狂愛サイリューム

須藤慎弥

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26❥ゴシップ3

26❥9

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 少しのあいだ見詰め合った後、葉璃は聖南からゆっくりと視線を外し、徐々に座高が低くなっていった。

 ソファに沈みながら猫背になり、ツンと唇を尖らせ、ぼんやりとアップルティーを見やっている。


「……聖南さん」
「…………ん」
「なんで言ってくれなかったんですか」
「レイチェルに告白された事?」
「そうです。 そんな大事なことは俺に言うべき、だったと思うんですけど」
「……同感。 でもな、慣れない仕事で大変な時にぐるぐるさせたくなかったから……って、言い訳くさいか」
「………………」


 葉璃は会話の時だけ、聖南を見た。

 自嘲気味に笑った聖南に何を言うでもなく、葉璃の視線はまたアップルティーへと戻っていき、本格的な沈黙に入ってしまう。

 結果的に隠し事をしていた聖南には、何の反論も出来なかった。 葉璃のためを思って判断した事が、結局は混乱と動揺を招いているのだ。

 聖南に限ってそんな事はないだろうと信じていた葉璃が、これまでにないほどのショックを受けるのもご尤もである。

 ひどく落ち込んでいるように見えた。

 続けざまに詫びようにも、声を掛ける事を憚るほど。


「──葉璃、頼む。 何か言って」
「………………」
「……葉璃」


 こんなにも重苦しい沈黙は、耐えられなかった。

 葉璃の肩を抱き、無理やり体を寄せ合う格好にしても葉璃は嫌がらず、それどころか聖南の胸にコツンと頭を寄せてきた。

 反射的に払い除けられる事を覚悟していた左手が、恐る恐るやわらかな髪に触れる。

 刹那、葉璃がポツリと呟いた。


「聖南さん……俺、……どうしよう」
「何? 何がどうしよう? 今何を考えてる?」
「あの、……一つしか考えられなくて、……あの……」
「どんな事でもいいから話して。 そもそもそんな写真撮られた俺に落ち度があるんだ。 好きなだけ罵倒したっていい、……けど、これだけは信じてくれ」
「………………」
「俺は葉璃を愛してる。 葉璃に信じてもらえねぇなら死んだ方がマシだって……」
「何言ってるんですか!!」
「…………ッッ」


 詫びるチャンスを与えてくれたと勘違いした聖南に、ギッと鋭い眼差しが近いところから飛んできた。

 その剣幕にたじろいだ瞬間、葉璃は派手な足音を鳴らして立ち上がり、ムッとした形相で聖南の前に立つ。

 迫力に負けた聖南は「えっ」と狼狽した。


「俺は聖南さんを信じてます! 信じるに決まってるでしょ! そこまでしょんぼりするほど、聖南さんは何にも悪いことしてません!」
「……葉璃、……」
「写真が世に出て事実が捻じ曲げられたって、いいじゃないですか! 俺と恭也が世間からどう見られてるか、知ってますよねっ? だから聖南さんも、目くらましになるなーくらいに考えてドンと構えててください! 俺はこれからも、聖南さんとは秘密の関係でいたいんです! その理由は聖南さんが一番知ってるでしょ!?」


 聖南の方こそソファにめり込みたい気分だったのだが、沈黙の間に脳内で状況整理をしていたらしい葉璃が、突如として爆発した。

 知ってるでしょ、と問われた聖南は小さく頷き、勇ましい恋人を見上げる。

 葉璃が何度となく語っているそれは、聖南にとっても大きな原動力となる言葉だ。


「……葉璃が俺の背中を追いかけたい、から」
「そうです!! もし俺と聖南さんの関係がバレたら、世間がどんな反応するのかなんて目に見えてます! 今回撮られたっていう写真が広まるよりも、さらに悪い方に転ぶかもしれないんです! 俺は、……っ、俺は、聖南さんが俺の存在を公表してくれただけで充分幸せなんですよ! そりゃあみんな、聖南さんの相手が誰かって詮索したくなる気持ちも分かりますし! でもそれとこれとは別です! ゴシップ撮られたからって、俺が聖南さんにとやかく言うはずないじゃないですか!!」
「………………」


 この光景を見るのは三度目である。

 他人のためにしか感情を荒らげない葉璃は顔面を真っ赤に染め、唇を震わせながら、およそネガティブとはかけ離れた叱咤を行う。

 聖南は、恋人宣言の相手が葉璃ではない人物で広まる事が許せなかった。 それこそデマだと各方面に訂正して回る気で居た。

 後先考えず、社長には「引退」までチラつかせ憤った聖南である。

 事実無根の情報で葉璃が傷付くのが嫌だった。

 それが原因で聖南のもとから離れていってしまうのが怖かった。


「ねぇ聖南さん。 ……俺、聖南さんが俺のことを毎日、大事に、大切にしてくれてる事くらい分かってます」
「………………」


 一通り言いたい事は言えたと、通常のトーンに戻った葉璃は聖南に両腕を広げた。

 聖南はその腕を優しく掴み、引き寄せる。

 日々の愛情表現がしっかりと伝わっていた事。

 聖南の危惧が杞憂に終わった事。

 葉璃との間に確かな信頼関係が芽生えていた事。

 どれもがたまらなく嬉しくて、言葉を失った。

 自らで聖南の膝の上に戻って来た葉璃が、頼りなげに見せかけたその温かい腕で、ギュッと抱き締める。


「そんな聖南さんが、俺を裏切るはずないです」
「…………っ」
「俺は多分、この世の誰よりも聖南さんの言葉を信じてます。 俺を誰だと思ってるんですか? 熱狂的な〝セナ〟信者ですよ」
「……っ、……」



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