉妬するほど仲良くなってる二人だからなのか、ルイさんにとっては〝除け者〟が我慢ならないみたいだ。
そうは言っても、セナさんはこの極秘任務については打ち明けていないらしいから、俺もすかさずフォローにまわるしかない。
あとで葉璃が尋問されたら可哀想だ。 頭から湯気が出ちゃう。
「たまに、あるんですよ。 葉璃単独の、仕事の件で、こういう事が。 そのときは、今みたいに俺も、いつもここで待機です」
「そんなら絶対俺おった方がええやん? 毎日ついて回ってるんやし」
「決定権が、事務所と葉璃にある以上、俺達は居ない方が、いいんです」
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